05.太古からの目覚め
これまでのあらすじ
自分の趣味の自動人形を作っていたイェルクだったが、金に糸目を付けなさ過ぎて資金難に落ちてしまった。
事態の打開のため軍のゴーレム作成計画に参加し試作品を納めたことで少し希望が見えてくる。
希望が見えて来たならもう少し借金しても大丈夫だろうと趣味の自動人形作成の為、借金をするのであった。
資金が底をつきそうでチマチマ進めていた趣味の自動人形の躯体の開発もようやく完成が見えてきた。
試作ゴーレムの納品で得た報酬と、新たな借金を使い、ちょうど価格が回復したレアメタル市場でやっとのことで必要な資材をまとめて購入した。
これにより、ようやく自動人形の身体のパーツが全て作成できる。
ちなみに市場の相場は再び恐ろしいほど値上がっている。
「いよいよ資金が底をつきそうだ
……この製作のあとはおとなしく軍のゴーレムを作り続けるしかないな」
イェルクは静かにため息をついた。
手持ちの資金すべてを注ぎ込んだ趣味の自動人形。
レアメタル市場の変動は厳しく、その中で何とか必要な資材を手に入れたが、借金をどうにかしない限り、失敗しても次に手を打つ余裕はもうなかった。
ある程度外観が整ってきたことで、イェルクの胸には高揚感と同時に、ある種の警戒心が芽生えていた。
彼が趣味の自動人形の作成を考えたのはこれが今回が初めてではない。
以前、彼が趣味で完成させた自動人形を誇らしげに人前に披露した際、その地の領主に強引に買い取られるという屈辱的な記憶が蘇り、再び誰かに奪われるのではないかという不安が心をかすめる。
だからこそ今回は、誰にも気づかれないよう、極秘裏に地下の秘密工房で制作を進めていた。
(今回は、だれにも邪魔はさせない...)
その決意と共に、彼はゆっくりと手をかざし、魔道具≪ゲート≫で秘密工房への通路を開く。
周囲の空間がかすかに震え、真っ黒な輪が現れ、次の瞬間、輪の向こうには彼の秘密工房が静かに佇んでいる。
≪ゲート≫は2つの空間を瞬時に結びつけるが、魔力の消耗は激しく、長時間維持するのは不可能だ。
しかも接続する場所を誤ると大災害を引き起こす危険もあるが、普通は災害が大きくなる前に魔力が尽きるため、重大な事故には至らない。
地下の工房は、地上にある工廠に比べると小さいものだが、それでもゴーレム一体を製作するには十分な広がある。
中央には、小さなゴーレムを設置できる円形の台があり、壁際には2つの長方形の台座が据えられている。
片方には未だ起動していない小柄なコッペリアの躯体が立てられ、しっかりと固定されており、もう片方にも普通の自動人形がまだ未組立の状態で設置されていた。
やっと身体のパーツが全部揃い、外観の完成したコッペリアの小柄な体躯は、銀色に輝くミスリル銀で覆われ、全身に赤と青、そして金色の魔法の図案が細かな文様として描かれている。
光を受けて微かに輝き、まるで芸術品のように美しく、見る者の目を奪って離さない。
このまま屋敷の玄関に彫像として飾ってもなんの問題もないだろう。
今回の試みは、自動人形に自らの意思を持たせるという極めて野心的な挑戦だ。
自立思考する自動人形、いわば「コッペリア」の制作は、どの自動人形制作者にとっても一度は憧れる夢である。
しかし、”自由意志を持つ自律自動人形”の製作に成功した例は、いまだに聞かれたことがない。
そもそも、自由意志をどうやって持たせるのか
それが最大の課題だ。
一般的な自動人形には植物由来の人造の魂を使っているが、それだと限定的な意思しか宿らない。
使う植物の種類によって人造魂の性格傾向が違うようだが、やはり受動的になってしまうようだ。
魂を確保するためには、精霊や悪魔の召喚、彷徨う魂など、既存の魂を利用して人格核を作るのが最も簡単だが、協力的でないものを使用すれば、脅威となり、結局は廃棄するか討伐せざるを得ない。
今回、イェルクが選んだのは、太古に精霊が宿ったとされ、長らく遺棄されていたご神体だ。
そのご神体から精霊を切り離し、人格核として使用することにしたのである。
太古の時代、人々は自然災害を神々の怒りと捉え、大きな山や岩、滝、樹木を信仰の対象としていた。
多数の人の信仰が特定の岩や樹木に宿り、その力を蓄え、神が宿るとされる「神岩」や「神木」となっていく。
そして、時折人間に助言やを神の力を与えたという伝説がある。
だが、近年、魔法や科学の発展により自然崇拝は廃れ、ご神体はその力を失いかけていた。
イェルクは、この神岩を発見したとき、そこにかつて宿っていた精霊の痕跡を感じ取り、その力を自動人形に宿らせるという大胆な計画を思いついたのだ。
「この神岩に宿る精霊がどんな存在か分からないが、少なくとも一度は人に友好的だったはずだ……」
だが、慎重であるべき理由もあった。
精霊は歳を経て、その性質を変えることがある。
特に今回のように長らく放置された精霊は、孤独と静寂の中でその心を捻じ曲げ、かつては人々を守る存在が人間の敵となることも少なくない。
(もしこの精霊が、時間の経過とともに憎しみや怒りを抱えていたとしたら……)
そんな考えが頭をよぎり、振り払うように首を振った。
慎重を期さなければならなかった。
精霊が目覚めた時、どんな姿で現れるのか
それは、誰にも予測がつかないのだ。
もし、この精霊が邪悪なものだった場合に備え、供給する魔力は最小限に抑え、魂が定着しないよう特別な工夫を施している。
彼は慎重に、精霊分離の魔法を使い、ご神体からコッペリアのお腹に開いたハッチへと導く。
精霊分離の魔法は、専門外であり、失敗すれば、精霊が霧散する可能性があるが、もう後戻りはできなかった。
神岩に宿る精霊が目覚めた瞬間、コッペリアの人格核がどのように反応するか
それは完全に未知の領域だった。
精霊分離の魔法が完了し、覗いている依代石(人格核)に精霊の力が吸い込まれる。
(それが善なる存在なのか、それとも長い間閉じこもっていた憎しみの塊なのか・・・)
吸い込まれた瞬間、人格核はまるで生命を得たかのように柔らかい光の脈動を始めた。
(歪曲系の魔法以外は専門外だから自信はなかったが、とりあえず移動には成功したようだな...)
