第10話
外に出た彼らを追い、二人が少し離れて用を足し終わった瞬間に木刀で殴りつける。してる最中は流石に可哀想なので遠慮した。
「げっ……」
「どうっ……」
倒れる二人の武器を念のため奪いアイテムボックスに収納。鍵を持っていた一人のポケットを漁り鍵も回収しておく。
「このまま放置でいいか……見張りは残り三人。声を出されないように、行けるかな?」
彼らの使っていた蝋燭はここで消しておく。すぐに倉庫の扉から館内に戻り、通路につながる扉をそっと開ける。
気がつかれていないようで遠くのほうに残りの三人がまだ座っているのが見える。
外の二人がいつ目が覚めるかわからないからすぐに行動しよう。座っている彼らの蝋燭の灯りが届くギリギリのところまで来た瞬間に俺は飛び出す。
全くこっちを見ていない一人を後ろから首筋に木刀を振り降ろし気絶させ、こっちを向いた隣に座っている一人の鳩尾に蹴りを、最後の一人には鳩尾に木刀を突き立てて気絶させる。
「ふぅ……何とかなったか。いや【ソロアタッカー】が発動してるんだ。これぐらいは余裕か」
座ったまま廊下に頭をつけるように崩れ落ちる三人を横目に、置いてある蝋燭を消して暗闇にする。
これで少しは発見されるのを遅らせることができるだろう。
念のため倒れている彼らの武器も回収し、彼らが守っていただろう扉を見る。
ドアノブを回してみるが……やっぱりというか開かない。奪ってきた鍵束から合うものを探してみるがこれもダメ。
「最近鍵開けばっかりだな。窃盗犯に転職か……幻想拡張」
ここもスキルを使って鍵を破壊する。
誰かが飛び出してきても良いように右手に木刀を持ち、ゆっくりと扉を開いていく。
そこは狭い地下へと続く階段があった。幅は二人が並んで歩くのが精一杯、ただ綺麗な作りになっているので機械室とかに続く階段ではなさそうだ。
念のため倒れている三人の片足だけをロープで繋いで縛っておく。一人が勝手に動くと三人が倒れる、二人三脚的な感じになるように。
階段を降りて行くと一つの扉が見えてきた。ここも鍵がかかっているかと思ったがあっさりと開く。
扉を開けると、そこは事務所というような両側に本棚、真正面に机と
——黒いバスケットボール大の球体が浮いていた
「やっと見つけた」
球体に近づくが、嫌な感じはしない。警戒して周りを回って見てみるが特に何があるわけでもない。【領域結界】のコアを見ながら考える。
ここにくるまでに五人ほど気絶させてきた。たぶんすぐに気がついて騒ぎになるだろう。そしたら人が押し寄せてくる。
周りを見ても逃げられそうなところはない。それにここは地下だ。ここでダラダラとしている暇はないか。
「じゃあこれ、貰ってってもいいよな」
警戒しながら指先で触ってみるが特に反応は無し。恐る恐る持ってみるが、何もなし。これが結界を作っているのなら何処かしらのタイミングで結界が壊れるはず。
たぶんだが、この部屋から持ち出すか、結界外に出ればショッピングモールに張られている【領域結界】が壊れるんじゃないかな。
コアを一旦元の位置に戻し浮いているのを確認すると、部屋を出て階段を登り通路で三人が倒れているのも確認。扉を開けっぱなしにしたところで、廊下の遠くのほうから灯りが近づいてくるのがわかる。
不味い。誰かが近づいてきている。
急いで地下の事務所に戻り、コアを手に持つ。バスケットボール大なのでちょっと邪魔だな。
「コアはアイテムボックスに……入らない!?」
手で持って行くのもアレなのでアイテムボックスに入れようとしたが、入らない。
これは鈴木くんが言ってたがラノベではダンジョンコアなどは隠すことができず、必ず部屋や通路が繋がっているところに置かなければいけないルールみたいなものがあるらしい。
