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第13話

 倒れる異形を放置して肉塊の方に向き直る。近くでみるとデカいな。頭が首と一体化して下にいくほど広がっているから短剣じゃ心臓部に届かない。


「お、お前っ!闘矢さんはっ?闘矢さんはどうしたっ!?」


 特攻服の一人が木刀を構えたまま近づいてくる。俺に構っている暇なんかあるのか?


「俺がここにいるってことは、わかるだろ?」


 一言そう言い放つと、最近作ったばかりの槍をアイテムボックスから取りだす。これならギリギリ届くと思う。


 ハンドガンやスナイパーライフルを使ってもいいが、ラプと言われるナンバー2には見せたくない。


 飛び道具はできるだけ使わずに何とかできれば良いけど。


 後はどれだけ正確に心臓部を突けるかどうかだ。


 肉塊は異形が倒されたのがわかったのか俺の方を向いている。たぶん頭部なんだろうが、目や鼻がなく首も繋がっているので正面から見るとデカい三角形に口がついているようにしか見えない。


「まずはどれぐらい斬れるのか、試させてもらう」


 槍を持って肉塊に近づくと、肉塊が小刻みに揺れる。何かの攻撃かと思い警戒して立ち止まるが、何もおこらない。


 今までの〝異形〟と違い過ぎてて警戒心が先に立ってしまう。短い手足でどうやって届かない口まで人間を運んで食らいついたのかを俺は見ていないので何かあるんだとは思うが……。


「そこの特攻服。肉塊の弱点は?それとどうやって人を口に咥えた?」


 俺は近くにいる別の特攻服の傍に行くと早口で質問をする。


 驚いたように俺を見る特攻服だが、すぐに俺に鉄パイプを突きつけて警戒する。



「お前は敵だろうがっ!教える義理はねぇ!」


 特攻服は俺を睨みつけながら吐き捨てる。


 彼は今の状況を理解していないのだろうか?周りを見れば効かない攻撃、立ち竦んで動けない大勢の人達。


「一時間も持ち堪えれば闘矢くんが来る。それまではテメェも肉塊も俺達が抑えるっ!」


 そう言うと特攻服は俺と肉塊の両方が視界に入るように離れ周りに指示を出す。


「全員で肉塊を抑えろっ!こいつは俺が何とかするっ!」


 駐車場内に特攻服の声が響き渡るが、誰の返事もないし動きも変わらない。


 それはそうだろう。

 俺がここにいるってことは斑鳩を下したということだ。さらに異形を瞬殺したのを見ている人間は多くいる。

 どう考えても俺に全てぶん投げた方が生存率が高いってわかるだろうに。


 少しイラつくが、彼に感謝するのは斑鳩がここに来るまでに()()()かかるのを教えてくれたことだ。


 彼は特攻服を着ているので幽有斗飛悪(ユートピア)では強い方なのだろう。


「教えてくれないなら、もういい」


 肉塊と戦っている時に背後から邪魔されると面倒だ。俺は特攻服に近づくと彼が反応する前に鳩尾に槍の柄を叩き込む。


 崩れ落ちる特攻服をそのまま柄を使って肉塊から離れるように仲間の方へ放り投げる。


「へぶっ……」


 たぶん誰かがキャッチしてくれた声がしたので、それは放置。俺のすぐ近くで見ていた私服の男に再度問いかける。気分が悪い……。


「再度の質問だ。肉塊はどうやって人を口に咥えた?」


 私服の男は俺に話しかけられるとビクリと身を震わせながら一歩下がりつつ教えてくれた。


「あ、あぁ、肉塊に触れると物や人はくっついて離れなくなる……んです。それで上に上がっていきます。くっつかないのは強化された武器防具だけだとラプさんが言ってました……」



 なるほど。デカい肉塊にくっついてエスカレーターのように口まで上がっていくのか。くっつかないのは強化された物だけか。なら話は簡単だな。


 俺が少し離れたからか肉塊はふらふら人を追いかけ、駐車場内を歩き回り、大多数の人は距離をとって見ているだけ、特攻服の何人かが肉塊を殴っているが足を少し止める程度で効果が薄い。


