第19話
前後左右から群がってくる数体のゾンビを両手の極黒で回転するように斬り裂く。ゾンビの胸から上がバターのように綺麗に切断され倒れていく。
「針」
すぐに後方にいたゾンビが手を伸ばしてくるが楽々とすり抜け、すれ違いざまに脇から心臓部までを一突き。別のところでは針が貫通し次々とゾンビを葬っていく。動きながら使える針の数は十数本が限界か。
「空気」
さらに固まって向かってくるゾンビには中心部に空気を破裂させて吹っ飛ばす。イメージが固まってきたのか威力も乗ってきて中心部に一番近いゾンビの片腕が吹きとんでいく。
良い感じだ。次々と襲いかかってくるゾンビをどんどん処理していける。MPの消費もほとんどない。一度につき2~5とコスパは最高だ。
両手に持っている短剣・極黒もほぼ手ごたえがないレベルでゾンビを斬り裂く。
そして極黒に魔力を通して振るう。
魔力の刃が短剣の延長線上に伸びて群がるゾンビを両断する。序でに瓦礫の山にも掠って破片を撒き散らす。遠、中、近と今の俺には死角がない。
戦えば戦うほど身体が動くようになっていく、魔力の使い方が上手くなっていく。ただ単に一つのことができるようになるスキルなんて必要ない。イメージだけで、それが明確になればなるほど何処までも何処までも強くなっていく、できることが増えていく。
気分が高揚していく。
気持ち悪いと思っていたゾンビすらずっと群がってきてほしいと思うほどに欲している。このまま延々と戦い続けることができたら楽しくて仕方ないだろう。
もうゾンビ相手に逃げる必要はない。
ただちょっと物足りない。
極黒の切れ味をもっと試したい。
スナイパーライフルの貫通力を見てみたい。
簡単に倒せる普通のゾンビじゃなくて、俺は異形を求めている。俺の短剣で掠り傷しか与えられない肥大化した腕、優希くんの必殺技を防いだ〝黒い異形〟の手の平。そんな今までは攻撃がほとんどと効かなかった存在を求めている。
黒く染まったハンドガンを連射する。トリガーを一回引くだけで連続で三発の弾丸が出る。これが三点バーストってやつだと思うが、かなり便利だ。
ただ、使えば使うほど命中率が上がっていく。スキルの〝集中〟を再現しているのか何なのか今までにない命中率だ。今なら愛理さんと射撃対決をしても勝てるんじゃないかと思うほど。
射撃が下手な俺用として追加してみた機能だが、完全にいらないことがわかった。それほど今の俺は何をやっても上手くいく。
すでにほとんど一発目の弾丸がゾンビの心臓部を捉え撃ち抜いていく。発射される二発目以降の弾丸が無駄撃ちになっていることが多い。これはさらに改良案件だな。
次にショットガン。広範囲に広がる仕様なのでもっとゾンビが集まってくれないと面白味はないが、自分から一体のゾンビに近づいて撃ってみる。
ハンドガンよりも少し強い反動を感じた時にはゾンビの胸から上がなくなっている。これも今となっては微妙か?上半身を吹っ飛ばす意味はない。まとめて当たるとハンドガンよりは威力が出ている。単にそれだけのことで、結局は動物ゾンビなどの小型に対して有効ではあるが面の広い人型ゾンビには巻き込めても二、三体だろう。
他にできることは……。
少しゾンビが減ったのでまだできることを考える。そうだ!〝ソロアタッカー〟の常時発動を試してみよう。
背負っているリュックの【領域結界】に魔力を流す。魔力量は少し。俺の身体を包み込める程度。
すぐにソロアタッカーが発動する。
身体が軽くなり、力が湧いてくる。
「針」
魔力が地面を……走っていかない?結界の手前で止まっている。これ以上広がっていかない。
そうか……王居で優里亜さんが失敗したのと同じで、結界内と結界外だと攻撃が通らない。エリアが複数ある時も同一エリア内じゃないと攻撃を通せなかった。それと同じ現象か。
俺の広げようとした魔力は結界に阻害されて外まで行かない。これは常時発動状態ってのは無しか。いや、近接戦闘ならいけるのか?
