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幕間 扇コミュニティ

投稿し忘れました。

 side 斑鳩闘矢(いかるがとうや)


「火事だっ!」


 夜も更け寝静まったころ、校舎の端々から声が聞こえてくる。その声で俺は目を覚ます。

 誰だか知らないがやらかしたようだ。


「あぁ!?家事かよ。誰がやらかしやがった!」


 俺はすぐに布団から飛び起き廊下に出るとちょうど目の前を通り掛かった一人を捕まえる。


「火元はどこだっ?」


 生産班の一人だろう。俺を見た瞬間に怯えた表情をすると、どもりながらも答えだす。


「だ、第二校舎の方……です……」


「ちっ!保管庫があるところじゃねぇか」


 敷地内には四つの校舎がある。第二校舎は主に武器防具や物資の保管場所が一階にある。火災の規模によっては扇コミュニティの存続が危ぶまれるレベルの大事になりかねない。


 教えてくれたヤツを離すと窓際に歩み寄る。ここからでも第二校舎の方がオレンジ色に明るくなっている。規模はわからないが早急に鎮火させなければ。


「金剛」


 スキル【金剛】。物理的に身体を硬化させ攻撃力、防御力を増すスキルだ。これのおかげである程度なら高いところから飛び降りても身体が壊れることはない。元から格闘技が得意な俺に最高に合っているスキルだ。


 まぁそれでも勝てないヤツがいるとは思わなかったが……。


 ここは四階だが、窓を開けて一気に飛び降りる。一瞬の浮遊感と共に地面に激突するが足が痺れたぐらいですぐに感覚が元に戻る。このスキルにも慣れたものだ。


 俺の着地に驚いた者も数人いたが、すぐに火事になっている第二校舎へ走っていく連中が多い。


 現場に辿り着いた俺は少し安堵する。火事と言ってもそこまで激しいものじゃない。

 黒い煙が立ち上って入るが少し前に動くようになった消火設備を使い、すでに数人がかりで火を消し始めている状況だ。後数分で火事もおさまるだろう。


 久我さんからコミュニティを頼むと言われた手前、火事なんてくだらないことが起こったのは痛ぇ。めんどくせぇことが起こったと思いながら辺りを見回す。


 消火活動には宿南(しょくなみ)や大勢の生産班や戦闘班がいるが……ラプがいねぇ。こんな時は率先して指揮をとるはずのヤツがどこにもいないとはどう言うことだ?


 それに……燃えているのは一階の端の教室のみ。あそこは空き教室で燃えるようなものは置いてなかったはずだが……。

 


【領域結界が破壊されました】


「あっ!?」


 ガラスの割れるような音と共に扇コミュニティを覆い尽くしていた領域結界が砕け散っていく。


 俺を含めて消化活動してる全員の動きが止まる。


 頭に響くアナウンスに俺は一瞬何が起きたかわからずに間抜けな声を出す。いち早く立ち直って周りを見ると誰もかれもが何が起こっているのかわからないって顔をしている。


「ふざけやがってっ!」


 俺は一言叫ぶと、一気に頭に血が上り自分の顔つきが凶悪に歪んでいるのがわかる。


 くそがっ!扇コミュニティに裏切り者、もしくは侵入者がいる。この火事もそいつの仕業か!


 ショッピングモールで久我さんに良いようにやられた記憶はまだ新しい。久我さんみたいな侵入者がここにも来たってことか!?



「手が空いている戦闘班は荷物を持っているヤツを片っ端から捕らえろっ!コアはアイテムボックスには入れられねぇ!必ずリュックか何かに入れているか手に持っているはずだ!」


 俺は大声で叫ぶと返事を待たずに走り出す。第二校舎を突っ切り、第三校舎の正面に出る。


 コアを置いていたのは第三校舎の一段低くなっている用務員室だ。戦闘班がローテーションで警備を行なっているはずだから〝タイプ持ち〟以外じゃそう簡単に突破できないはず。


 第三校舎内に入り、廊下を走っていくと事務員用の部屋が見えてきた。扉は開け放たれたままだ。


 おかしい……。警備の姿がどこにもない……。


 部屋を覗いてみると、コアが置いてあるはずの台座ががあるだけだ。コアは既にそこにはない。


 学校という特性上、隠れようと思えば隠れるところは無数にある。適当な教室に入っただけで簡単には見つけられなくなる。


 身を翻し近くの階段を一気に登っていく。屋上の扉をぶん殴って破壊すると屋上から下を見下ろす。


 学校の敷地から出るには三カ所しかない。だが二カ所は封鎖されている。火事のせいで周りが少し明るく何とか周囲が見える。



「……あいつか……」


 俺がいる真下、第三校舎から周りを伺うように出て来た人影が見える。リュックを背負い、今から物資の補充に行くような姿をしている。真夜中にするような格好じゃねぇな。


 そいつは火事とは反対方向に、人のいない方に走りだす。


 逃げられるとは思うなよ……。


 力を入れた口から歯を噛み締めギリっと音が鳴る。俺はかなり怒っている。


「金剛……」


 屋上のフェンスを飛び越え跳躍する。屋上は5階相当の高さがあるからかなりの落下速度になる。


 ちょうど芝生が敷かれている部分に着地すると芝生がめくり返り、足がめり込み、土煙が舞い、一瞬だけ俺の姿を覆い隠す。


 五階からの跳躍はかなり無理があったのか芝生に着地しても足に痺れが走ったが、無理した甲斐はありそうだ。


「ひぃっ……!?」


 俺の姿を見た目的の人物は小さい悲鳴をあげ、後退りしながらも俺から目を離さない。


 めり込んだ足を引き抜きながら俺は警告、いや、裏切り者は死ねばいい。まぁ殺せねぇし、死に戻りは無しって言われてっから手加減はしてやるが。


「遺言があるなら聞いてやる。ただし、言えるものならな」


 それでも多少の脅しは必要だ。どうせ死なないと思っているんだから遠慮することはねぇ。俺の目に映る人物は上田班の残り四人のうち一人。バキバキと指を鳴らしながら俺が近づいていくとヤツが叫びだす。


