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幕間(胸を張って借金を語る)



ゴーレム強奪問題がひとまずの解決を見たが、王都を襲う問題はそれだけではなかった。

今回の会議は陛下の参加される緊急会議だ。

ゴーレム強奪対策の会議から、そんなに日にちも経ってないのに王都には緊急事態がいくつあるのかと各大臣は呆れるが、厄介事はなぜかまとまって発生する。

この会議の口火を切ったのは天災予測局の局長だった。


「陛下、遠見監視隊からの報告では洋上でかなりの規模の嵐が発生しているとのことです。

まだ問題あるレベルではなく、移動もしておらず、王都に向かってくるかも不明ですが、、洋上でエネルギーを蓄えており、もし王都に向かってくれば大きな被害は免れません」


側近たちがつぶやく。


「山のがけ崩れなどが気になりますな」

「川の氾濫もありそうです。我が国は山と海に挟まれております。

山で降った雨が川を伝いすぐに海に降りてくる」

「洋上からだと遮蔽物が無いため風の影響も大きそうです」


その後も考えられる被害とその対応、被害を最小限にするための施策など様々な内容が検討された。

最後に王陛下が各員に檄を飛ばす。


「前もって分ったのだ。

災害を抑え、民達が安心できるよう、甚大な被害が出た、などという報告を聞かなくて済むよう十分に準備するように。

こういう時のための新鋭ゴーレム、災害もまた、国力を試す戦場である」

「「「御意」」」


陛下退室後、残された大臣たちは途方に暮れる。


「とは言うものの山と海で囲まれているわが国では、そこらじゅうでがけ崩れや高潮が起きそうですし・・・」


新鋭のゴーレムを所管している防衛大臣が悩ましげに発言する。


「せめてどの辺の被害が大きそうかが判れば・・・

『ゴーレムで何とかせよ』と言われても今は2体しかいないのだが・・・」


他の大臣たちもなにか少しでも手段はないかと悩んでいる。

事前に『十分に準備するように』と言われたあと、王都に問題が出れば陛下に糾弾されるのは避けられない。


「2体のゴーレムでどう対処したものか。

もっと数が必要だが今からでは・・・」


建設土木大臣が答えるように発言する。


「土木用のゴーレムも入れれば、ある程度数は揃うと思うので、あとは期間を長くとって準備するしかないな」


他の大臣も考えられることを発言し少しでも対策になる内容がないかと探っている。


「海岸線も高潮の恐れがありますし、河川の決壊の恐れも・・・」

「ひとまず決壊や高潮の心配なところに土嚢や岩などを配備して補強し、被害を少なくするしかないですな」

「王都の対応を1番に考えるしかないだろう」

「たしか製作元に試作・試験用のゴーレム1体返しただろう、アレをまた借りれないか確認してみてはどうだ」


イェルクのゴーレムは、普通のゴーレムの5体分以上は働くことができる。

1体増えるだけでもかなりの戦力だ。


「あとは土木用のゴーレムを休みなく働かせるしかない・・・か」

「土木ゴーレムの使用は時間制限があると聞きましたが・・・」


財務大臣が話しを聞いて反応する。


「金でどうにかなるならバックアップする。

陛下もおっしゃられてたし・・・

対策の方が復旧より安上がりだからな。

対策で何とかなるのなら少々の予算オーバは目をつぶるしかない・・・」


