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目覚め

魔術大国ーーーオスマンサスの孤児院の一室では、金髪で碧眼の少年が一人で座り、誕生日ケーキの蝋燭を吹き消していた。


「《力》が、ほしい」


毎年誕生日ケーキに願いを掛けているけど、今年こそは叶ってほしいと思った。

なぜなら力の一つである魔術を学ぶことができる魔術学校は10歳から入学することができ、そしてついさっき、その年齢に達したからだ。







この世界には、極めて稀だが《力》を持った人が存在する。また、そのほとんどは生まれながらにして《力》を保持している。そのため、少年の願いは夢の中ですらも叶わないかのように思えた。


しかし、一見普通の少年に見える彼は後に、世界を救った魔術師として魔術師界のみならず、全世界の歴史に名を刻むのである。







ーーーーーーーーーーーー次の日の朝ーーーーーーーーーーー




僕は、朝目覚めると昨日誕生日ケーキの蝋燭に願ったことを思い出した。もしかしたら、今年はーーー。


僕はうっすらと残る期待を胸に中庭へ歩き出した。可能性はほぼ0に等しいと思うが、魔術を使えるかどうか試してみよう。




たまたま孤児院の前を通った、通りすがりの魔術師から、1つだけ魔術の呪文を教えてもらったことがある。

中庭で試してみよう。魔術は、僕が一番欲しい《力》であり、《力》の中で1番強力な《力》でもあるから。






中庭に出た僕は、さっそく呪文を試してみた。

10歳という遅すぎる年齢で《力》を使えるようになるなんて有り得ないと、頭ではわかっている。

でも、やっぱりーーーーーー



僕はゴクリと唾を飲み込んで、それから、思い切って勢いよく息を吸い込み、


「《氷》!」


とはっきり唱えた。




期待。緊張。諦め。…1分ほど経っただろうか。

やっぱり駄目だった。お前にできるはずがなかったーーー僕の中のもう一人の自分がそう囁く。

今年出来なかったらもう望みはないと、そう知っていた。

そして僕の予想はやっぱり正しかった。


「…っ」


そう思って魔術を使うことを、いや、もう一つの明るい人生を諦めようとしたその時。



噴水から勢いよく噴き出ていた水は一瞬にして氷塊となり、そこからどんどん周りに氷が広がっていく。ついには中庭にあるありとあらゆる物が凍ってしまった。


太陽が燦々と降り注ぐ猛暑の中にあるそれは、かなり不自然なものだった。


「…へっ?」







魔術師の中でも、才能でかなり魔力量や魔術の質には差がある。例えば、さっき颯斗が使った《氷》も、視界に入る場所全てを凍らせてしまうような天才魔術師と言われる魔術師もいる一方で、一度の呪文で指の先ほどしか凍らせることができないような魔術師もいる。

また、颯斗はその中でもトップクラスの、いわゆる天才魔術師に匹敵するような魔術の才能があった。



颯斗は一瞬、今起こったことが信じられず愕然とした。そのことで、本当に願いが叶うなんて本当は最初から思っていなかった事に初めて気づいた。これで、このつまらない孤児院にはおさらばして、晴れてあの魔術学校に行ける。

やっと念願が叶う。まるで夢の中にいるようだ、そう思ったら、思わず笑みがこぼれた。




魔術学校に行くとなると、寮生活になるので、この孤児院とはお別れしなくてはならない。

とは言っても、特別仲のいい友達はいなかったし、働いている職員にも特に思い入れのある人もいない。

そう気づいた時、ずいぶん寂しい生き方をしていたなと他人事ではないはずなのに苦笑した。

手続きだけ済ませて、今日中に出てしまおうか。




手続きをしたあと、少ない荷物をまとめながら、昔の記憶を頭のずっと奥から引っ張り出していた。ただ、思っていたよりもずっと簡単に、その時の話を思いだすことができた。それだけ、僕にとって魔術学校という存在が大きいのだろう。






昔、魔術学校についてそれとなく孤児院の人に聞いてみたことがある。その人曰く、入学の際には試験があるらしい。魔術師は希少だから、試験に落ちることはないようだが、そこでAから Jまでの10つのクラスに分けられるらしい。



魔術学校。早く行きたい。僕の胸が高鳴る。

だが、僕はまだ魔術についての知識が少なすぎる。



図書館で魔術についてある程度学んでから試験に行くかどうか、少し迷ったけれど、先に図書館に行って勉強することにした。できるなら上の方のクラスに入りたかった。


「はぁ、はぁっ…」


孤児院から図書館まではそれなりに距離があり、普段外で走り回ったりしない僕には少し辛いものだった。魔術学校では実技もあるっていうし、体は鍛えておいた方がいいか。






図書館では、魔術についての本がたくさん所蔵されていた。僕は、寝る間も惜しんで、10日ほどをかけてこれをなんとか読み切った。魔術学校の入学試験に遅れたらまずいからだ。かなりの量の本があったが、他の魔術師が昔から準備してきたことを考えればこれくらいの努力は当たり前であるように感じる。




図書館の職員に、魔術学校の場所を示した地図をもらい、同時に入学試験が1ヶ月後にあることも聞いて外へ出た。


魔術学校に行って《氷》しか魔術が使えなかったら嫌だと思い、ここで試しに本で読んだ魔術を使ってみることにした。


「《座標検索》魔術学校」


一瞬、目の前の景色が歪み、10秒ほどその場でぐるぐるまわった。初めての経験に、少し吐き気を催しながらも目を開けた先にあったのは、何かが蠢く気配がする、なんとも怪しげな古風の巨大な城だった。








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