第26話
音緒さんが獲得したスキルは〝集中〟
集中することで射撃の命中率、アイテム強化の時間短縮になる。
その分周りへの意識が若干散漫にはなるので一対一か、フォローしてくれるパーティーメンバーがいないと使いづらいスキルだろう。だがスキルを覚えたのは良いことだ。
まだ専用装備の〝マテリアルナイフ〟は上手く使えていないけど、こっちも練習すればそれに対応するスキルも覚えるんじゃないかとも思う。
「じゃあ行ってくるよ。斑鳩くんはコミュニティの方を任せた」
「ああ、奴らが生きていて説得に応じないようならぶっ殺して強制的に帰還でもさせてくれ。俺がさらに叩きのめしておく」
ニヤリと斑鳩くんが笑うと宿南さんも言葉を続ける。
「心配は不要だと思いますが、久我さんも気をつけてください。あなたが今いなくなられると希望を見出したコミュニティが絶望してしまいます」
心配そうな表情で宿南さんが見てくる。
「大丈夫。危なくなったら音緒さん抱えて逃げるからさ」
俺もニヤリと笑いながら答えると、まだ不安げな宿南さんと斑鳩くんを残して会議室を出て行く。
さて、俺の準備はほとんどない。
アイテムボックスにほとんどのものが入っているのでいつでも出発が可能だ。校舎を出ると動きまわっている人達を見ながら校門で音緒さんを待つ。
地図を見ながらショッピングモールの位置を確認しながらルートを考えてみるが、崩壊前の地図だと建物や交差点などの目印となるものが役に立たないことがあるからできる限り大通りを進んで行きたいところだ。
なるべくわかりやすい道を考えていると、タタタッと走ってくる音が聞こえ、足音の方を見ると音緒さんが走ってくる。まだ時間にはなっていないが早めに来てくれたらしい。
「お待たせしました」
軽く息を切らせつつ走ってきた音緒さんは動きやすいようにジーパン、運動靴、上には緑色のジャージを着ている。武器もしっかりと腰にハンドガン、マテリアルナイフを装備していて背中には小さいながらもリュックを背負っている。
「よし、じゃあ出発しよう。音緒さんはショッピングモールまでの道はわかる?」
「はい。地元ですから大丈夫です。道案内できます!」
役に立つのが嬉しいのか元気よく返事をしてくれる。
「じゃあよろしくお願いするよ……音緒さんがわかる限りの最短ルートで。出てくるゾンビは俺が相手するから」
そう言って音緒さんに地図を渡しておく。歩きながら大体のルートを教えてもらい、俺達は上田班の捜索を開始した。
◇◇◇
「ゾンビいますね」
「いるね」
コミュニティを出発して数分。わかっていたけどゾンビが普通にいる。大通りをいつも通りゾンビが我が物顔で闊歩している。
ふらふら歩いているゾンビ、壁に向かってぶるぶる震えているゾンビ、アスファルトの亀裂に挟まって動けないゾンビ。いつもの光景がそこにある。
ゾンビがこれだけいるってことは周囲に異形がいないってことになる。異形が出現した場合はいたとしても一体程度。人間でもどんくさい人っているから、ゾンビにもいて異形から離れるのが遅れたゾンビなのかもしれない。
俺の中ではもう上田班は異形になっていることはほぼ確定だと思っている。後は群れで出てくるか一体づつかの違いでしかない。
「ここは迂回しますか?」
「いや、この程度のゾンビなら問題ないよ。このまま突っ切っていこう」
音緒さんが地図を取りだして迂回ルートを探す前に俺はそう言いきる。現在の時刻はおおよそでしかないが昼過ぎだ。ショッピングモールまでは時間をかけずに行きたい。
瓦礫の陰に隠れている音緒さんよりも一歩前に出ると、魔力を広げて数体のゾンビを補足する。
「針」
俺の言葉と共にアスファルトが隆起し一瞬で数体のゾンビを串刺しにする。ざっと確認するが全てのゾンビの心臓を貫いている。
「相変わらずすごい魔法ですね……」
音緒さんが俺の後に続きながら串刺しになっているゾンビを見てため息を漏らす。魔法……なのかな?まあ魔法ということでいいか。針はレベル上げの際に音緒さんに見せている。
「今はこんな感じでサクサク倒していこう」
俺達は足早にその場を通りすぎると大通りを進んでいく。その間何度かゾンビに遭遇するが50メートル以内なら魔力で感知し針で倒し、離れている場合はスナイパーライフル――黒葬――で貫通させていく。
倒壊した家屋の陰に潜んでいるゾンビもいたが近いのは倒していき、感知範囲内ギリギリのゾンビは見つからないようにスルーしていく。昼過ぎから出発し、ショッピングモールが見えてきたのは日が落ち始めた夕方に差し掛かるときだった。
「……ショッピングモールが見えてきました。……ここからはどうしましょう?」
ここまでハイペースで歩いてきたこともあり音緒さんはちょっとキツそうだ。今日はここで一泊して明日捜索するか……。本当なら一人で捜索に行きたいところだが今のところ異形の影はない。無理して捜索することもないか。
「ショッピングモールに一泊しよう。どれだけ中にゾンビが入り込んでいるかわからないけど、三階辺りはシャッターが閉められていたからまだゾンビが入りこんでいない場所はあると思う」
「わかりました……」
疲れているのだろう。少しほっとしたような表情を見せて音緒さんが微笑む。
ゾンビをサクサク倒して進んでいるとはいえ、荒れ果てたアスファルトを歩いて行くのは疲れる。文句も言わずに着いてきているだけ頑張っていると思う。
大通りから少し細い道に入り、ショッピングモールに向かっていくと敷地が見えてきた。
数日前と変わらず周囲を囲む植木と、ところどころに止まっている車両。結界が消えたからといってすぐに荒れ果てるわけではないが、ショッピングモールの周りと比べるとどうしても違和感がある。
建物の状態としてはガラス張りになっているところはゾンビに破壊されたのか割れているところも多く、中が安全とは言えない状態になっている。
俺と音緒さんはゆっくりとショッピングモールの植木に近づきそこに身を隠す。
「ここからは安全第一で、できる限りゾンビに見つからないように入ろう。仲間を呼ばれるとすぐに休むことができなくなるからね」
「わ、わかりました。上田さんたちがここに立て籠ってくれてればいいんですが……」
植木に隠れて俺の後ろから返事が聞こえる。確かにここに立て籠っててくれれば助けることもできるかもしれないが、だがここにいたとしても彼らを見つける方法がない……。騒ぎを起こせば出てくる可能性もあるが逃げてしまうことも考えられる。
「どこか立て籠もることができるような場所を知らない?何かあった場合にそこに逃げ込むように言われてたとか」
少し考えるようなそぶりを見せたが音緒さんは首を横に振る。
「ごめんなさい。わからないです。世界がこんなになってから私はこのショッピングモールに来たことはないんです。……あっ、でももしかしたらセーブポイントになっていた従業員用の休憩室みたいなところかも……」
すっかり忘れていたがそう言えばセーブポイントってのがあったな。前にラプに聞いた話では、どうやって決められているかは不明だが、拠点と認識している建物の一部に勝手に設定されるらしい。
「セーブポイントか……。まずはそこに行ってみようか。場所は……知らないよね?」
俺が聞くと申し訳なさそうな顔をしながら音緒さんがこれも首を振る。
「わからないです……」
「いや大丈夫。探してみてダメならダメで仕方ないからね」