土木用のゴーレムは新鋭のゴーレムたちに比べ魔法の防御などがかかってないため破損しやすく

力や稼働時間も魔力を提供する魔術師の保持魔力次第でイェルクのゴーレムほどはない。

それでも人に比べれば何十人力であるから、いるのといないのでは雲泥の差だ。


そして、今日はまだとても良い天気だった。


※※※


メアリーは買い物に出た帰りに多数のゴーレムたちが河川の堤防で作業しているのを見ていた。

今までも大きな工事現場では見かけたことはあったが、何をやっているのかなど全然気に留めなかった。

旦那様が軍のゴーレムを製作するようになって、少しだけ興味がわく。


「……あれがゴーレム?」


目の前にいるのは、ただの岩をいくつか積みあがっただけに見えるが一応四肢っぽいものがあり、ゆっくりとした動きだが無駄がないようにも見える。

屋敷の作業場で見た旦那様の大きく白銀に輝くゴーレムに比べると、かなり小さく、粗末に見える。

それでも、人々の平穏な生活を守るため、ゴーレムが川の両サイドに杭を打ち、板で壁を作り、岩を運び、土嚢を積み上げて崩れないように懸命に補強している。

顔も表情もないのに一生懸命働いているのが判り、ただ黙々と作業をこなしているゴーレムの健気な姿に、メアリーは胸を打たれた。


(ありがとうー、がんばれー)


心の中でエールを送ると、ふと気づけばかなりの時間見ていたことに驚き、屋敷に戻るために足を急がせた。

屋敷に戻って町の様子を伝えるため工廠まで足を運び、興奮気味に街で働いているゴーレムの様子をイェルクに話す。

メアリーから街の様子を聞いた後、イェルクは軍から聞いたことを伝えた。

この頃何かあるとイェルクのところに行っている気もするが、こもりっきりで街に出ないイェルクには必要な情報に違いないので、問題ないと自身に答える。


「ゴーレムがいたのは、嵐が発生してるらしいから、河川の氾濫対策だろう」

「ああ、そういうことなんですね!」


メアリーの目が輝いたあと小さく呟いた。


「こんなに天気がいいのに・・・」


イェルクは、しばし考え込んだ後、話す。


「うちもあまり川と離れているわけじゃない。

できればあまり被害を出してほしくないが・・

しばらくは来ないみたいだが、買い物は早めに済ませておくといい」

「はい、わかりました!」


イェルクの元にも既に『嵐が来そうだから動かない新鋭機の修理を急いでほしい。あと試作ゴーレムをまた貸してくれないか?』と依頼が来ていた。

とはいえ、『新鋭機の修理を急げ』と言う割にはまだその修理対象のゴーレムがイェルクのところには届いていない。

現場と指令を出している者の間の認識のずれはよくあることだ。

試作ゴーレムは見栄えは悪く普通の土木用ゴーレムとサイズもあまり変わらないが、圧倒的に頑丈で力が強い。

エネルギー源に魔石を使用しており、魔法使いの魔力に頼らず、魔石さえあれば長時間稼働もできる。

いずれ新型と同じように改良を施したいと思いながらも倉庫で放置していた試作ゴーレムの軍への貸出を了承するとそのまま運び出されていった。


イェルクはメアリーが来るまで工廠で久しぶりに自動人形(オートマタ)のメンテナンスをやっていた。

今は軍から新しいゴーレムの発注もなく、評価用のゴーレムの製作にかかりっきりで積み上がった自動人形(オートマタ)の作成とメンテナンスの予約リストを黙々とこなす平和な日々だ。