 とりあえず心臓部がいまいちわからないがやってみるか。


 槍を持ったまま歩きまわっている肉塊の側面に移動する。


 三角形の底辺辺りを軽く槍で薙払う。


 柔らかいものを斬るような感触と共に、少し肉が抉れているが数秒で元に戻ってしまった。単純な切断もあまり効果はなさそうだ。


 赤城コミュニティで使っているような両手剣を強化して使えば斬り離すこともできるかもしれないが、俺は持っていない。今度支給してもらったほうが良いかもしれない。

 ただ俺が作った槍でもくっついて離れないなんてことはないのでこれで十分やれるだろう。


 俺の一撃を受けた肉塊の異形が俺の方に身体を向ける。やる気になってくれたみたいで良いことだ。正直なところ、さっきからイライラというか焦りみたいなのが俺の中でグルグル回っている。


 アイテムボックスから一人用のソファを取りだし、肉塊の異形に投げつける。


 肉塊に当たったソファが腹だと思われる部分より少し下に張り付いて固定された。微妙にソファが振動するように動いているが何とかなるだろう。


 軽く息を吐きだすとイメージを膨らませる。


 〝黒い異形〟を倒した時の一撃。【ソロアタッカー】は発動していないが、同じことをするぐらいならできるはず。


 縮地のイメージと一瞬の加速。


 武器は短剣じゃないけど、やることは同じだ。ただ一点に集中して全力でぶっ放すだけ。


 腹にソファをくっつけた肉塊が俺の方に向かってくる。多少だが、ソファがさっきよりも肉塊にめり込んでいる気がする。ああやって物を吸収する能力もあるのだろうか?


 集中しながら足に力をこめ一気にソファの上に乗る。多少バランスはとりにくいが、何とか立つことができる。


 ――左足を前に


 ――右足を後ろに


 ――上半身を捻り


 ――槍を片手で持ち



 イメージ通り。瞬間的に肉塊の小刻みな振動が止まった感覚の中、槍を持った右腕を突きの動作に入る。その瞬間から激しくブレるように暴れ出す。


 レベルが上がったからかソロアタッカーが発動していないからか前よりはブレを抑えることができる。


 槍が肉塊に接近し、当たった瞬間に



 ――肉塊が弾けた



 槍が当たった部分から抉れるように肉塊がびちゃびちゃと音を立てて吹きとんでいく。


 肉塊の異形の胸から上を完全に吹き飛ばし、周囲にいた人達の上にぐちゃぐちゃとへばりついていく。


「ぎゃあぁ」

「へぶあぁ」

「うごっ」


 肉塊まみれになった人達が悲鳴を上げながら必死に払いのけている。肉塊の近くにいた特攻服の一人なんかは勢いよく塊が直撃してぶっ倒れている。


 広範囲に肉塊をまき散らせながら威力の高さに俺自身も驚いているとぐらりと揺れて肉塊が正座したような体勢で動かなくなる。


 固いものを破壊した感覚はしっかりと残っている。吹っ飛んでしまったので詳しい位置はわからないが、だいたい弱点はここら辺で合っていたのだろう。


【人類の反逆者の討伐に成功しました】


 ぐらりとソファが揺れる中で素早く降りると右手の感触を確かめる。


 腕を回してみたり手をニギニギしてみるが多少のダルさがあるが、前の様に動かせないほどじゃない。身体も痛みはないしこれならまだ十分戦える。ただ槍は先端から半分が折れてなくなっていた。


 武器の強度が足りない……もっと固い武器を作らないと一回使うごとに壊していたら話にならない。


 それに、今回はレベルが上がっていない。


 今までは〝異形〟を倒すたびにレベルが上がっていたが、現在のレベルは20。


 ここから必要経験値が上がるのか、それとも他に何かあるのか?アナウンスは異形を倒した時と同じだったから、この肉塊も異形と同種で間違いない。


 倒れるというよりも上の方がなくなった三角錐の状態で目の前にある異形を見る。たぶん他にも見たことがない異形が多くいるんだろうな。対応できるように複数の形状の武器を作っておくのは必須かもしれない。

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