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第11話

 こいつ、どこから来た!?


 後ろは確認した。誰もいなかったはずだ。


 チラリとショッピングモールを見ると、屋上に何人かが集まっているのが見える。


 まさか、屋上から飛び降りてきたのか!?


 いくらステータスで身体能力が強化されているとはいえ、三階から飛び降りてコンクリートを砕いて着地するなんてありえない。

 やったことはないから絶対にできないとは言いきれないが、何となくだがわかる、できないはずだ。


 それに屋上から車をぶん投げたもの斑鳩か?


 力のステータス補正の高さ、屋上から飛び降りても平気なのはスキル【金剛】か?それだけでここまでのことができるものなのか……。


 今は夜だが月が出ている上に見晴らしのいい屋上から障害物の少ない駐車場を見ればギリギリ見えていたのか。


 それでも結界が破壊されてからの行動が早すぎる。


 今はフードで顔を隠しているから顔を見られることはないが、できることならこっちの手のうちは見せたくない。強化された木刀だけでここを凌いで、逃げることができればいいんだが……そうはさせてもらえない雰囲気はある。


 優希くんで学習したが、レベル差はほとんど意味を成さない。特にユニークスキルとスキルの組み合わせで異常な強さを出してくる〝タイプ持ち〟だ。優希くんみたいな必殺技を持っていたらその時点で詰む事だってある。


 俺がここで死んで生き返れるかはわからないが、セーブポイントってのがまだ俺にはわからない。

 ただそれがあるなら、生捕にして情報を吐かせようとする可能性が高いか?


 だがら彼らは俺が死んだらセーブポイントに戻ってしまうと考えているはずだ。

 遠出をして死に戻りって話から考えると持ち物も一緒にセーブポイントに戻ると予想できる。


 ならコイツらはコアを奪い取るまでは最低でも俺を()()()()



 斑鳩(いかるが)までの距離は約3メートル。少しでも隙を見せれば一瞬で間合いを詰められる。


 俺は片膝をついていた状態から立ち上がり木刀を正眼に構える。


 斑鳩の武器は……手甲。

 指の第二関節から肘までを覆う金属質な手甲を装備している。

 手甲とスキルの【格闘術】があることから武器を振り回すんじゃなく、単純な格闘技ってことか。


 手足が長く筋肉も程よくついていることから何かしらの格闘技経験者だと思う。


「チッ!喋る気も、渡す気もないって事か。なら力尽くで返してもらう」


 俺が黙って考えていると、斑鳩が言葉を発した瞬間、足元が爆発でもしたかのようにアスファルトの欠片を撒き散らし突っ込んでくる。


 早いっ、が、避けられないほどじゃない。


 少し様子を見たい。

 俺は構えていた木刀を引くと突き出される左拳を身体を逸らして躱す。


 伸びた腕に木刀を叩きつけようとするが、引きも早くタイミングが難しい。


 腕を引いたと同時に右のハイキックが飛んでくる。

 

 それもギリギリで躱す、と身体を回し背中を見せるように回し蹴り。


「くっ……」


 一歩踏み込まれていたため躱しきれず木刀で受けると手が痺れるほどの重い衝撃が伝わってくる。


 斑鳩の手足が長く伸びるように振るわれて距離感が掴みづらい。


「動きは素人だが反応が早ぇ。……〝タイプ持ち〟ってことか。いいぞ!一度やり合ってみたかったっ!」


「……」


 全体的な動きは見えているが、攻撃一つ一つが隙がなく速い。


 やれるだけやってみるか……。


 木刀を両手で握るとまた正眼に構える。


 俺と斑鳩が同時に踏み込み手甲と木刀が激突する。



 鈍い音が響き弾かれるようにお互いの動きが止まるが、斑鳩が一歩踏み込み左拳が飛んでくる。


 木刀を離した右手で飛んできた拳の方向を払うように外側に変えると左手の木刀の柄を上から下に鳩尾へと叩き込む。



「!?」


 木刀を叩き込んだはずが鳩尾にめり込まない!?タイヤを殴ったような鈍い感触と共に弾かれる。


 その瞬間に膝が飛んでくるのを知覚し身体を無理矢理横に飛び込ませる。


 横から振われた膝蹴り、と思った時には膝下が伸びミドルキックが俺の脇腹に突き刺さる。


「ぐっ……」


 横に飛んだおかげで威力を軽減できたがその分勢いがついて吹っ飛ばされる。


 飛ばされた勢いで若干バランスを崩すが、木刀を地面に擦らせて何とか立て直す。


 脇腹に鈍痛が走る。……コイツ、ただの蹴りだけでスーツの防御を余裕で抜いてきた。


 すぐに斑鳩が追いかけてローキックで追い討ちを掛けてくるが後ろに飛び退る。


 斑鳩の攻撃力、防御力が高いな……。


 スキルを使った様子はなかった。たぶん金剛スキルだと思うが……常時発動型なのか?それとも一定時間効果が持続するのか?