故障して来る子は手間がかかるが、メンテナンスで来てる子なら大した問題もない。

メンテナンス契約といっても実費くらいしか請求していない。ほとんどサービスのようなものだ。

極たまに昔作った子の機構改善を行い、新型と同じにするが、どちらかと言うと無断でバラされるのを防ぐのが目的と言ってもいい。

貴族の家に買い取られた自動人形(オートマタ)は、ほとんどメイドか秘書代わりに使用されているので、それほど消耗することもない。

潤滑油の補充や各種機構が異常なく動いているかの確認が主になる。


「この子はこれで終了と」


何もなければ、搬入された次の日には持ち主のもとに戻っていく。

1体直し終わったと思えば、別の1体のメンテナンスが依頼されている。


そんなことをしていると工廠の入口に軍の担当者(マイニー)が現れ、先の強奪事件の対応でお礼を伝えに来た。

マイニーの後ろには早く直せとせっつかれている評価用ゴーレムが1体が見える。


「先だっては探知杖をお貸しいただき、誠にありがとうございました、イェルク公」

「その件については、しっかりと代金を頂くつもりですから。

とりあえず奪われたゴーレム戻ってきたと聞きましたが」


事件のあった翌日、夕方に再訪したマイニーからかなり大雑把な経緯は聞いていた。


「はい、本当に良かったです。

あの日、私も海軍の軍艦で海から現場に駆け付けました。

2本目のワンドが役に立ちました」

「そうだったのですか、前に聞いた話では現場はかなり大変だったと・・・」


マイニーはどこまで細かくイェルクに話していいのか吟味しながら話を続けた。

前に話したときは事件直後でどこまで知らせていいのか軍内部でも判断が付いておらず、事件が終わったこととゴーレムが取り戻せたことしか話せていない。

一応、こんなこともあろうかとイェルクには軍籍をとらせているので、余程のことでなければ話しても問題ないと指示されている。

イェルクに軍籍を取らせるよう指示されたときは理由が判らなかったが上層部がこういう事態まで考えていたとなると普段慎重すぎるとバカにしていた態度を改めないといけないとも思う。


「前回話した内容とあまり変わりませんが・・・

評価ゴーレムが強奪され、追跡した隊に攻撃をしてきたようで・・・

この辺は私も現場に居なかったので聞いた話なのです。

現場の話では、かなり危機的な状況だったようです。

再発防止のために警備の改善も検討しています」

「それは・・・、よく取り返せましたな」

「現場では色々と信じられないようなことが多数起きたらしく、その場のことは極秘扱いになっているので・・・」

「話せないということですな。

私としてはゴーレムが奪われなければそれで十分ですから」

「すみません」


マイニーはこのことでイェルクがへそを曲げられたら困ると、慎重に話を進めたが聞いたイェルクはあっけらかんとしている。

ゴーレムが奪われなければ、ほかのことはさほど気にしないようだ。


「で、奪われなかったゴーレムも強奪団に爆弾を仕掛けられ、一時動かなかったので検査と原因究明お願いできますか?

現在は動作しております」

「なるほど・・・

見てみましょう。

まぁ、ゴーレムの検査は明日には終わると思いますよ」

「はい。おねがいします」


とりあえずゴーレムの検査の依頼を終えたマイニーは前に気になっていたことをイェルクに尋ねてみた。


「話は変わるのですが・・・

探知ワンドをお借りした時、箱の中に他にもワンドが多数入っていたと思うのですが、あれはなんですか?

もしかすると他にも使えるものがあるんじゃないかと・・・・

あと、ワンドの請求額からすると、あの箱の中のワンドだけですごい金額のようですが・・・」


先日、借りだしたワンドの見積もりを貰ったマイニーは、見た感じぼろいワンド1本の請求額が自分の給金よりも高かったことに試験場の事務室で声を上げて立ち上がり、周りで同じように事務をしていた者達から注目を集め恥ずかしい思いもしていた。


(私も軍の中では、それなりに良い給金を頂いているはずなのですが・・・)


よくよく考えればボロいワンドとはいえ、同じ材料で作られているのだから見た感じまともなワンドと同じ値段なのは当然ではある。しかし・・・


「ああ、あれは試作ゴーレムを作る前にゴーレムの操作を遠隔でできるかを確かめる為に作ったものです。

精度を上げるためにいろいろと条件を振ったりしてるので数が多いですが・・・

偶然の動作したなどがないように念を入れて二本とか三本とか作っています」


マイニーは前からイェルクについては技術的には『天才』だと思っていて、少々のことはイェルクなら出来て当たり前と思っていた。

ただ、あの場で『なんで二本目があるんだろう?』という疑問の答えが、条件を振ったり、動作確認を念入りにと、自分(マイニー)が見えてない苦労の産物というのは想像もしてなかった。