これもそんなのが適用されている可能性がある。そうなると、潜伏マントの隠れる効果も無効になる可能性もあるのか。
事務所をぱっと見回して鏡を発見し、コアを持ったままじっと動かないでいるが、鏡に映る俺が見えなくなることがない。これ無効化されている。
誰が来ても動かないでじっとしていればやり過ごせると思っていたが、あてが外れた。最低限地下から出ないと逃げ場がなくなる。
ちょっと焦りながらアイテムボックスから普通のリュックを取り出す。まだ幻想拡張を使っていない物なのでちょうどいい。
コアをそっと中に入れてリュックを背負う。この時点ではまだ結界は壊れない。
その時に開けっぱなしにしている階段の方から話し声が聞こえてくる。倒れている三人が見つかったっぽい。
「人が押し寄せる前に逃走しないと。アイテム強化を使う〝タイプ持ち〟も探したかったけど、一旦逃げたほうがよさそうだ」
今ならまだ逃げられる。
勢いよく事務所を出た瞬間、ガラスの割れるような音がショッピングモールに響き渡る。俺の身体からも力が抜け一瞬躓きそうになるが何とか階段を駆け上がる。【ソロアタッカー】が解除された。
これで結界が破壊され、全員にこの音が聞こえたはずだ。後は時間との勝負。
階段を登り切ったところで、気絶していた三人がちょうど起きたところだった。そこに灯りを持った五人の男女。
「な、何が起きてる?」
「何だ今の音はっ!?」
「コアだ!コアっ!」
結界が壊れた音に動揺した数人が口々にわめいているが構わずに通路に出る。後は逃げるだけだから見つかっても関係ない。
通路に出た瞬間に全員が俺の方を向くが、さっき使った倉庫までの道を塞ぐように立っている一人を木刀で突いて気絶させる。これで道は開けた。
「なっ!?誰だお前はっ!?」
一人が叫んで武器を構えだすが完全に無視する。俺は彼らの誰何を聞き流すと倉庫に入るドアに向かう。後ろから倒れる声が聞こえてきたので足を縛っていたロープが仕事してくれたんだろう。
倉庫のドアに辿り着く前に足音と共に廊下の左右から灯が現れた。駆けつけてくるの早い。まだ寝てなかった人達がいたのか、別のところで警備してる人がいたのか。
「行動が早いな。でももう遅いけどね」
倉庫に出る扉を開けると真っ直ぐ外に出る扉に向かう。この暗闇の中、問題なく行動できる俺と、灯りがないと行動を制限される彼らとじゃスピードが違う。後はここを出るだけだ。
すぐに倉庫から外に出る扉に走り、鍵はかけていなかったので館内からの脱出は成功。
ただこれからどこに行くかは決まっていない。できることなら彼らの近くで〝サポートタイプ〟を探したいところだが。
「とりあえずはこのまま一旦ショッピングモールから離れるか」
俺は誰もついてきていないのを確認すると、駐車場を横切りショッピングモールの敷地外へあと数歩。
急激に嫌な予感が走り、とっさに横に飛びのく。
横に飛んで俺が体勢を立て直した瞬間に今までいたところに何かが破片をまき散らしながら激突する。
――車!?
唖然とする俺の目に入ってきたのは潰れてめちゃくちゃになってはいるが、車だ。
駐車場のコンクリートにヒビが入り、フロントが完全にへこんでフレームも原形をとどめていないが……車が激突していた。
ガソリンが漏れ出ていてぞっとするが今はガソリンが何故か燃えないのを思いだしほっとする。
同時にさらに何かが俺の危機感を煽り、視界の上の方に何かが過ぎる。
慌ててその場を飛びのくとすぐにコンクリートに何かが突き刺さり、破片をまき散らす。
そこに姿を現したのは人間。
その人影はゆっくり立ち上がるとコンクリートにめり込んだ両足を引っ張り出し、俺の目の前に歩いてくる。
「お前、どこのコミュニティのヤツだ?……まあいい。コアを渡せ」
俺の前に姿を現したのは幽有斗飛悪のトップの一人。
――近接タイプ、斑鳩闘矢だった