第7話
微かな物音で俺は目を覚ます。
目を開けるが真っ暗で何も見えない。一瞬にして自分の置かれている状況を思い出す。
ここはコンビニのバックヤード、出入り口は塞いであるが壁一枚向こうはゾンビの徘徊する終末世界。
「!?」
ガタゴトとコンビニの店内だと思われる方向から音がする。
目を開けても暗いという事は、夜になるまで寝てしまったということか。
やらかした……ちょっと休憩するだけのつもりだったのに。俺は寝っ転がったまま動けない。少しでも動くと気が付かれそうで、じっと息を潜めるしかできない。
どれぐらい時間が経ったのははわからないが、店内の方からの音は止まらない。
緊張が限界に達し、俺は音を立てないようにゆっくりと起き上がる。ポキッとなる関節の音さえもゾンビを呼び込む大音量に思えてくる。
少し離れたところに置いてある剣を手に取ると、足元に気をつけつつ、ドリンク補充用の開けっ放しの冷蔵庫の隙間から店内を覗いてみる。
暗くてよくわからないが、レジのところに人影がある。たぶんゾンビが入ってきたのだろう。
少しの間観察していると、昼間よりも動きが活発なような気がする。
昼間にあったゾンビたちは、ゆっくりと歩くようにふらふらと彷徨っていた。
だがこのゾンビは昼間よりも動きが早いように感じる。
「夜になると活性化するタイプのゾンビなのか?」
ぼそっと声に出してしまい慌てて口を閉じる。ゾンビの動きが変わらなかったことに安堵し、さらに観察を続ける。
早く何処かにいってくれないかな。ここに居られると俺は何もできないし、寝るなんて怖くてできない。
どれぐらいの時間がたったかはわからないが、満足したのか店内からゾンビは出ていった。
「ふう……ゾンビにも何かのルーチンがあるのか?」
ゾンビを見ていると何かをしようとしているんじゃないかと思う行動があった。
今のゾンビはレジに執拗に手を伸ばしていた。
何となく感じていて、考えないようにしていたが、どう見ても〝ゾンビ〟は元人間だろうと予想できる。昼間追いかけてきたゾンビは上半身裸なのはなぜだか不明だが、スーツのスラックスをはいていたし、昼間倒したゾンビはどこにでも売っているような私服を着ていた。
そう考えると黒いシミだけで道路に死体がなかったのも納得がいく。
ゾンビに殺されるか噛まれるかすると、人間が〝ゾンビ〟になる。
考えただけで寒気がして身体を抱きかかえる。俺もゾンビに噛まれればゾンビになる。
ゾンビ達は大まかな生前の行動を無意識に行っているのだとすると、今のゾンビはこのコンビニの店員か常連客だったのではないだろうか?