この苦労をイェルクがちゃんと原価計算して、開発費やゴーレムの代金に転嫁しているのか心配になってくる。


(・・・絶対ちゃんと転嫁してないって自信持って言えるわ)


イェルクは原価について考え込んでいたが話を続け始めた。


「・・・確かに安くはないです。

ですが、軍のゴーレムが本当に作れるかの試すために買った機材に比べれば大したことない額です。

なにせゴーレムなど作ったことがありませんでしたので、作るために色々買いあさりましたから」


そして、今、イェルク公の口から、『作ったこともないゴーレムを作って軍の依頼を請ける気だった』という話と、『作れるかの確認のためだけにかなりの額を投資した』という、ワンドの値段を超える、かなり無謀な話を聞いた気がした。

マイニーは恐る恐る確認する。


「・・・・・・えーっと、試作ゴーレムを請ける前ということは、その資金は?」

「もちろん全部持ち出しで借金です」


イェルクが得意げに胸を張った瞬間、マイニーは思わず『作れなかったら、どうするのよ!』とまるで結婚したあとに奥方が言いそうな突っ込みを入れそうになる。

どうもイェルクといるとマイニーは楽しくはあるが、テンポが狂うというか普段の冷静な自分が崩されるようだ。


「まぁ、市場に出ている上質の希少な魔法金属を根こそぎ買い占めてしまったのが原因で、しかも、それでも足りなかったんですが……

いやはや、恥ずかしながら借金できる限界まで行ってしまって、自動人形を買ってもらった貴族の方の一部にも借金をして、どうにもならなくて、一時、買った貴重な魔法金属をそのまま売って、その金でこの屋敷の維持費を払ったりしていました。

ただ、市場の魔法金属が枯渇していたので市場価格が10倍以上になり、売る量は少なくて済みました。

試作ゴーレムが試験に受からなければ開発中の機材や魔法金属を抱えて、本当に夜逃げしてましたね」


(そんな状態でも開発中の機材は持って逃げるんだ。

って、いや、いやいやいや!)


元々希少と言うだけに少ししか産出されなかった魔法金属だが、使用量も少なく、また高価だったことで少しづつ在庫として蓄積されて行き、値段が落ち着いてきていた。

それが2年くらい前に魔法金属が市場から全て消えて、魔法金属を使う武具や自動人形、その他細々としたものまで生産が困難になり、品薄から王国中がパニックになったことが頭をよぎる。

その影響で魔法金属の値段が今でも当時の2~3倍が基準になり、再生利用も増えて、まだ影響が抜けていない。

マイニーは何度も頭の中でツッコミを入れながら、イェルクの話を聞き直した。


「……ちょっと待ってください。

つまり市場から魔法金属が消えた原因って……あなた?」


イェルクは悪びれもせず、にこりと笑う。


「そうなりますね。

でも、ほら、市場価格がすごく上がっていたので、手持ちを少し売るだけで屋敷の維持が何とかなったんですよ!」


少し呆れながら、内心反射的に突っ込みを入れる。


(……いや、そういう問題じゃないのよ!

本人は全然気づいてないみたいだけど、それって市場操作じゃない?

普通はそんなに大量に買い占める資金がないから前例がないだけで、犯罪になるんじゃないの?

一体資金をいくら調達したのよ!

って言うか、国を巻き込んだ詐欺じゃないの?)


マイニーは額に手を当て、深い溜め息をついた。


(……つまり、イェルク公、たった一人で王国をパニックに陥れたってこと!?)