 短剣を使えば多少は防御を突破できそうだが……正直なところまだ人を殺す覚悟はできていない。


 斑鳩から注意を逸らさないように周りを確認するとショッピングモールから続々と人が出てくる。これ以上時間をかけると囲まれて逃げられなくなる。


 だが、ここは〝領域結界〟の消えたショッピングモールだ。俺の暗視メガネには見えている。ショッピングモールから少し離れたところに大柄な肉塊が歩いてくるところが。




「闘矢くんっ!肉塊が来てるっ!」


 肉塊の異形が迫ってきているのを一人が発見して叫び声を上げる。


 その声にショッピングモールから出てきた殆どの人間に動揺が走る。


 領域結界が消えたここは異形から退避できる安全圏じゃなくなっている。異形はどこまでも追ってくる。人が多い場合にどうターゲットを決めているかわからないが、このままここにいたら蹂躙されるだろう。


 しかも今は夜だ。何処かに移動するにしても暗がりから出てくるゾンビの脅威も跳ね上がる。


 一人でも異形にやられればそこから異形が増えていくはず。


 最速で倒すには〝タイプ持ち〟が必要なはずだ。


「お前らっ!少しの間そのデブを抑えておけっ!二兎掌握」


 ここでユニークスキルかっ!斑鳩はスキルを発動させると俺に突っ込んでくる。


 動きはほぼ変わらない。見た目で何か変わったところはない。


 変化がわからないっ。


 突っ込んでくる斑鳩に合わせて木刀を突きだす。斑鳩もそれに合わせて左拳を突きだしてくる。


 木刀と拳がぶつかった瞬間


 ――木刀がバラバラに砕け散った


「なっ……!?」


 砕ける木刀に一瞬茫然とした隙に斑鳩が懐に入ってくる。


 その時、ぞっとするような背筋が凍るような感覚が走る。


 ――不味いっ!


 完全に隙をさらした俺は無理やり身体を捻って躱そうとする。

 だが胸元に斑鳩の掌底が掠めた瞬間、激痛が走る。



「がっ……!?」


 掠めた胸から何かが衝撃となって身体中を駆け回る。


 俺は倒れるように転がると、そこにローキックが飛んでくる。


 ギリギリ両腕でガードするが重い衝撃が骨まで伝わってくる感覚と、胸の激痛で耐えられず吹っ飛ばされる。


 ゴロゴロ転がった俺は壁にぶつかる寸前で止まると、もう斑鳩が走りだして俺の方に向かってきているのが見えた。


 ……これ以上やられるわけにはいかない。

 それに斑鳩はコア無視してないか?リュックのコアが壊れると考えてないのか。


 痛みを堪え立ち上がり、アイテムボックスから短剣を取りだして右手に構える。左腕は今の衝撃で上手く上がらなくなっている。


 俺が短剣を構えると斑鳩が警戒してそこで動きを止める。


「それがお前の与えられた武器か……。近接か万能か、それで中距離や遠距離ってわけじゃねぇよな」


 【二兎掌握】は武器破壊できるほどの強力な一撃?いや、何か違う気がする。


 木刀が折れるんじゃなく、粉々になった。あれか、内部から破壊するとかそんなヤツか?


 胸に掠っただけであの衝撃は直撃したら本当に不味い。


 動きは速く、【金剛】が攻防一体。さらにユニークスキルで掠るだけで大ダメージか?優希くんみたいにスキルとユニークスキルの合わせ技の可能性もある。


 これだから〝タイプ持ち〟は嫌なんだ……。


 もう殺す気で本気でやらないと厳しいじゃないか……。


 少し離れたところで肉塊の異形は一時的に抑えられてしまってすぐには蹂躙してくれない。

 どさくさに紛れて逃げるのはもっと時間がかかりそうだ。


 斑鳩くんはちょっと強すぎて逃げる隙はない。壁際に追い詰められたし、身体中が痛い。


 力の入らない左手にHP回復薬を取り出すと短剣で蓋を斬る。


 俺の行為に警戒しているのか斑鳩くんは構えたまま動かない。警戒してくれるのはラッキーだな。


 短剣と一緒に回復薬を右手で持つと、そのまま一気に煽って飲み干す。


 左腕、胸からジンジンとむず痒い感覚がしてくる。治っている証拠だ。


「まさかここまでとは思わなかった。逃げるぐらいはできると思ったけど。無理みたいだから本気で行くよ」

 

「やっと喋りやがったか。コアさえ渡せば今なら許してやってもいいぜ」


 ジリジリと斑鳩くんが近づいてくる。言葉とは裏腹にやる気しか見えない。


 俺も軽く深呼吸して覚悟を決める。瓶を投げ捨てるとアイテムボックスから左手にも短剣を取り出す。


 少しの沈黙の後、同時に駆け出した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なぜ銃を使わないのですか?
[気になる点] 主人公が、あんまりチートじゃない件。 タイプ持ちのがよほどチート(今後の成長性も加味して) もっと自分のスキルを考察して、より良い使い方を見つけるべきじゃないのかな? 闘矢ってのが圧倒…
[一言] 面白い
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