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幕間 幽有斗飛悪

 side 大谷ラプソディ


 部屋の四方で蝋燭がゆらゆら揺れる。


 ここはショッピングモールにある、私達が〝セーブポイント〟と呼んでいる部屋。


 元は従業員用の休憩所なのか自動販売機や椅子、テーブルが多く置かれていて店舗の一つ一つよりも大きい部屋の作りになっている。


 時計を見ると、もうすぐ彼が死んでから一時間。そろそろ生き返る時刻ということになります。


 私はイライラしながらも、焦りを覚える。まさか斑鳩闘矢(いかるがとうや)を殺せるような人物がこんなに早く神奈川に現れるとは思わなかった。


 これは早急に計画自体を変更しなければいけない。


 蝋燭の炎が揺らめき、まるで黒魔術の儀式をしているような光景の中、斑鳩闘矢が()()した。


 仰向けで目をつぶっていた彼がゆっくりと目を開ける。


「おはようございます。闘矢くん。目覚めはどうですか?」


「最悪だ……。いや、最高か?まさかあそこまで差があるとは思ってもみなかった。〝タイプ持ち〟ってのはあそこまで強くなるのか……」


 闘矢は自分の首筋をさすりながらそう答える。


 イライラが募る。馬鹿が。お前が負けたらどうにもならないだろうが!戦うしか能のないお前を幽有斗飛悪(ユートピア)のトップに据えて集団として纏めてきたのは誰だと思っているっ!


 私が〝タイプ持ち〟だったのならお前なんか必要なかったっ!


 つい口から出そうになる罵りをぐっとこらえながら努めて冷静に彼を促す。


「確かにあの侵入者は強かったですね。私にはわからなかったのですが……勝てそうですか?」


 私の言葉に斑鳩闘矢は考えだす。即答はしない、ですか……少しは考えられる余地があるのでしょうか?


「いや、無理だろうな。〝二兎掌握〟と〝金剛〟を合わせた内部破壊も避けられる。普段のスピードも速かったが、あそこからさらに速くなる。正直なところ全く捉えられる気がしない」


 この脳筋にそこまで言わせる強さですか……。それは困りましたね。


 私は考える。計画よりは早かったですが、もう幽有斗飛悪(ユートピア)は終わりにしたほうがいい。


「侵入者の言葉を信じるなら、声から男性だと判断しますが、複数のコミュニティから幽有斗飛悪(ユートピア)は恨みを買っている。闘矢くんが負けたと広まればこぞって今まで様子見をしていた〝タイプ持ち〟がここを襲いにくるだろう、ということです。ここを潰したいコミュニティの回し者だったみたいですね」


 幽有斗飛悪(ユートピア)は神奈川のコミュニティをいくつか纏めた集団です。ショッピングモールには戦闘ができる駒しかいませんが別の場所には食料を作らせている奴隷たちがいます。闘矢くんが負けたと知られれば、反感を持っている人達が反乱を起こす可能性もあります。


 どんなに強くても、一度負けてしまうと侮られてしまう。斑鳩闘矢の強さならそれは起こりえないと思っていましたが……誤算でしたね。


 ただあくまでもこの馬鹿げた集団幽有斗飛悪(ユートピア)のトップは斑鳩闘矢です。


 多少、奴隷たちからの反感はあるかと思いますが私は斑鳩闘矢の指示に従っただけ、逆らえなかったという理由がある。()()()()()()立ち回ってきた。この【思考誘導】スキルで。


 私の現在のレベル以上のステータス持ちには効果はないがレベルの低い人間やステータスを持っていない人間にはしっかり効いているはず。いざとなれば私は逃げることができる。


「で、今の状況はどうなっている?肉塊がいただろ?」


「侵入者は闘矢くんと戦った後、肉塊も一撃で倒しました。被害は一人と軽微ですが……コアは奪われました」


 肉塊を一撃と聞いた闘矢くんは目の色を変えてくる。


「ちょっと待て!短剣でどうやって肉塊を倒せる!?まだ隠し玉があったということか?」


 すごい勢いで迫ってくる闘矢くんに少し驚いてしまいましたが……私は実際には見ていません。現場にいた駒たちに聞いた話を闘矢くんに教える。


「ソファを何処からか出して、槍で肉塊を爆発させた……。おい、ラプ、それは前からお前が欲しいと言っていたアイテムボックスとか言うものじゃないのか?」


 ……脳筋にしては鋭いですね。アイテム強化のスキルで作らせようとしていたライトノベルでは鉄板アイテムのアイテムボックス。言い方はいろいろありますがまぁそれでしょう。


 いまだにアイテム強化では作ることができず諦めていた一品。何とかあの侵入者にコンタクトをとることはできないものでしょうか。


「ええ、そうだと思われます。まあその話はいいとして、これからどうします?コアが奪われてしまったのでショッピングモールはゾンビから守ってくれません。明るくなってから全員で移動するのが得策だと思いますが」