自分が話している相手が国レベルでの問題児と再確認できたが、今さら当時の問題を掘り起こしてゴーレム計画に火の粉が降りかかってもいけないので、この件は聞かなかったことにしようと心に決める。

……が、気になっていることが有る。


「で、その買い占めた希少な魔法金属はどうしたんですか?」

「上質とはいえ、そのまま使うと魔力の利用効率が30%位と低く、軍の指定したスペックに満たないので、効率を上げる為に、さらに魔法金属内の不純物を取り除いて、純度を極限まで高めたら結果、1/100くらいになってしまって。

いや、本当にびっくりしましたよ。

ああ、普通の精錬ではできなかったので、その精錬の工程の開発でもかなりの量の魔法金属を無駄にしてしまいましたね」


(売ってる魔法金属、手のひら一杯あれば普通なら一生遊んで暮らせて、お釣りがくる金額よ?

それを無駄に……、かなりっていったいどれくらいなのよ!)


「精錬に成功して効率97%になった後は……

ほら、あなたの後ろで寝てますよ」


マイニーは一体何のことか分からず、戸惑った顔で振り返ると視界いっぱいに検査に持ち込んだ軍のゴーレムが悠々と寝転がっている。

言われた意味が分かったマイニーはあまりの衝撃に顔の表情が固まってしまい、何を言えばいいのか一瞬わからなくなった。


「え……その……つまり……」


口を開いたものの、言葉が出てこない。

販売価格で十分に値段の事は判っていたはずなのに、目の前のゴーレムが途方もない金額の塊であることを理解した瞬間、頭が真っ白になる。


「……このゴーレムが、市場から消した魔法金属の成果物?」


(ただでも高い上質の魔法金属を更に精錬して、その価値が何十倍、何百倍もの価値に化けている素材で作られるゴーレム……)


そんな現実を前に、マイニーは目眩がした。

まだ立っていたのが不思議なくらいだ。


「まぁ、ゴーレム1体に全て使ったわけじゃありませんが……」


イェルクは当時を思い出しているのか、まるで大変な冒険話でも語っているようにニコニコと笑い、まるで他人事のように語るその横顔は、嬉しそうに生き生きと輝いている。


「使用量なら試作機が一番使ってますね。見た目はボロですが内部の素材は評価機よりもはるかに高価で素材の値段だけで評価機の3~4倍は軽くいってます。

何せやったことなくて、評価機では低級の魔法金属でいいところも精錬した最上級のもので作ってましたから。

その代わり魔力効率や耐久性は試作機の方が桁違いで上です」


あのボロい試作ゴーレムの試しに出してもらった買取価格が見栄えも良く体格も2倍ある評価機に比べ、5倍以上と恐ろしく高かった理由が改めて分かった気がした。

最初に試作機を見た時にイェルクは『技術の追求に全ての資金と時間を投入した』と言っていたが、投入規模が想像のはるか上を行っている・・・

もしかしなくてもあの高いと思った値段は超お買い得価格だったのかもしれない……


(せいぜい手持ちの資金がないくらいにあの当時は思ってたけど、借金の限界、そして魔法金属の買い占めや精錬……

しかも開発のために知り合いの貴族からも資金を借りて……

今度からゴーレムの値段、値切るのは少し控えめにしてあげよう)


イェルクの話は続く。


「……まあ、何も知らない状態からゴーレムを作ろうと言うのだから、いくら金がかかってもしょうがないでしょう」


彼がさらりと語るその内容に、マイニーの顔は自然と引きつった。


(何、この人……本気で言ってるの?

普通、『いくらかかってもしょうがない』って言葉にも限度!ってものがあるんですけど……

おかしい、この人は絶対、どこかおかしい!)


