04.見た目と見えない功労者
新型ゴーレムの試験はベルントの予想を遥かに超えた成果を見せ続けていた。
激しく動くと外装が剥がれ落ちそうな、粗雑な見た目にもかかわらず、「鎧を着たゴリラ」は試験を好成績で次々と突破していく。
現場での適応性も高く、動作の精密さは既存のゴーレムとは一線を画している。
なにせ手先には指までついている。
従来のゴーレムには指などなく、先端の岩で挟むくらいしかできなかったのだ。
魔力がなくてゴーレムを扱うことのできない新兵のケーニーでさえ、短期間で扱えるようになった。
ベルントはこのゴーレムが期待以上のポテンシャルを秘めていることを確信していた。
「・・・こいつは本物かもな」
そう呟くと、ベルントはケーニーに声をかけた。
「走行試験とバランス維持、それから回避の実演だ。いけるか?」
ケーニーは自信満々に大きく頷いた。
「もちろんです、隊長!」
杖を握りゴーレムに指示を出す。
ゴーレムが指示された内容を実行するために魔石の力を動力に変換していく感覚がフィードバックされてくる。
視線の先にある無骨な機械が、まるで生き物のように反応する様は見る者に圧倒的な存在感を与えた。
「じゃあ、始めるぞ!」
ベルントが合図を出すと、ケーニーはゴーレムを指揮し、まずはバランスを取りながらの走行を開始させた。
普段の歩行とは違い、砂利道やぬかるみ、起伏(段差)の激しい地、平均台のように狭い一本道の高台を進むなどの足場の悪い、複雑な地形を越える試験だ。
他にも燃え盛る炎の中や水に浸かっての動作など、災害発生現場で必要と思われる内容の過酷な試験が続く。
メインの仕事になる災害援助を考えるとこの手の試験は欠かせない。
ゴーレムはその巨体をものともせず、まるで生き物のような俊敏さで過酷な環境に立ち向かい、次々と決められた目標を達成していった。
次は機動力の検証だ。予測された敵の動きに対し、ゴーレムが即座に反応して回避行動を取れるかどうか。
訓練用の木製の槍が、敵の攻撃をシミュレートして次々と飛んでくる。
ケーニーは巧みに操り、軽やかに障害を超えていく。
「よし、そのまま回避だ!」
当たったところでどうということはないが、ゴーレムは体を捻り、足を踏み替え、難なく攻撃をかわしていった。
「素晴らしい!さすがだな!」
ベルントは抑えきれない喜びの声を上げた。
そしてケーニーの操縦するゴーレムを誇らしげに見つめた。
試験の様子を見守っていた周囲の兵士たちも、その見事な動きに驚きの声を漏らした。
ゴーレムが試作機であるにもかかわらず、ここまでの性能を発揮したことは、確かな手応えを感じさせた。
いつのまにか、あのボロいゴリラが、何者にも負けない力強いゴリラに印象が変わっている。
(これなら、次の試験も問題ないはずだ)
「おい、ケーニー。次のテストに移るぞ。
おい、相手をするゴーレムを出せ!」
※※※
朝、マイニーが試験場へ向かうと、ベルントが彼女を見つけ、笑顔で手を振りながら近づいてくる。
「おい、あのゴーレム、すごいぞ。
あんなにボロなのに二体のゴーレムで殴ってもびくともしないんだ」
「なにやってるんですか、そんな検査ありましたか?」
「いや、まぁ、耐衝撃テストだ。
あまりに頑丈そうだから、つい他のゴーレムと格闘させてみたんだ。
試験項目に入ってないけど、これぐらい許されるだろう?
それよりも殴ったり蹴ったりしても倒れもしないし、壊れもしない。すごいだろう?」
ベルントがニコニコと自分のことのように本当に嬉しそうにゴーレムの戦いを話す。
試験項目にない即興の耐久テスト
――つまりベルントが勝手に他のゴーレムと戦わせ殴ったり蹴ったりしたらしい。
それでも、あのゴーレムはびくともしなかったというのだ。
「本当になに考えてらっしゃるんですか!
あれ、まだ試作品なんですよ。装甲だってまともに付けてないんですから、壊れたらどうするつもりですか!
まったく・・・、子供じゃないんですから」
「いや、あれ、装甲なんて無くてもいいだろう?
壊れないように少しは手加減してやってはいるんだ。
それよりも、今のまま、装甲無しのゴリラでいいから、すぐ何体か調達してくれよ」
「何言ってるんですか、あのまま調達したら上に何言われるか・・・」
実際、あの見た目で上に報告を入れた際には、ひと目見て「不合格だな」と判定されていた。
国家行事にも参加予定と聞いているので、当然の判断だとは思う。
そしてベルントは思いもよらないことを言ってきていた。
「それから、あのゴーレム、人間サイズかもう少し小さくならないか?今のサイズじゃ基地の中に入らん」
「基地に入れて一体何をするおつもりですか?