「夜はビビってるやつらが多い。明るくなり次第移動だ。囲いのある農業区に向かう」


 まぁそこでしょうね。一番近く、〝アイテム強化〟持ちがいる場所。今はまだ闘矢くんに従いましょう。



◇◇◇



 夜が明けたと同時にショッピングモールから移動を開始する。荷物は全員に用意させていたのでスムーズに行動ができました。ただ、人数が少なくなっていますね。


 昨日までは100人以上いたはずが90人前後になっている。元から反感を持っていた人達はいましたし、結界があるからここにいた人間も多い。こうなるのは予想済みです。


 馬鹿ですね。離れるのはこのタイミングではないのに……。


 荒廃した町の中を闘矢くんを先頭に、その周囲に隊長格が並んで歩いて行く。


 私は闘矢くんの後ろで、棒を観察しながら歩いて行く。


「それなんすか?ラプさん」


 横を歩いていた隊長の一人、一番隊の隊長、上田翔太(うえだしょうた)が話しかけてくる。


「これは侵入者が持っていた槍の柄の部分ですよ」


 私の答えに嫌そうな顔をして翔太くんが黙る。確か彼は侵入者に果敢に立ち向かい、一撃で気絶させられたらしいですね。


 闘矢くんが負ける相手に勝てるわけないでしょうに。ここの全員でかかっても闘矢くんに傷一つつけられないのだから。まずは自分の力量を把握したほうがいいですね。アイテムで強くなった気になられちゃ駒としては使いものにならないですし。


「解析」


 私はスキルを使って持っている棒を解析する。このスキルは便利だ。これが何であるか、そこそこ詳しい事まで把握することができる。


 この棒は……ただの木の棒ですが、強化されている。単純に硬くなっているだけですが、私の解析では元の全体像まで把握することができる。木の棒単体はほぼ私達が使っている木刀と変わらない。


 だが槍全体となると、硬質化、切れ味の強化、そして……私にも把握できない何かの力で変質している。これは初めてですね。


 闘矢くんの手甲もこの世界の物質ではない物で作られていましたが、この槍はそれともまた違う。



「闘矢さんっ!あれを見てください」


 私が槍をいろいろ考察していると、何かあったのか騒がしくなる。ふと全員が向いている方を見ると、不気味なものがそこにあった。


「何だ?あれは……」


 私達の目に入ったのは、赤と黒が入り混じったような家。見ていると不快感、不安感を煽ってくるような気持ちが悪い建築物。


 近づけば近づくほど吸い込まれるような錯覚に陥る。


「ここら辺一帯は探索し終わってますが、あれは見たことがありません……」


 一人がそう話す。


 こんなものを見つければ誰かしらの話題に上がっていたはずです。ならこれは最近できたとでもいうのでしょうか?


 まだこの世界は始まったばかり、どんな現象が起こるかもわからない。この不気味な家が何かの現象であるというのなら調べないわけにはいかない。


 これも【領域結界】に関わる何かであると私は判断する。コアに近いものが存在する可能性がある。


「調べましょう。階段もありますし」


 私の一声で全員が動き出す。特攻服を着た数人が慎重に家に近づいていく。他のメンバーは家を囲むように広がり周囲を警戒する。


 ここで怖いのは家に注視するあまりゾンビの接近に気がつかないことだ。


 私と闘矢くんも彼らの後に続き家に近づく。だんだん気持ちが悪くなってくる。闘矢くんを見るが、彼だけは平気そうですね。他のメンバーは顔が歪んでいるのが見える。


 家の周囲を一周回ってみるがどこも同じ。気持ちが悪くなるような赤と黒が入り混じる壁。壁も綺麗に平らになっているのではなく、所々不規則な凹凸がある。


 そして一階には入り口らしきものはない。入り口は、階段を上った二階に一つあるだけ。


 隊長格が一人、唯一中に入れるであろう扉に続く階段の手すりに手を伸ばす。

 その時、私の目に止まらない速さで



 ——彼の上半身がなくなった


 頭の中でその光景を処理できないまま私はフリーズする。


 それと同時にガッと服を引っ張られ引き倒される。喉が締め付けられむせた瞬間に右腕に激痛が走る。


「んぐっ……ああぁぁっ!?」


 痛みと喉が締め付けられたことで苦しさに蹲るとびちゃびちゃと何かの液体が身体にかかってくる。


 横を見ると私の襟を引っ張ったはずの斑鳩闘矢だと思われる()()が倒れて落ちている。


 何だ!?何が起きたっ!?

 必死に顔だけ上げて周りを見ると、今までいた駒たちが全て倒れている。


 全ての倒れている人間の、上半身が存在しない。まるで腹から上だけが綺麗に抉りとられたような状況。

 そして腹からは臓物と血が流れ落ちている。


 濃い鉄の臭いが苦しさを助長させる。反射的に鼻と口を覆いたくなるが、上げた左手は赤く血に濡れている。


 そして右腕は……存在しなかった。


 中程から切断されダラダラと血を流している。


 頭の中が真っ白になる。何が起きているのか理解ができず、ジンジンと痛む身体に力が入らず、私の意識はそこでなくなった。



 そして私達はショッピングモールのセーブポイントで目を覚ますことになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思ってたよりヤバいもんだった・・・
[一言] 外敵からの干渉に対しては安全ではあったんやね
[一言] 遠くにいって結界がなくなってもセーブ機能は残ってるのね
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