第22話
【領域結界】コアに触れたことでわかったことがある。
この世界のルールを作っているのがこのコアだ。そしてコアにはそれぞれ役割がある。
神奈川の死んでも生きかえることができるというのも、神奈川のどこかにあるコアが司っているルールと言っていいだろう。それを破壊するか、俺が支配下に置くことでそのルールが消滅する。
たぶんだが、東京にそれに似たルールがなかったのは俺が職場の地下で破壊した【領域結界】がその役目を果たすはずだったんだろうと思う。
コアをそのままにしておけばゾンビは減らず死んでも生き返ることができるが、ゾンビを放置しておくのは問題がある。今はまだ幻想世界が始まって二ヶ月ほどしかたっていないからいいものの、ゾンビは時間と共に少しずつ強化されていくみたいだ。
なのでゾンビの数を減らしておくのは急務だと思う。現状では強化された感じは全くしないが、そのうち〝一般人タイプ〟では太刀打ちできないゾンビが大量に現れたら生き返るなんてほとんど意味を成さない。
「死に戻りができなくなる、ですか。確かにその考えはありましたが……。久我さんは具体的にそれについて知っていることはありますか?」
ラプが聞いてくるがどう答えたものか。あまり情報を出しすぎて反対されても面白くない。黙っておくのが最良か?
「それについては俺は情報はもってない。いつまでも死に戻れると思っているのが問題ってだけだ」
俺がそっけなく言い放つと何か言いたそうだったが引いてくれた。とりあえずはこれでいい。
「あとは、そうだな。四番隊だが東京で死亡したよ。俺がいたコミュニティに攻め込んできたから捕縛したんだが、東京でも死に戻れると思ったのか万能ナイフで自害した」
その一言でラプは納得したような顔をする。他の人達は、特に反応を示さない。納得しているのかその可能性を考えていたのか、女の子だけはちょっと暗い顔をしているが……。
まあ俺が出せる情報はこんなところか。
「では、私達はその久我さんがいたコミュニティの下に入るということですか?」
「いや、そうじゃない。それとこれとは別だ。単純に幽有斗飛悪が人間を攻めるのをやめさせたいってのが本音だ」
周りを見渡して反応を見るが、ある程度は納得してくれていると見ていいか。ダメならラプの〝思考誘導〟でも使ってもらって説得させればいい。
「話続けさせてもらうけど俺の目的は、コアの破壊、もしくは支配下に置くことだ。そのために人間同士で争うなんて無駄なことはする必要がない。俺達は俺達でしっかりとした生活基盤を作り戦力強化に勤める。できることなら他のコミュニティとも連携をとって〝タイプ持ち〟の協力を得たい」
奴隷や駒なんて言葉を使っている時点で反発を招くのは当たり前、これじゃ他のコミュニティの協力は得られにくい。幽有斗飛悪なんて名称も変えさせたいけど、それは後でもいいか……。
「あ、あの……私はどうすればいいんですか?私は戦うのはできそうにないです……」
中学生ぐらいの子が話しかけてくる。かなり俺にビビり気味ではあるが、ここにいる時点で役割のある子なんだろう。たぶんアイテム強化の〝タイプ持ち〟。
髪の毛は肩まで私服を着ているから年齢はよくわからないけど中学生ぐらいだろう。優しそうな顔をしている女の子だ。
「君は、アイテム強化の子かな?」
女の子は一度ラプの方を見ると、ラプが頷く。
「物部音緒と言います。……アイテム強化の〝タイプ持ち〟でレベルは5です……」
レベルは低いか。ショッピングモールで見かけなかったからたぶんここでアイテムを強化する仕事をしていたのだろう。
「戦えないのなら無理に戦わなくても大丈夫だよ。音緒さんは今まで通りアイテム強化を使ってもらえれば十分。戦える人戦えない人、関係なくゆっくりでいいから全員の洋服を強化していこう。まずは戦闘班の人を優先しようか」
