第21話
俺が挨拶をすると一瞬固まっていた数人が武器を持ち戦闘態勢をとる。
人数は倒れている上田くんを除くと五人。
「お前っ!ショッピングモールに来た侵入者かっ!?」
真っ青な顔になって後ずさっている宿南さんを横目に見つつ、正面の五人を見る。一人づつ叩きのめしていけばいいか?それとも纏めて?
ゆっくりと俺を囲むように周りこもうとする二人を視線で牽制しながら答える。
「ああ、そうだ。上田くんは鬱陶しかったからこうなったけど、今は話をしに来ただけだ」
そう言いながら軽く魔力を放出する。感覚としては、建物内でも使える。廊下、壁、天井と全てに魔力が広がり攻撃として使えるものであると確信する。ただこれ使った瞬間にバランスが崩れて倒壊したら洒落にならないので柱は避けたほうがいいな。
大地震で残った建物を壊してしまうのは俺としても気が引ける。
そして、俺の魔力の放出には……誰も気がついた様子がない。少し前の俺もそうだったが、魔力を感知できる人は限られていると考えていいだろう。たぶん優里亜さんみたいな魔力系のスキルを持っている人だけかな。
数秒のにらみ合いが続き、まとめてぶっ飛ばそうと口を開きかけた時、会議室のドアが開いてラプと言われる男が出てくる。
「ようこそ、侵入者さん。話し合いをお望みということで、こちらも話したいことがあるので入っていただいて構いません」
ラプがそう言うとドアを大きく開けてくれる。
「良いのかよっ、ラプさんっ!?こいつは別コミュニティの回し者だぞ!」
俺の周りにいた特攻服たちがラプに抗議するが、落ち着いた声でラプがたしなめる。
「落ち着いてください。ショッピングモールに来たのが本当に彼なら、はっきり言って私達では勝てません。話し合いに来たというのなら受ける以外の選択肢は無い」
ラプが五人を見ながら淡々と告げる。すぐに抗議していた特攻服たちが不服そうに顔を見合わせながらも静かになる。
これは……スキルを使っているな。ちょっと変な感じがする。まだ俺には自分の魔力以外がはっきりとは感じられないし見えないが、ラプは〝思考誘導〟を使っていると思う。ラプの言葉には警戒しておいたほうが良いだろう。
「話し合いを受けてもらってありがとう。たぶん悪いことにはならないと思うよ」
俺がそう言ってラプの元に歩いて行くと、道を遮っていた五人は渋々ながらも道を開ける。
「そう願いたいものですね。……どうぞ」
ラプに促されて会議室に入ると、そこにはショッピングモールで殺し合いをした斑鳩闘矢、そしてここには似つかわしくない中学生ぐらいの女の子がいた。
斑鳩くんが生きていることにほっとする自分がいる。ちゃんと生き返ってよかった。
ここは普通の会議室だな。生徒が使っている机じゃなくて長い机とパイプ椅子が置いてある。それを少しコンパクトに纏めて、上の人間だけで集まれるようにしているのだろう。
俺が中に入ると特攻服達も入ってきて、全員が椅子に座る。
扉が閉まる前にチラリと廊下を見ると宿南さんが上田くんの傍にいたから介抱してくれるのだろう。
「テメェが、あの時の侵入者か。コアは……リュックの中か?」
視線を正面に戻し斑鳩くんを見ると挨拶がてらリュックの中からコアを取り出す。
「はじめまして、と言っておくよ。俺は東京から来た久我と言います。コアはここにある」
取り出したコアを片手で持ち、軽く魔力を流して半径1メートルほどの結界を張る。それを見た全員が息をのんだところで結界を解除し、机の上を転がして斑鳩へ渡す。
「どう言うつもりだ?奪っておいてただ返しに来たわけじゃねぇだろう?」
手元まで転がってきたコアを斑鳩くんが受け取り、隣に座っているラプに渡す。
「そうだな。それは俺が完全にコントロールしてるから、もう誰も使えない」
