17 エピローグ
「お待たせ……何があった!?」
クライスさんが王宮からの使者への対応を終えて応接室に戻って来られましたがそのときはまだ私はぼろぼろと泣いているところでした。
私の傍で彼はおろおろしていてそんな私たちの様子を見たクライスさんはもの凄い形相で彼を問い詰めたのです。
彼はもちろん、私も泣きながらではありましたがクライスさんがいらっしゃらなかった間のやり取りを丁寧に説明して何とか落ち着いていただき事なきを得ることができました。
「まあ、それはおめでとうございます!」
それから伯爵家の皆様が揃った席で私は改めて彼とのことを説明することになりました。
そして最初にセレナ御嬢様が私に祝福の言葉を掛けてくださいました。
そう、あの後、私は正式に彼の婚約の申し入れを受け入れたのです。
クライスさんは「ルサリア家の問題ではないしセレナの身代わりに影響しないならうちが口を出す話ではないからな」ときっぱり自分たちは無関係だと言われその場で私が返事をすることになりました。
「それにしても彼はよくエマ嬢のことをセレナではないと断言できたものだね」
「お兄様、それこそ愛のなせる業ですわ」
セレナ御嬢様が目をキラキラさせて興奮気味に話されます。
う~、改めてそう言われると恥ずかしい……。
自分でも御嬢様と一緒に並んでいればどちらがどちらと断言できるかは怪しいとは思うけれど。
「あっ、彼は私がセレナ御嬢様の身代わりをしていることは黙ってくれると約束してくれましたから。そういうところは信頼できるので……」
そう言った私の顔を御嬢様にお兄様、そしてクライスさんはニヤニヤしながら見ています。
私は自分の顔が赤くなっていくのがわかりました。
「コホン。なら今度はわたしからだな、王宮からの使者は第一王子殿下絡みの話だった。殿下からセレナとの婚約について相談したいという内々の打診だった」
「えっ?」
「あら?」
「父上、それは……」
三者三様。
私はどうリアクションしていいのかわからず、セレナ御嬢様は他人事の様に困った顔をされました。
「大丈夫だ、一度殿下の元へ確認に向かおう。セレナを同行させてな」
しかしそれでいいのでしょうか?
殿下と直接の面識があるのはセレナ御嬢様ではなく恐らくは私。
そんな私が考えていることに気付いたのかクライスさんがおっしゃいました。
「エマ嬢、心配は無用だ。王宮からの使者は確かにこう言った。『ルサリア伯爵家御令嬢セレナ・ルサリア様を』とな」
「あっ……」
「ならエマ様は無関係ですわね。殿下はあくまでもわたしをご指名ですから」
セレナ御嬢様はそう言ってにっこりと微笑まれました。
「そうだね。セレナ自身が殿下と対面してきちんとたしかめるといいだろう。ふふっ、それにしてもエマ嬢はモテモテだね」
お兄様が楽しそうにそう話されます。
それにしても本当に私が殿下から?
光栄には思いながらも私は欠片もそのお話に心が動くことはありませんでした。
その後私が聞いた話では、セレナ御嬢様と対面された第一王子殿下はクライスさんとセレナ御嬢様に謝罪をされたうえで『今回の話はなかったことにして欲しい』とおっしゃられたそうです。
どうやら私とセレナ御嬢様が別人であるということはわかる人にはわかるみたいです。
婚約が決まった私が言うのもおかしな話ですが今さらながら恋というのは不思議なものだと思いました。
それからしばらくの間はこれまでどおり私はセレナ御嬢様の身代わりとして学院に通いました。
しかし、私が身代わりを始めてから約半年が経った頃、お嬢様の御病気は完治し、低下していた体力も当初の予想を大きく上回って回復されたということで、お嬢様は当初の予定よりも早く学院に復帰されることになりました。
学院は前期後期の2学期制で、前後期の間に2週間ほどお休みがあったので後期の授業の始まりとともに私のセレナ御嬢様の身代わり生活は終わりを迎えることになりました。
そんな私は――
「ほらエマさん、背筋が曲がっていますよ」
「ううっ……、こうでしょうか?」
「何度いったらわかるのです。こうだといっているでしょう!」
「ぐえっ!」
シェリーさんの手によって私の身体がある場所は押され、そしてある場所は引っ張られてカエルが潰れたような声を思わず漏らしてしまいました。
そう、私の身代わりの仕事は終わりましたが私の親代わりをしている食堂の店主であるカインさんの療養はまだ終わっておらず私の帰るべき家がありません。
そんなわけで私はルサリア伯爵家で相変わらずお世話になっていました。
元々1年間は生活の面倒を見てもらうというのが私に対する今回の報酬でしたのでそれは問題なかったようです。
もっとも、私がするべきお仕事がなくなってしまったのでその分、私はこのルサリア伯爵家の別邸で昼間はメイドとして御屋敷の仕事を手伝うことになりました。
それだけではなくありがたくも将来男爵夫人になるからと引き続きマナーや所作の指導を受けることになりました。
「ほら、もう一度最初から始めますよ」
「ひぇ~」
伯爵家の別邸には今日もそんな私の悲鳴が響き渡ります。
その成果は将来私が彼と正式に結婚して社交界にデビューしたときに表れました。
そしてどこの馬の骨ともわからない平民の娘を嫁にした成り上がり貴族と彼を馬鹿にしていた連中を見返すことになるのですがそれはまた別のお話です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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