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第14話

 そんなことを考えていると、後ろから気配がする。振り向くと特攻服が俺に向かって釘バットを振り降ろしている。


 いや、それは想定内。横にズレてそれを躱すと壊れた槍――棒だけど、でカウンター気味に顔面に叩きつける。


「ぎゅ……、がっがっ……」


 顔に入った一撃で特攻服が崩れ落ちる。釘バットはいかんよ。釘が出てるから捌けないし、下手すりゃソードブレイカーみたいに使われたら武器が折れるかもしれないし。


 周りを確認すると、完全に囲まれている。残る特攻服は4人。

 その外側に大勢の人間が俺を睨みつけている。さっきまで怯えていたのとはえらい違いだ。


 異形はゾンビになる可能性があるから怖いが、俺なら殺し殺されても生き返れるから怖くない感じかな。


「この人数だ。いくら〝タイプ持ち〟でも全員を相手にして逃げきれるねぇぞ?諦めてコアを返せ」


 特攻服の一人がそう言って前に出る。残りもじわりじわりと距離を詰めてくる。異形を倒した瞬間にこれかよ。


 面倒だな。流石に一斉に飛びかかられたら不味いかもしれないが……先手を打つか。


 俺は諦めたように持っている棒を離すと背負っているリュックから【領域結界】コアを取りだし片手に持つ。


 それを前にいる特攻服に見せながら声を出す。


「動くな!一人でも動いたらコアを破壊する」


 コアを周りに見せるように少し高く上げて本物であることをアピールする。囲んでいる全員に動揺が走る。


「テメェ!汚ねぇぞっ!」

「それがどれだけ大事なものかわかってねぇのかっ!」

「絶対殺す!」


 様々なヤジが飛んでくるが俺には関係ない。よし、これで逃げよう。ギャーギャーわめき続ける周囲に俺の気分もどんどん悪くなってくる。気持ち悪い……。


「道を開けろっ!これが壊れたらお前らも困るだろ?」


 気分の悪さに顔を顰めながら怒鳴りつけると何人かは後ずさるが、目の前にいる特攻服は怯まない。


「コアを欲しがってるのはテメェもだろ?テメェはコアを壊せない!全員騙されるなっ!」


 ちっ、めんどうな奴がいるな。


「勘違いするな。俺の目的はお前ら〝幽有斗飛悪(ユートピア)〟の壊滅だ。どれだけ他のコミュニティを攻めてきたかお前たち自身がわかってるだろ?コアは二の次、お前らを潰すのが最優先だ」


 とりあえずそれっぽいことを言ってみる。たぶん色々なコミュニティを攻めて恨みかってるはずなんだよな。


「コアがなくなればお前たちに安全な場所はない。斑鳩も負けた。これが伝われば他のコミュニティのタイプ持ちも大勢攻めてくるぞ。俺はコアを破壊して死ねばいいだけだからな」


 そう言って周りを見渡すと、結構な人数が俯いている。この隙に逃げよう。


「なら余計にテメェは生きても死んでも帰らせねぇ!」


 正面にいた特攻服が突っ込んでくるが、ひらりと躱すと空いた部分に俺は突っ込んでいく。完全に気を抜いていた数人を殴り倒し、包囲網を突破するのは簡単だった。


 変わらず突っ込んでくる数人の前にコアを差し出すと攻撃を躊躇するからその隙にすり抜けていく。


 背後に怒声を浴びながら俺は悠々とショッピングモールを脱出することができた。一度外に出てしまえばこの暗闇の中だ。俺を探すのは困難だろう。


「さて、どこか休めるところを探しますか」


 夜の町、暗視メガネがない時は恐怖しかなかったが、今ははっきりと周囲が見えることで気持ちに余裕ができた。


 少し気が抜けたのが良くなかった。

 じわりじわりと不快感が湧いてきて俺は気持ち悪さに足を止めて、嘔吐した。



「最悪だ……今になって罪悪感が……」


 人を殺した気持ち悪さ、罪悪感、焦燥感などいろいろな感情が頭の中でごちゃごちゃに混ざり合っている。


 吐き気を何度も繰り返しながら崩れていない建物を探す。暗視メガネで暗闇でもはっきりと見えるはずなのに視界はチカチカと点滅を繰り返すように定まらない。


 やはり殺人なんてものは普通の人間には荷が重い。生き返るとわかっていても今までの根本的な価値観は簡単には変わらない。どれだけメンタル弱いんだと自嘲する。


「くそっ、これじゃどっちが勝ったのかわからない……」



 気持ち悪さを堪えながらふらふらしながら歩き続ける。異形のおかげとでも言おうか、近くにゾンビの陰がないことだけが救いだ。


 道の左右に山となるように固まっている瓦礫、普段は出歩かない夜道がさらに気分を下げてくる。道路沿いに歩き、少ししてから念のために小道をジグザグに歩いてショッピングモールから離れていく。

 

 どれぐらい歩いたかわからないが崩れかけている一軒家を発見した。

 二階建てで煤で汚れているが元々は白い家だったというのがわかる。


 家の半分は崩れて穴が空いている状態だが、一階は埋まっているし、瓦礫を乗り越えて二階に行こうとすれば音がするから誰か来てもすぐに気がつけるだろう。


 ここでいい。すぐにでも横になって休みたい。だが、ゾンビ対策も怠れない。


「ダメだ……めんどい……幻想拡張」


 俺は家の壁に手を当ててもたれかかる様に幻想拡張を使う。今まで建物全体に使ったことはないが、やるだけやってダメなら諦めればいい。 イメージは……体調悪くて思考が纏まらない。


 ゾンビ、人間、誰も入れないければいい。俺以外が出入りできなければ何でもいい。


 ぐるぐる思考が回る中、身体から魔力が抜けていく。


 ——殺人


 ——嫌悪


 ——忌避


 ——焦燥


 気持ち悪さで負の感情が頭の中で回っていく。


「何だ……?何か今までと違う気がする。……イメージが固まってないからか?……」



 どれぐらい壁にもたれかかっていたのかわからない。一分か数秒か。だが、何か出来たらしい。


「安全に休めるなら何でもいい」


 精神的な疲労なのか肉体的な疲労なのか曖昧な感覚のまま、いつの間にか近くに出来ていた階段を登って二階に辿り着く。


 崩れた時の大穴は塞がったらしい。階段の上にはドアが付いている。これで鍵さえかければ誰も入ってこれないだろう。


 ドアを開けて室内に入ると鍵を掛ける。何もない……。幻想拡張で家具などが消えたのだろうか?


 すぐに考えるのを止めてアイテムボックスからソファと毛布をとりだすと、リュックを床に置く。


「やっと休める……」


 ソファに倒れるように寝転ぶと、どっと疲れが押し寄せてくる。頭も痛くなり、かなり疲労しているのを自覚する。

 すぐに寝れるかと思ったが寝れない。眼鏡も外してしまったので周囲は真っ暗で何も見えず、物音もしない。


 崩壊前の世界での殺人犯の逃亡生活とはこんな感じなのかと思い自嘲する。ただ幽有斗飛悪(ユートピア)と完全に敵対したのだからこれからも今日みたいなことは続くだろう。


 横になっても気持ち悪さはなくならず、体調がどんどん悪くなっていった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人を殺したことより自分のせいでゾンビになり、生き返れなくなった人間がいる方が精神的にきつくないですか?
[一言] 面白い
[一言] お? ダンジョンマスター誕生かな。
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