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余命残り二日

 

「ふぁ、ふぁ……ぶえっくしょいっ!!」 


 朝っぱらからの盛大なくしゃみに、俺は鼻を擦りながら身を起こす。すると視界の下で白いフサフサとした何かが揺らいだ。


「今度は、なん――」


 そして、またしても鏡に映った自分を確認すると驚きで体が石のように動かなくなった。ハゲ頭に映えるそれは見事なカールを描いており、触れると指通りよく滑らかな毛並をしている。


「めっちゃ、フサフサしてんな」


 鼻の下から生えているそれを夢中になって触る。かなりの量と異常な長さであった為、三つ編みにしたりと少しアレンジを加えてみた。


「お師匠様ーー?……わぁ、今日は髭ですね!」


 マルクは昨日の衝撃的なハゲ頭を見たからか、昨日ほどのリアクションはなくフサフサのヒゲを見た瞬間楽しそうに親指を立てていた。


「こうしてみてみると、もはや肌の若いおじいちゃんですね〜」

「確かに、まだしわくちゃにはなってないな」


 ツルツルと光を放つ剥げ頭と白い髭を取り除けば、まだ若さの面影は残っているだろう、……まぁこの調子で行けば明日にでも完全な老人の姿になっていそうであるが。


「なんかたったの3日しか経っていないですけど、お師匠様のこれにも慣れちゃいましたね!あはは〜」


 マルクは愉快そうに笑顔を浮かべたままそうつぶやいてはいるが、実際のところは俺のようにこの現象を理解するのを諦め現状に身を委ねている、といったところだろう。そもそも慣れるものではない。


「ところでお師匠様、今日はどちらに行かれるつもりですか?」

「そうだなぁ。今日は魔法教会の方に行ってみるとしようかな。……よし、マルクもこい」

「はい、行ってらしゃいま……、え?」


 マルクは聞き間違えだとでも思っているのか首を傾げこちらを見ている、いやそんなことしていないでさっさと準備をしてほしいんだが。


「賢者継承の儀だ。当然俺の後任はお前なんだからさっさと行くぞ」

「えっ!?いやまぁそうですけど!!そんな心の準備もできてませんよぉぉ!!」


 俺の言い放った爆弾発言に、マルクは叫び声をあげながら俺のローブにしがみつく。

 因みに賢者継承の儀とは名の通り前任である賢者が弟子に賢者の称号を授けるといったものだ。賢者に選ばれた者のみが使えると言われる杖を前任の賢者は後任の賢者に引き継いで、賢者となった暁に魔法を一つ王都の空へと放って終わりである。


 本来は国に報告して何やら手続きも済ませたり、祭りの準備も進めなければいけないのだが事情が事情である。ここは賢者の権力を使って事を進めるしかないだろう。なんてたって俺は賢者だからな。その気になれば王様も言うことを聞いてくれる。まぁ今まで尽力した功績を見れば当たり前か。はっはっは。


「よし、行くぞ」

「もう、本当にお師匠様はぁ!」



 ◆◇◆


「全く賢者エッケハルトよ、そなたは全く先の読めない人間だな」

「それは褒め言葉と受け取っておきましょう。それで事情はわかりましたよね。今ここで賢者継承の儀をしたく存じます」

「よかろう。いま我の前で儀式を果たすことを許可する」


 国王の謁見の間には城内で働く文官や護衛が息を呑んでこの賢者と国王の話を聞いていた。

 突然の若き賢者の余命宣告と今ここで行われる賢者継承の儀。

 本来ならば大聖堂にて行われるこの儀式も、主役の賢者たちはいつもどうりの服装で儀式に取り掛かっているという異様な光景であった。


 ただ、そんな些細なことは気にならなくなるほどに周囲の人々はただただ圧倒された。


「賢者継承の儀を始める。――賢人の杖よこの者を次代の賢者に選びたまえ」


 エッケハルトの緊張感を含んだ声が大広間に響き渡り、杖が鈍く光り輝く。やがて大きな渦を巻き起こすと魔力の粒子が辺りを飛び交いマルクの体を包みこんだ。


「ほら、これで賢人の杖はお前のものだ。ほらお前の得意な魔法を放ってみろ」

「は、はい!」


 杖を受け取ったマルクは慌てながらもしっかりと杖を握りしめ、自身の一番好きな魔法の呪文を唱えた。

 それはエッケハルトに憧れたものの一つであり、とある日の幼きマルクを救ってくれた魔法だった。


 その呪文の一節を聞いてエッケハルトもまた周囲に結界を施す。


 杖に赤い炎が灯ると、小さな炎は一気に膨れ上がり大広間を覆うほどの炎竜が生み出される。

 体中に炎を纏う竜の形を模したそれは実に神秘的であり、会場はあまりの迫力に歓声が沸き起こった。


「賢者マルク様の誕生だぁー!!」

「ばんざーい!!」

「新しき賢者に盛大なる拍手を!」


「良かったじゃないか賢者マルク殿」

「は、はは……なんかもうどっと疲れが湧きますね」

「気長に頑張りたまえ」



 さて、これで俺の役目はマルクに引き継ぐことができた。

 残り一日…俺は。

読んでくださりありがとうございます。

次回も読んでくれたら幸いです。

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