なるべく柔らかい言葉になるように心掛けてゆっくりと答えてあげる。音緒さんは頷くとそのまま黙ってしまった。そのうち打ち解けられればいいけど。
武器防具は音緒さんに任せるとして、俺はそれ以外の設備なんかを担当するか……。後は戦力の強化。主に〝一般人タイプ〟のレベル上げ。
忙しくなりそうだ。
◇◇◇
その日のうちにラプから全員にコミュニティのトップが変わったことが通達され、今まで奴隷と称されていた人たちの待遇改善が約束され、生産班と呼び方も変更になった。
そして幽有斗飛悪という名称もこの学校の一文字を取り〝扇コミュニティ〟として新しく舵を切ることになった。
ちなみに全体のトップは俺と言うことになってはいるが、そんな事できるわけがないので幹部として案内してくれていた宿南さんを指名して生産班の代表になってもらった。
生産班は宿南さんと音緒さんに任せ働く人の時間管理や必要な物のリストを作ってもらうよう指示した。戦闘班の方は斑鳩くんとラプにそのまま任せた。
ただ何人かは戦闘班から抜けたいと言う人がいたのでそれを許可する。家族のために戦闘班にいたそうなので選べるなら生産班がいいらしい。
逆に戦闘班になりたい若者もいたのでそこら辺は後で纏めてステータスの獲得やレベルアップに協力しようと思う。
戦闘班と生産班に分けてはいるが、俺はそれについてはただの職業の話だと思っている。なのでそこにくだらない上も下もないようにラプには指示している。それでも若者特有の肥大化した自尊心が絡んでくることはあるのでそこは早々に叩きつぶしておきたい。
俺が言えたことじゃないが、強いから横暴な態度をとっていいってわけじゃない。原始人みたいな生活をしたいなら好きにすればいいが、崩壊前の生活を求めるならそれなりに崩壊前の倫理は持ってほしいと思う。
すべて前のようにとは言わないが、くだらない争いは必要ない。ラプには当分の間はスキルを有効に活用して最低限コントロールしてもらえばいい。
ということで、俺は今、敷地内の中央にある校舎に来ている。地下と言ってもいいものか、ちょっと地面より下になったところに用務員さん用の休憩室みたいなところがある。部屋は六畳ほどで畳があり、ちょっと昭和の学校の用務員室みたいでこの学校には似合わない。
そこで【領域結界】のコアに魔力を送り敷地内全てが入るように結界を張るのだ。
「幻想拡張」
まずは部屋の真ん中に置いてあるテーブルをコアを置きやすいように台座に変える。そして、もしもの時のために部屋全体に硬質化を使った改修を加える。校舎が崩れ落ちてもこの部屋だけは崩れないように。
それが完了すると台座にコアを置き、魔力をゆっくり注いでいく。敷地内全てを包み込むのにどれだけの魔力が必要なのか?魔力を注ぐたびに結界は大きくなっていく。
【領域結界に侵入しました】
アナウンスが頭の中に響き渡り、【ソロアタッカー】も発動しているのがわかる。結界は用務員室いっぱいに広がり、さらに広がっていく。
結局のところ結界はどこでも張れるのはわかった。ただどうしてもコアから球体状に結界ができるのでできる限り敷地と高さが同じ場所に設置したほうがいい。
時間をかけてMPの約半分を使った時点で一旦中止する。
「いつの間にかソロアタッカーが解除されているってことはある程度人が入ってられるだけの大きさにはなったみたいだな。確認しに行くか」
用務員室から外に出ると、他の人にもアナウンスは聞こえていたのだろう。ちょっと混乱が起きているが、ラプを始めとした戦闘班が説明に回って奮闘している。
「やっぱ俺には人の上に立つとか無理。配慮が足りない」
申し訳ないとは思いつつも、どこまで結界が伸びているのかを確認しに行く。