第23話
結界の拡大は二日ほどで終わらせることができた。現状では囲ってある少し先まで結界が伸びており外に出てゾンビに襲われたとしてもバリケードに張り付けば回避できるようになっている。
ただあくまでも結界はゾンビや異形を寄せ付けないってだけで弾くわけじゃない。入ろうと思えば入れるんじゃないかと思っている。なので今度ゾンビで実験してみよう。
結界の方はこれで良いだろう。魔力を二日分からっからになるほど使ってしまったが、ある程度は安心して農業ができるというものだ。次にやらなければいけないことは、車と木の板で囲んでいるバリケードを強化する。
完全に入ってこれないようにするにはバリケードの強化は必須だ。前にスーパーで異形が壁をぶち破って侵入してきたことを考えるとちょっとやそっとの強化じゃ厳しい。元々使っていた短剣レベルの強化をしておかないと簡単に破られてしまう。
俺用に用意してもらった教室を出ると通りかかった何人かが笑顔で挨拶をしてくれた。
「おはようございます久我さん。おかげさまで食事が前よりも増えて助かりました」
「おはようございます。これからもっと環境を整えていくので協力お願いします」
俺が軽く会釈するとみんな頷いて「まかせてくれ」と言いながら去っていく。年上に丁寧な言葉を使われるのは慣れていないが、みんな喜んでくれているみたいなのでそれはそれでいいか。そのうち慣れるだろう。
俺がここの代表になった時は不安そうな顔をした人達が多くいたが、奴隷制度の改善と結界の構築で友好的になってくれた人が多くいる。宿南さんが上手く言ってくれているのだと思うけど。
しかし戦闘班の中には俺を快く思っていない派閥みたいのがあるとラプからは聞いている。特に二度、俺に気絶させられ初めの会議に出られなかった上田くんはその派閥のリーダーみたいになってはいるそうだが、今のところは放置で良いだろう。
俺は学校の敷地を出ると農業区を歩いて行く。辺りを見回すと農作業に従事している生産班、倒壊した建物の瓦礫などをどかしてスペースを作っている戦闘班が大勢いる。ここのトップになった実感はないが、こうやってみんなで協力して何かを作っていっているんだと思うと嬉しくなる。
俺ができることは、いや、俺にしかできないことはバリケード強化だ。俺もできることをしっかりやらねばなるまい。
周りの風景を気分よく眺めながら赤城コミュニティはどうなっているのかとふと思う。あそこも俺が協力すればもっと復興していたかもしれないな。手紙一枚だけで出てきてしまったけど愛理さんは元気にしているだろうか?怒ってなければいいのだけど……。
ここの復興が終わって、もう一つコアを手に入れることができたら赤城コミュニティにも持っていってあげよう。
そんなことを考えながらバリケードの近くまで行くと、俺がここに入ってきたときに通った民家から数人の戦闘班が入ってきた。食料はある程度備蓄があるので敷地内の整備で外に出ている人は斑鳩くんが引き連れている四人だけのはずなんだけど……。
この民家から強化していくかと思い全員が入ってくるのを待っていると、俺と目が合った一人が舌打ちし、全員が横を通り抜けていく。
俺に従わない派閥の上田くんだ。彼は数人の同志を引き連れて校舎から出て行き、比較的無事な家屋を占拠してそこに住み始めているそうだ。人数は六人か……他にもいるのだろうか。
当然従わない人間に食料などの配給は無いため自分達で調達に行っていたのだろう。今帰ってきたってことは外で一夜を過ごしたようだ。
「さて、ちゃっちゃと始めるか」
彼らが去っていったのを見届けると念のため家屋に入り誰もいないことを確認する。誰かが入っているとどうなるのか見当もつかない。たぶん区別できるとは思うが人と建物が融合なんてしてしまったら怖すぎる。
「幻想拡張」
家屋に触れながらスキルを使う。イメージは頑丈な壁。入り口の扉は物を搬入できるように大きめに、壁は分厚く強固に作り変える。一瞬、赤と黒が入り混じった不気味な建築物が頭に浮かぶが軽く頭を振ってイメージを振り払う。あんな不気味なのを作ったらみんな出入りしたくなくなってしまう。
単純にゾンビや異形に破壊されない壁でいい。
イメージが上手くいっていたようですぐに完成する。
「やっぱ黒くなるのは変わらんのかい」
もう色は諦めたほうが良いだろう。パッと見、窓などは全てなくなっているが元の建物とほとんど変わらない。変わっているのは相変わらず色が黒になっていることだ。
「夜に見つかりづらいってことだから良いことなのか?でもゾンビには関係なさそうだけど……」
大きくなった――元裏口の扉から中に入ってみると中も真っ黒で窓がなくなっているので真っ暗だ。ものすごく通りにくい……。
「不味いな……。何か灯りになるものはないものか……」
アイテムボックスの中を見ているとスーパーで手に入れたと思われる緊急用に使えるだろうと思われるおもちゃみたいなLEDライトが段ボールの中から見つかった。
これを使えば良いか。LEDライトを取り出してスキルで変化させる。燃料は……周囲の魔力を使って発光するように変換。
通行の邪魔にならないように壁や天井に取り付けたかったが、普通の短剣じゃ刃が通らないほど硬くなっててどうにもできない。
仕方ないので廊下の隅に置いてみると、暗さが緩和されて明るくなったが……
「お化け屋敷の通路みたいだな……」
全面真っ黒で下から照らすLEDライトが間接照明のようになって照らすものだから結構不気味だ。ただ入口と出口が真っ直ぐ繋がっているから縦横2メートルぐらいのものなら運び込めるだろう。
「とりあえずはこれで良いか。黒いってだけで嫌な感じはしないし」
通路の左右にLEDライトを等間隔に設置して光源を確保して終了だ。何か要望があればラプや宿南さんが言ってくるだろう。
次はバリケードの補強だ。かなり人手を使って作ったのだろう。車や瓦礫、木材などでかなり広い範囲が囲まれている。
「強化するのは良いが、広げられなくなったら困るし、バリケード部分は強化して家で塞いでいる部分は一旦このままにするか」
人が増えて敷地を広げるってなった時にバリケードが邪魔になったら困る。なのでできる限り形を変えずにそのまま強化する。
出入り口も変化させなきゃ良かったと今更後悔するが、もう遅い。バリケードに使われている色々な種類の車を強化していくと一律で黒く染まっていく。
苦笑しながらテキパキとある程度纏めてスキルを使っていると誰かが近づいてくる。ゆっくりと後ろを振り向くと、〝サポートタイプ〟の物部音緒が歩いてきた。
そういえばまだ鑑定はしてなかったのを思いだし、アイテムボックスから鑑定メガネを取りだし音緒さんを鑑定する。
「鑑定」
モノベ ネオ
タイプ:サポートBタイプ
レベル:5
固有スキル:アイテム強化
スキル:なし
スキルは無しか。最低限しかレベルを上げていないのがわかる。会議室でも思ったことだが武器を携帯していない。確かナイフを持っているはずなんだけど。
彼女が俺の元までたどり着くまで少し待っていると、おどおどした態度で俺のところまでやってくる。これは打ち解けるまでには相当時間がかかりそうだ。
「く、久我さん。お疲れ様です。今日のお仕事は終わりました。……私に手伝えることは何かありませんか?」
一日に強化する防具は無理しない程度って感じには調整しているけど、もう終わったのか。終わったなら自由時間で良いんだけど。