でも結界内に手を入れられて魔法使われたら大惨事になりそうな気がするが……いや、結界に当たった瞬間にメテオが消滅したらしいから大丈夫か。
今すぐに何かできないのをちょっと残念に思いながら結界を解除する。
それでも今の無双状態がなくなるわけじゃない。少しの間、俺の攻撃が止まったことで一度減ったゾンビがまた集まってくる。常にゾンビが喚いている状態なので面白いように集まってくる。
もっと何かできないものか。今度は広範囲殲滅できるものがほしい。針も悪くないがピンポイントではなく、広範囲を潰せるような、優里亜さんのメテオみたいなのが。
常にそこにあるもの……重力か。これもゲームやアニメでは結構当たり前にあるものだな。重力を増して、可愛く言えばぺしゃんこにするものや、悪い言い方をすると挽肉にするもの。黒い球体みたいなのを作って敵を引きつけるものなどいろいろある。
今俺が欲しいのは高範囲を殲滅できる攻撃だ。ぺしゃんこにするのがいい。
俺が広げられる魔力の範囲は半径50メートルほど。俺を中心にその範囲の重力を増大させる。名前は……グラビティでいいか。
それ以外が思いつかないし、イメージができている。
「重力」
口に出した瞬間に身体が重くなる。これは、俺にも効果が出ている。まだ軽く重さを感じる程度だから良いが強くしていくと俺も潰れてしまう。周りのゾンビ達は、今のところは効果があるのかないのかわからない程度だ。
範囲内の瓦礫が崩れてガラガラと音を立てている。雨上がりじゃなければ埃が物凄いことになっていただろう。
一度重力を解除する。条件付けをしっかりやり直したほうがいい。
効果範囲は俺から半径1メートルは効果なし後は効果ありをイメージする。ちょっと曖昧な感じだが慣れれば大丈夫だろう。
もう一度だ。時間はいくらでもある。
「重力」
魔力の広がった範囲の重力が増えていく。まだイメージが固定されず効果は薄い。ゆっくりと重くしていくが、効果中は魔力を消費するみたいで消費が激しい。
これも練習が必要だな。今のところゾンビにはたいして効果がないように思える。潰れるほど強力な威力が出てないのだろう。
周囲にある瓦礫のバランスが崩れて落ちていく程度だ。
「すぐに上手くはいかないか。それでも少し足を遅くすることはできる」
思い通りの効果はまだないがゾンビはまだまだいる。実験には困らない。このまま実験を続けながら歩いて行こう。
集まってくるゾンビを重力を使い足を遅くし、針で貫き、それを越えてくるゾンビは極黒で斬り裂きながら街道を進んでいく。
だんだん集まってくるゾンビが少なくなり、とうとうその姿が見えなくなってきた時に前方に多数の車を横に倒した囲いのようなものが見えてくる。左右を見るとそのままであったりと車でバリケードを作ったのだろう。
そのまま歩いて行くとこちらから見えるのは車の下側、多くの車を横に倒してゾンビが入ってこないように崩れた家の瓦礫と繋がっていたり、人の手でゾンビ対策をしているのは嬉しくなる。
〝異形〟には効果がなさそうだが、ゾンビは人を感知しなければわざわざ突っ込んでこないので上手く中が見れないように工夫しているのが見える。
「車のバランスは悪そうだ。このまま崩して進むのも気が引けるし、どこかに入り口みたいなのはないのかな?」
外にはゾンビがいるので出入りする場所を作るかどうかは不明だが、ここが幽有斗飛悪の支配地域の一部ならどこかに出入り口ぐらいはあるだろう。
俺はバリケード沿いに歩きながら出入り口を探すことにした。