それを聞いたラプが慌てて「解析」と呟きコアをじっと見つめるが、諦めたように手を離す。
「ダメですね。私には元々たいして解析できませんでしたが、これは完全に久我さんでしたか、彼に支配されていてどうにもなりません。……久我さんはサポート系、アイテム関連の能力をお持ちですか?」
ラプが聞いてくるがそれには答えず斑鳩に問いかける。
「俺が聞きたいのは、幽有斗飛悪のルールだ。誰に決定権がありどういう基準で上下が決まる?」
「そんなことを聞いてどうする?……まあいい。教えてやる。幽有斗飛悪じゃ強いヤツがルールだ」
斑鳩が俺を真っ直ぐに見ながらそう答える。そうだと思っていたが、それならちょうどいい。
「なら今日からは俺がここのルールだ。文句があるやつは今すぐここから出ていけ」
俺がそう言うと一瞬周りが静まりかえる。そしてすぐに怒りをあらわに今まで黙っていた特攻服たちが騒ぎだす。
「テメェ!こっちが黙って聞いてりゃ調子に乗りやがってっ!」
「ふっざけんなよっ!東京から来たからって神奈川舐めてんのかっ!?」
「んなことが通ると思ってんのかクソがっ!」
立ち上がり俺に木刀を向けてくる人もいる中で、斑鳩を見つめる。彼はどう思っているのだろう?ここのルールが強いヤツと言ったのは斑鳩だ。なら斑鳩を下した俺が一番強い、と言ってもいいんじゃないだろうか。
それとも他に斑鳩より強いヤツがいるのだろうか?それならとっととそいつを出してくれると話が早い。
特攻服たちが騒ぎたてる中、ラプが口を開く。
「……仕方ありませんね。強さがルール。これは幽有斗飛悪の絶対的なルールです。仮に久我さんを排除しようとしても、無理なのはわかりきっています。闘矢くんはどうですか?」
あっさりとラプが認める発言をし、特攻服たちが納得していなさそうな顔をしているが黙る。ここも〝思考誘導〟スキルか。正直厄介すぎる。ラプが何を考えているかわからないが今の場面では役に立っているが、こいつは要警戒ってところか。
「ちっ!まさかたった一人にやられるとは思わなかったがな。俺らもそうやって他のコミュニティを潰してきた。今度は俺らが屈する番が来たってだけだ」
斑鳩も意外と楽に認めるか……実際俺と戦ってるからな。実力差は彼が一番わかっているんだろう。
チラリと特攻服たちを見ると悔しそうな表情で黙り込んでいる。ならここで飴も出しておくか。
「納得いかない人もいるだろうが、メリットは大きい。まず一つ、結界を張ることができる。そして二つ、ある程度だが家電製品を使えるようになる」
俺の言葉に全員が驚いたように見てくる。幻想拡張使えば余裕だろう。
「本当か!?本当に使えるようになるのかっ!?」
特攻服の一人が食いつくように身を乗り出して聞いてくる。
「ああ、俺をトップに置くことでここは世界一安全で文明的な生活ができるようになる。ただし、今までのルールは変える」
ここで初めて今までずっと黙っていた少女が不安そうに聞いてくる。
「何を、変えるの……ですか?」
俺と目を合わせるとビクッと怯えて下を向いてしまう。……俺そんなに怖い顔していただろうか?ちょっとショック……。
「一つ、奴隷扱いは廃止して自由にさせる。二つ、他のコミュニティへの侵略行為は禁止。無駄に敵対しない。三つ、安易な死に戻りへの厳罰」
俺の言葉に全員が眉を顰める。
「前二つはわかりますが、死に戻りの厳罰ってのはなんででしょうか?」
ラプが聞いてくるので当たり前のことを言ってあげる。
「いつまでも死に戻ることができるって考え自体やめさせたい。東京ではそんなのはないからね。死に戻れなくなった時、危機感が欠如してるような集団じゃ困るでしょ」
まあ本当は、死に戻りをルールにしてる【領域結界】コアを俺が壊すかコントロールするかで効果が消えるからだけど。