「と、闘矢くんもみんなも、あの久我って奴に騙されてるんだっ!」


 ……こいつは馬鹿なのか?俺は呆れて物が言えなくなる。俺が喋らないのをいいことにヤツは調子に乗って喋り出す。


「このままじゃ久我に全部持ってかれるぞっ!俺たちが作ってきたコミュニティも!物資も、全部だ!だから俺達はっ……!?」


 言葉の途中でぶん殴る。加減はしたが骨の一本ぐらいは逝ってるかもしれねぇ。まあそれは自業自得だ。死なない程度にボコボコにしようと思ったが……一撃で沈めちまった。


 加減を少し間違えたらしい。まあいい、ここで時間を食ってもしょうがねぇ。


 白目を剥いて崩れ落ちるコイツを転がすと、背負っていたリュックを開けて中を確認する。そこにはバスケットボール大の黒い球体。〝コア〟だ。


 久我さんが簡単には壊れないようにしたと言っていたから大丈夫だと思っていたが。


「俺達……か。まだ他にもいるって事だな。上田班が裏切ってる。ちっ!こんな時にラプはどこ行きやがった」


 俺は気絶しているコイツを抱え上げると第二校舎を突っ切って火事の現場に行く。俺が着いた時にはほぼ鎮火されて水浸しになっている。


「宿南。ラプを見かけなかったか?」


 現場で指示を飛ばしている宿南に話しかけるが、訝しげな表情で聞き返してくる。


「ラプさんですか?ここには来てないので、私はてっきり斑鳩さんと一緒に行動していると思っていましたが……いないのですか?」


 その言葉に嫌な予感が湧き上がってくる。ラプがまだいない?基本的に戦闘班を取り仕切っていたのはラプだ。上田班の今後のことに関してもラプに一任しておいたはず。


 俺はラプの報告と提案から合ったものを指示していただけだ。稀に前に出ることはあるが、基本はラプが前に出る。


「宿南。コイツを任せる。実行犯の一人だ。逃がさないように縛り上げて倉庫にでも入れておけ」


 担いでいたヤツを地面に下ろすと返事を聞かずに俺は歩き出す。


 少し歩いて校門の方に行くと戦闘班が一人を拘束して歩いてくる。拘束されているのは見たところ上田班の一人か。


「闘矢くん。コイツがリュックを持って外に出ようとしたから拘束したけど……ちょっとわけわかんねーこと言ってるんだ」


 一人が面倒くさそうに拘束されているヤツを見ながら話しかけてくる。


 コイツもか……何が起こっている?まあ良い。上田班の残りは二人。そいつらも拘束すればいい。


「ああ、とりあえず上田班は見かけ次第拘束だ。荷物を持っている奴もだ。捕まえたやつらは宿南に任せて警戒しろ。裏切り者がいるぞ」


 コイツのリュックには……大した物は入っていない。強いて言うなら食料か。食料倉庫から持ってきやがったな。


 たぶん残る二人も何も持っていないはず。俺が捕まえたヤツがコアを持って逃げるための囮か……。


 俺は身を翻すと戦闘班が使っている第一校舎に入っていく。念の為、念の為だ。


 目的地は、ラプが使っている教室。武器防具の解析をするってんで一室がラプ専用として使われている。たまに音緒が協力するってんで出入りしているぐらいで、他の人間はほとんど入らない……いや、確か四番隊がよく出入りしてたか……。


 奴らは何だかんだラプとは仲が良かったと思う。ラプの子飼いって感じになっていたな。


 廊下を迷いなく進んでいき、ラプの部屋の前に着く。


「ラプ!いるか?」


 返事はなし、人の気配もなし。教室のドアを開けると、そこには何もなかった。


 ガランとした空き教室そのままで、教室の中の物が全てなくなっている。ここでラプが寝泊まりしていたから家具がないなんてことはありえない。


「どこに行きやがった……?」


 それからすぐに上田班の残り二人を拘束したと連絡が入ったのは数分もたたないうちだった。

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― 新着の感想 ―
主人公じゃない主人公の試行錯誤、戸惑いながら順応しようとする人々、次々出てくる困難、面白いから気が向いたら続き書いてくれるかなと待ってます。
[良い点] もう本当に面白い!序盤はハラハラしつつも安心感があって楽しめるし、中盤から徐々に強者ムーブを出しつつ、後半で爽快無双!っていう最高な展開で、更新止まっちゃってるのが本当に惜しいです! [気…
[良い点] とても面白かった。 作者様の知識の範囲内に収めてる辺りも良いと思う。 [気になる点] レベルは20が上限なのかが気になりました。 あと拡張して何処かにいったスマホがとても気になるw …
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