それに、正式なモデルは今の倍のサイズになる予定なんです。
結構あれ、中身が複雑で、あのサイズでも手狭なんですから、人間サイズは無理だとは思いますが・・・
一応製作もとに訊いてみます」
そして、そのあともあのゴーレムのすごさについてベルントは飽きることなく話していた。
試験は見た目以外は問題らしい問題は見つからなかった。
「お疲れ様だ、ケーニー。
残りの検査項目ももう少しだな。あとは細かい確認くらいだから、もう終わったも同然だな」
ケーニーは安堵の笑みを浮かべて頷いた。
その日、予定されていた試験が全て終わり、試験場から官舎へ帰ると、マイニーが官舎の前で待っていた。
彼女は官舎の前で敬礼をしたあと、一枚の書類をベルントに手渡し、苦笑いを浮かべる。
「次の試験日程が組まれました。
驚くことに、上層部から『特別に』追加された項目もあります」
「追加?特別に?また面倒なことを持ち込んでくるな、まったく・・・
家に入るか?お茶くらい入れるぞ」
「いえ、お気遣いなく。
その書類をお渡しすれば用件は終わりですので・・・」
ベルントは書類に目を通すと、思わず眉をひそめた。
ベルントはあの不格好なゴーレムが好きになっていたが、試験の内容は一層厳しいものになっていた。
過酷な耐久試験や極限環境(灼熱/寒冷)での運用テストの追加など、ゴーレムの限界を試す過酷な項目ばかりだ。
「俺がやらかしたことに呆れたかと思ったが・・・、
そうじゃないみたいだな」
マイニーは小さく肩を竦め、困ったように笑った。
「ええ、実は皆さんの反応はとても好意的です。
あのゴーレム、見た目はともかく、耐久性についてかなりの高評価を得ています。
あとは安定性に上層部も感心しているようです」
「それは嬉しいことだが・・・、仕事が増えるのはなぁ」
ベルントはため息をついたが、心の奥底では最初は厄介事としか思っていなかった試験が、今ではむしろ楽しくなっている自分に気づいた。
「まぁ、やってみるか。せっかくのチャンスだからな。
伝達ご苦労。たまには早く家に帰れよ」
マイニーに声をかける。
「ありがとうございます。それでは失礼します」
マイニーは敬礼し、ベルントがそれに返礼したのを確認すると、無駄のない動きでその場を離れ、再び仕事に向かった。
そして、翌日から追加できた試験を始め、3日後にすべて終了し、試験は問題なく終了した。
試験は終了しても、関係部署との調整を担当するマイニーは、相変わらず、毎日山積みの書類を抱え、各部署、官庁の中を忙しなく行き来している。
ベルントの部下の中からも、書類業務に長けた人員が補佐についていたが、それでも仕事量が膨大すぎた。
今回のゴーレムは、これまでの単純な岩で構成された従来のゴーレムとは一線を画している。
複雑な構造、精巧な機構、そして最新の魔法技術を駆使しており、その製作には莫大な費用と、長期間にわたる精密な工程が必要とされる見込みだ。
しかも動力源には高価な魔石を必要とする。
さらに、このゴーレムは国を象徴する存在として、王政が主催する大規模な儀式や要人の護衛任務にも配備される可能性が高い。
そのため、威厳と洗練された見た目の重要性は高く、専門のデザイナーに任せているが、なかなか決まらず発注の仕様が固められない。
発注が遅れれば、納品の見通しも立たなくなる。
正規の見積もりと価格交渉や妥協点の調整、納期設定、改修依頼……初めてのことが多すぎた。
その上で「まだか、まだか」と王政執行部からの催促が続き、予算部局からは「本当にこの予算は必要なのか」と詰問される始末だ。
マイニーのため息は日に日に深くなり、連日の残業で帰宅時間が遅くなるたびに、肌荒れも少しずつ気になってきた。
しかし、そんな小さな悩みも、国全体の期待を背負うプレッシャーの前では些細に思えた。
仕事の多忙さと共に、そんな悩みを抱える日々が続いている。
その中で彼女にはひとつ確信があった。
このまま外観を仕様で出さなければ、イェルクは絶対、あのゴリラのような姿で納品する。
(あの形には少し愛着が湧いてきたけれど……)
しかし、もしこのままあのボロボロのゴリラのような姿で納品されてしまったら、その後に待ち受ける上層部からの叱責、そして国全体からの失望を考えると、彼女は背筋が凍る思いだった。
「今までどれだけ時間があったと思ってるのよ……
これが国家プロジェクトなんて、笑っちゃうわ。
まったく・・・、誰も真剣に取り組んでないんだから」
彼女の呟きも無理もない。
これまで要求される性能が高すぎて、合格するゴーレムはいなかったため、外観を決める意味もなかった。
(ゴーレム開発費、建造費、メンテナンス費用、そして動力源の魔石の購入と……
これは動いても動かなくても予算の管理は大変なことになるわね・・・)
マイニーは考えた。
今のうちに魔石を買い占めておけば、もしかしたら一財産作れるかもしれない
――そんな考えが一瞬よぎる。
しかし、彼女はすぐにその思いを振り払い、再び目の前の書類に向き直った。
「考えてる暇があったら、さっさと仕様をまとめなきゃ……」
彼女は手元の書類に目を落とし、再び仕事に向き合った。
過酷な状況にも関わらず、マイニーは国の未来を守るため、今日もひたむきに書類の山に向き合っていた。
誰にもわからない苦労の中で、彼女は自分なりの使命感を胸に、確固たる決意を持ってこの任務を完遂しようとしている。
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