暑くもないのに流れ出る汗をぬぐうと、思考を止めてもう一度段ボールに寝転がる。
風呂に入りたい……身体のべたつきに不快感を感じながら無理やり目を閉じて俺は眠りについた。
◇◇◇
目を覚ますと薄暗い倉庫の天井が見えてくる。夜中のゾンビのせいで薄らとしか眠れず、全然寝た気がしない。
朝なのか昼なのかもここからだとわからないが、冷蔵庫の方から光が入ってきている。
時間を調べたかったが、店内に行かないと時計を見ることができず、バックヤードの時計は電池が切れたのか全滅、スマホもいつの間にかポケットから無くなっていた。
ため息をつきながら近くに落ちているペッドボトルで水分を補給し、お菓子を食べて腹を満たす。
頭がだんだんクリアになってきて、やることを思い出す。
まずは……
「ステータス」
クガ ヤマト
タイプ:一般人タイプA
レベル:2
HP:20
MP:20
筋力:B+
耐久:B+
俊敏:B+
魔力:B+
精神:B+
固有スキル:幻想拡張
スキル:ソロアタッカー ステータス+
一晩寝て回復したのかHP、MPが増えている。たぶんこれが最大値で、レベルが上がるごとに10づつ増えるのだろう。
MPがかなり回復しているのは、寝ていると通常よりも回復速度が上がるとかだろうか。
宿に泊まれば全回復ってので納得しておく。
光が入ってくるドリンク補充冷蔵庫から店内を覗いて少し見ていたがゾンビの影はなし。
「ちゃっちゃとやるか」
店内に通じるバリケードをどかすと右手に剣を持ちながら音を立てずに、と言ってもガラス片がじゃりじゃり音を立てるが、コンビニ周りのゾンビの有無を確認。
ここもゾンビの影はなし。
まずはレジ近くに置いてあるエコバックをいくつか肩にかけると、倒れていない本棚を物色する。
この一ヶ月で雨でも降ったのかぐちゃぐちゃになってダメになっている物はあるが、何とか地図は手に入れることができた。
後は倒れている棚類から缶詰めを重点的に集めていく。
外を警戒しながら少しずつ集めているので時間はかかったが俺が持てる限界、エコバック二袋分は集めることができた。
リュックがあればもっと集められるが、今はこれが限界だろう。
一度バックヤードに戻り、エコバックの空いているところに水とスポーツドリンクのペッドボトルを入れていく。
コーヒーも大量に欲しいところだが、最優先は普通の水とある程度栄養のあるスポーツドリンクだ。
「集めたはいいけど、かなり重くなってしまった。ちょっと減らすか」
なんやかんやとエコバックの中身を調整して一息つく。
地図を広げてまずは自分がいるコンビニを探すがいまいち何処かわからない。
ここの住所がわかれば何とかなるんだが、会社の場所まではわかるが、その周辺に同じコンビニが結構ある。
ちなみにここはファ○マだが周囲に四店舗ほどあるのでどの店舗かは不明である。
「じゃあ職場の近くにある路地の本屋から探せば辿れるか?」
初めに逃げ込んだ本屋を探すと、かなり苦労したが何とか見つけることができた。
「路地を出て、この道なりに進んだから……ここか」
やっと自分の現在地が把握できた。地図に弱い人なら見つけられないだろうと思いつつ、さらに周辺の避難場所になりそうなところを探す。
避難場所になりそうな学校などは近くにはなし。
初めに行こうとした学校からは離れてしまったし、何故かそっちの方向はゾンビが多い感じがする。
「ゾンビが少ないこのコンビニ周辺でレベル上げ、ある程度戦えるようになったら、人の集まっている可能性がある場所に行ってみるって感じか。レベルがもっと上がれば何か変わるかもしれないし」
というよりは、レベルが上がって何か変わらなければ詰みな状態で、選択肢があるようでないんだよな。
一か八か逆方向に進んでみるって手もあるが、それも今のままだとゾンビの餌になる可能性が高い。
理由として、逆方向に離れてゾンビが少ないのであれば、ここら辺が放置されていないのではないかと思うからだ。
たぶん世界中何処も同じで、たまたまなのか理由があるのかはわからないけど、ここら辺一帯がゾンビが少なくレベル上げしやすい場所になっているのだと思う。
小さめのエコバックに少しの食料と飲み物を入れ、剣で穴を開けてベルトを通す。それを腰の後ろにつければ手が塞がらず持ち歩ける。
「レベル上げに行くか。序盤の街の外でウロウロする感じだな」
あれだけビビって恐怖して逃げていたのに、レベル上げなんてゲームみたいな事を言える自分に苦笑しつつ、慎重に店内に出て行く。
コンビニの出入り口から周囲を確認すると、一体だけでふらふらしているゾンビを発見した。
右手の鉄の剣をギュッと握りしめ、深呼吸。
大丈夫。
逃げることを考えていた今までよりも覚悟ができているのか落ち着いている。
他にゾンビはいない。
「レベル上げを始めよう」