「それに誰もやったことがないなら、私がその最初になればいいだけですし。

そこには苦難もありますが、楽しいことです。

ただ、たまに、やってみて『こんなの無理に決まってるだろ!』という結論に行きつくこともありますが・・・」


イェルクがそう言いながら笑っている。

マイニーはもう何から突っ込んでいいのか分からなくなっていた。

うまく行っても十分問題なのに、うまく行かない時もあるって……


「話を戻すと、この間、評価機3体を軍に納めてやっと借金がちょっと減ってきたくらいですか・・・

開発費や機材の購入代金の回収はぜんぜん、まだまだです・・・」


(何か今サラッとものすごく恐ろしいことを聞いた気がする。

あのバカ高い評価機3体の値段を使ってやっとちょっと・・・)


イェルクは、どこか無邪気な笑みを浮かべて言う。


「ただ、貴族位を貰えたことで借金できる上限が上がったので問題はなくなりました。

貴族ってすごいですなー」


マイニーは心の中で全力で突っ込む。


(ちょっと待って!、それ、全然問題なくなってないから!!)


彼の「貴族位の利用法」を目の当たりにし、どうにかその言葉を抑える。

貴族位は陛下、しいては国から信頼があると保証されたということだから、もちろん借金の上限くらいは上がる。

他にも色々貴族特権も付与されているはずだが、イェルクはその辺、特に何の魅力も感じてないらしい・・・


(借金の担保として使われる貴族位・・・

こんな使われ方をする貴族位が不憫だわ。

それがどれだけ特別なものなのか、絶対わかってないでしょ!)


マイニーにとっての貴族は、特に働かなくても裕福で、華やかな衣装でたくさんの従者を従えて威厳があり、支配的でプライドが高いイメージがあったが、イェルクを見てると、どんどんイメージが崩れていく。

そしてイェルクは借金の事を気にしている様子が微塵もない。


(借金総額がいくらあるかなんて怖くてとても訊けない・・・

下手すると、借金総額がこの国の歳入より多い……なんてこと、ないわよね?)


そう考えたマイニーの背中を冷や汗が伝う。

イェルクを常識で判断する愚かさをさっきから何度も味わっている。

まるで底なしの井戸を覗き込んだようで、このままだと一緒に引き込まれてしまいそうになり視界の端が揺れるようなめまいを感じる。


(この人、どうしてこんなに無邪気に破産寸前の話を笑いながらできるのよ……)


半ば呆れながらも、その大胆さに驚嘆する気持ちも混じり、マイニーの中で彼への評価が複雑に入り混じっていく。

イェルクが借金まみれでも楽しそうに笑っている姿を見て、自分の堅実すぎる人生と比較し、なんとも言えない複雑な気持ちになった。

自分の生活は、主に事務で帳簿をにらみつつ、予算の範囲内に収める日々だ。

イェルクの破天荒で楽天的な生き方には、ほんの少し羨ましさも感じる。

あんな風にホントに自分の全てをかけて生きることができれば、それはそれで楽しい気もするが、彼と自分の生き方はまるで違うし、自分には到底できないとも思う。


ゴーレムの金額や今の借金、持ち出しの話を聞いて、つくづくイェルクは金銭感覚はおかしいと思えたが、あの何年も挑戦者が達成できなかった『非常識で無茶』とも言えるスペックのゴーレムは、ここまで『非常識で無茶』にならないと、製作できないのだろう・・・


(にしても・・・、本当にこの人は一体、何を考えてるんだか……

ベルント隊長と言い、イェルク公と言い、私の周りにはこんな人ばっかり……)


マイニーは、周りに問題児しかいない自らに課せられた運命に肩を落とし、神を恨みたくなった。


(なんで神様は、私にまともな人を周りにつけてくれないのかしら……)


かと思うと、ふっと心が揺れた。


(なんか、私の方が変で、実は私があり得ない借金をしても大した問題にならない?って思えてきてるんだけど……)


……そんな考えが頭をよぎる自分に、マイニーはハッとして首を横に振った。


「ダメよ」


ぐらついた心を追い払うように首を振り、まなじりを決して、こぶしを握る。


「周りに毒されないで!しっかりして、私!」

ふと思ったんだけど、「なろう」を翻訳して英語やなんかで読んでる人っていたりするのかしら?

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