実はここまでうまくいくとは思ってなかったので、次に何をするべきかあまり準備してなかった。
冷静さを装いながらも、心の中では焦りが募っていた。
さすがに、『試しにちょっと呼んでみただけだ。また今度来てくれ』とも言えない。
にしても、さっきから時間は経っているのに、コッペリアは微動だにせず、まるで命が宿っていないかのようにじっとしていた。
(まさか失敗か?)
そんな不安が胸をよぎる。
だが、彼はその考えを振り払い、再び落ち着いた声で呼びかけた。
少し焦りながらも、言葉を選んで話しかけた。
「おーい、聞こえているか?」
やはりコッペリアにはなんの反応もない。
その時ふと、精霊には、「物理(実体)というものに馴染みがないのではないか?」と言う疑問が浮かぶ。
「物理的な世界に干渉できるようにしてあるので、まずは少し身体を感じ取ってみてくれないか?」
返事はないものの、コッペリアのまぶたがわずかに動いた瞬間、イェルクの心の中に希望が差し込んだ。
まるで目を開けるという行為をまだ理解していないかのようだ。
(言葉はわかっているのか?)
新たに得た世界を理解しようとするかのように、コッペリアの各部がかすかに震え、次第にその動きは痙攣のようなものへと変わっていった。
そして彼女の片方の瞼が静かに開き、感覚を確認するようにまばたきを繰り返す。
視覚が働き始め、周囲の光景をぼんやりと捉えたのだろう。
彼女の視線が焦点を合わせようとする様子が見て取れた。
「見えてるか?一回元の見えてない状態に戻せるか?」
彼女の片方の瞼が静かに閉じた。
どうやら聞こえていて、言葉も理解できてるようだ。
「同じ器官がもう一つあるから、同じ要領で見える状態にしてみるんだ。
場所はこの辺だ」
指で優しくさっき開かなかった瞼に触れる。
場所を示したのが良かったのか、小柄な少女を模したはその両方の瞼をゆっくりと開け、不思議そうにこちらを見つめている。
彼女はまばたきを続けながら、初めて目に映る世界に驚きを隠せないかのように周囲を見ていた。
ーー自動人形に移された精霊は、ぼんやりと浮かび上がる淡い光とイェルクの姿が見えていた。
ーーそして、それが自分の目で見ているという感覚を、少しずつ理解し始めている。
目を開けた少女は不思議そうにこちらを見つめている。
ただ、まだ視線を動かすのは分かってないらしい。
まだ人に憎しみを抱いているような友好的でない精霊だった可能性もあり、油断はできない。
言葉を話せるように慣れば意思疎通ができるのだが・・・
まずは呼吸からか。
息の吸い方や発声の仕方など細かく教えていく。
初めての呼吸を試みるように小さく息を吸い込んだ。
「あ・・・・、あ・・・」
コッペリアは口を開き、初めての言葉を発した。
その言葉は未熟で、まるで赤ん坊のような声だったが、彼女にとっては新しい始まりの証だった。
かなりの時間を費やし、少しづつ話せるようになってきた。
その声は少しぎこちなく、どこか機械的な響きが残っているが、確かに自我の兆しが感じられた。
「ことばはわかるか?」
「……わかる、です……」
彼女の声は少しぎこちなく、どこか機械的な響きが残っていたが、確かに自我の兆しが感じられた。
「眠りを妨げてすまない。
岩に宿ってしばらく眠りについていたみたいだが、なにか問題でもあったのか?」
彼女は少し考え込んでから、言葉を紡ぎ始めた。
「私は……あまり人々に頼られることがなくなて、姿を保つための信仰も……得られなかった、です……」
かなりとぎれとぎれだが、この精霊はどうやら信仰心によってその存在が形作られていたようだ。
イェルクは彼女の言葉を聞き、少し胸が痛んだ。
(人々から頼られず、存在を忘れられ、消えかけていたのか…)
しばらく話を聞く限りでは、自由意志を持つ、しかも協力的な精霊(存在が人に依存し、願いをかなえる)だ。
今のところ依代と問題なく融合しているように見える。
「その依代は私が作ったものだ。
そして岩に眠っていたあなたを顕現させる手助けをした。
もちろん、再び岩に戻ることもできるが...
もし共に生きていくことを選ぶなら、私はあなたを支え、手助けしよう。
その代わり、私の手助けもして欲しいのだが...」
岩として永い間眠っていた精霊はイェルクの言葉を聞き、これからのことを考えていた。
彼女はしばらく動きを止めて考えていたが、やがてこう答えた。
「わか・・・りました。
あなた・・・が必要・・・・・・・なら、共に生きて・・・いきたい・・思います。」
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