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余命残り5分


 手元の懐中時計は午後十一時五十五分を指している。

 夜空は漆黒の闇に染まっており、空の中央には金色に輝く月が雲の隙間から顔を出していた。


 俺は、見晴らしの良い丘の上に立ち今日だけだとマルクから貸してもらった【賢人の杖】を握りしめている。


 なぜここに俺がいるのか。

 なぜ俺は杖を持ってここまで来たのか。


 やはり生涯の終わりは魔法で締めくくりたかったからだ。魔法は俺の誇りであり俺の生き甲斐であり人生そのものだったから。


 そして、俺は俺の名を歴史に刻みたい。


 魔法を愛したものとして、魔法に生涯をかけたものとして、これから魔法とともに人生を終えたものとして――。



 ――残り三分。



「……。」


 今日は星の降る夜であった。

 魔法ではない、自然現象で流れる星の数々。

 その光景はとても儚げでそれでいて神秘的であった。



 ――残り二分。



「……。」


 マルク。

 いまここにはいない俺の弟子。

 賢者という役目はときに厳しい選択を強いられるとき、現実を見せられる時がある。

 それでも師であった俺の言葉を信じて強く生きろ。



 ――残り一分。



 深い深呼吸を繰り返す。


 杖を空の上へと掲げると巨大な魔法陣を描かせた。


 何重にも重ねられた魔法陣は老人のしわがれた声で紡がれる言葉をしっかりと聞き入れ、空の上で月明かりよりも眩い煌めきを放つ。


 夜空に集まった星は魔法陣に吸収されるように一箇所に集まり、形状をなしていく。


 そこには、夜空を泳ぐように姿を見せるドラゴンの姿が見えた。

 星によって作られているためか、鱗の部分には小さなきらめきが所々ちらついているようである。


 星を操る魔法。


 それは人類の魔法史において誰も成し遂げたことのない魔法だった。


 一般的に人類と程遠いものへの干渉は不可能であると考えられているからだ。


 しかし、それを成し遂げた天才がここにいる。


 彼の名前は賢者エッケハルト。


 魔法馬鹿であり、それでいて魔法の天才だ



「ははっ……やっぱり魔法は素晴らしい。何も、悔いは、のこらなかった……」



 カチッ


 懐中時計の針が十二時を指す。

 夜空の下町中にそびえ立つ時計台からはゴーンゴーンとくぐもった鐘の音が響き渡った。


 夜空を飛んでいた星屑のドラゴンはエッケハルトの消えていく亡骸を包み込むようにして取り込むと、天へと飛び立っていく。


 まるで夜空に散る星の一つになったようにドラゴンの輝きは眩い輝きを残して夜空の闇に溶け込んでいった。




 ◆◇◆


 一年後


「お師匠様お元気ですか?」


 丘の上に作られた小さな墓石の前に佇むのは一人の少年であった。


 手元には彼の師匠が好きなマーガレットの花束を抱えており、それを墓石に供える。


「つい最近、お師匠様のよく通っていた喫茶店のマスターも天へと飛び立ちました。恐らく、貴方のあとを追ったのだろうと皆言っています」


 少年は悲しそうに目元に影を落とし、そして握っていた杖を撫でつけた。


「貴方は素晴らしい人でした。生涯の最期まで貴方は己と向き合って魔法に身を捧げた。そんな師匠様の弟子で僕は幸せでしたよ」


 だから、と言葉を付け加える。

 少年の声は微かに震えているようで、握りしめる手は震えているようであった。


「僕も貴方のような賢者になります。憧れるだけじゃなくて、貴方みたいになれるように」



 魔法史に数千年として名を残すことになろう【賢者エッケハルト】のように



これにて『余命五日の賢者』は本編完結です。

ここまで読んで下さり有難うございました。

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