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第9話

「ラプ。何であんな中途半端な情報を流した?お前の事だから本当は実験済みなんじゃねぇのか?」


 トップ二人が入っていった部屋の前で俺は堂々と扉に耳をベタっとつけて聞き耳を立てている。フードを被っているので誰からも見えないはずだ。


「さすが闘矢(とうや)くん。バレバレですか。もちろん実験済みです。奴隷を使って東京で殺したところ生き返りは不可。死体は消えずそのまま。神奈川では今まで通りです」


 既に実験済み、そして生き返りの際に死体は消える、と。闘矢くんてのはガタイの良い方だな。


「最近の彼らには危機感がなかったですから。遠出すると帰る手間を省くために死に戻りなんてやりだす馬鹿も増えてきました。これじゃここを落とした時のような必死さがない。ここで籠城戦をするならまだ良い。だが私達は攻める集団だ。違いますか?」


「確かにそうだな。攻めにでて簡単に死なれるようなら使い物にならねぇか。で、四番隊は?」


「そっちは本当に不明です。まあ啓悟くんは性格はアレですが優秀です。装備も良い物を持たせてあります。ゾンビ如きには負けないでしょう。彼が負けるとしたら闘矢くんと同じ〝タイプ持ち〟だけでしょうね」


 啓悟くんというのは赤城コミュニティに攻めてきた遠藤啓悟(えんどうけいご)くんのことだな。あの装備と戦闘スキルがあれば同レベル帯の一般タイプには負けないだろう。


「なら俺が出るか?〝タイプ持ち〟同士の戦闘を試してみたい。ただの素人がタイプとスキルでどこまで俺とやり合えるのか」


「頼もしいですがまだいると決まったわけではありません。明日、帰ってこなければさっきも言ったように二番、三番隊を出します」


 最後にチッと舌打ちが聞こえると、扉の方に足音が向かってくる。


 俺は慌てて扉から離れると手摺りギリギリまで下がり、動きを止める。


 ガチャっと扉から出てきたのはラプと呼ばれる男。


 俺はじっと身動きせず息を潜めると、ラプが目の前を通り過ぎる。見えないとわかっていても緊張するな。


 ドアの隙間から闘矢くんと言われた人も見えたのですかさず鑑定する。


「鑑定……」



 イカルガ トウヤ

タイプ:近接Cタイプ

レベル:15

固有スキル:二兎掌握(にとしょうあく)

スキル:格闘術 金剛



 近接タイプか。レベルは俺より低いが、万能タイプの優希くんであれだけ苦戦した。近接タイプはもっとヤバいと思っていいだろう。


 格闘術はまあそのままだろう。金剛は防御スキルか?身体が硬くなるイメージがある。


 問題はユニークスキル。漢字から推測すると二つを得る、って事だと思うが何を得るかが問題だ。ユニークだから強力なのは間違いない。警戒だな。


 扉が閉まり闘矢くんが見えなくなる。ラプくんが歩いていくのを少し待ち、ある程度離れたところでこっちも鑑定してみる。

 たぶん彼がサポートタイプだと思うんだけど……


「鑑定」



 オオタニ ラプソディ

タイプ:一般人Bタイプ

レベル:11

固有スキル:

スキル:思考誘導 解析



「は?」


 間抜けな声を出して慌てて口を閉じる。若干焦りつつも動かず耐える。離れていたから聞こえなかったのかラプはそのまま歩き去っていく。


 見つからなかったのはほっとしたが、この人の名前……キラキラネームってヤツじゃないか?


 どう見ても日本人にしか見えなかったし、ラプソディって。だからラプなのか。キラキラネームの人、初めて会ったんだが。


 ……どんな漢字を書くのだろう。


 いや、それはまたそのうち機会があればってことで、今はそこじゃない。


 問題となるのは〝思考誘導〟とかヤバそうなの持ってる事だ。ユニークではないからそこまで強力ではないと思いたいが、どうやってそのスキル獲得した?


 そして〝解析〟は、何だ?何かを解析するんだろうが、考えられるのはこの〝解析〟スキルで【領域結界】のことを解析、把握した?


 そして、なによりもサポートに適したスキルを持っていながら〝サポートタイプ〟じゃない。


 サポートタイプは重要な役割のはずだ。集まっていた人達の中にいるとは思えない。それとも死に戻りができるからレベル上げのために外に出る人達に組みこまれているとかか。


 鑑定もできたのでラプの姿が見えなくなると俺はすぐに近くの階段を使って三階に移動する。


 探索したい所だがするなら一階をしたい。だが一階には多くの人がいる。


 今は奥の、マップで確認するとスーパーになっているところに集まっているが数人は離れて行ったり纏って行動しているわけじゃない。


 今までの【領域結界】は場所が職場の地下、クレーターの中と考えると、ここも地下にある可能性が高い。


 だが地下はマップに載っていないので店舗はなく従業員用なんだろう。今は動きづらい。


「夜になるまで待つしかないか……」


 三階のシャッターが閉まっている店舗をチラ見する。ここで夜になるまで待つか。少し見まわすとメガネショップの看板がある。


「ここだ」


 俺はシャッターに近づき開けようとするが、鍵が閉まっていて開けることができない。シャッターが閉まっているところは全て鍵をかけられているのかもしれない。


「幻想拡張」


 スキルを使って鍵を破壊し最低限人が通れるだけの隙間を開けてそこに滑り込む。中は真っ暗で何も見えないが、そっと手を伸ばしゆっくり進んでいくと、展示してあるメガネに手が触れる。


「これこれ。これを探してたんだよ」


 何も見えない中で一つのメガネを手に取る。とりあえずメガネであれば何でもいいかな。普段つけないからお洒落なメガネとかわからないし。


「幻想拡張」


 イメージするのは〝暗視〟夜でも、真っ暗でも周りが見えるようになるメガネ。周りは暗く何も見えないが数秒で完成した感覚になる。


 メガネをつけると、今まで暗かった店内がハッキリ見えるようになる。

 店内はほぼ手付かずなのかシャッターを開ければ普通に営業できるような状態になっている。

 まあメガネは特に必要な物資ではないのだろう。


 そこら辺に展示してあるメガネをあらかたアイテムボックスに入れると、メガネのレンズの一枚を外し、シャッターと床の隙間に入れておく。


 隙間を空けたことで現在は薄っすらと光が入ってくる。これなら夜になればわかりやすい。とりあえずはここで夜になるまで待機だな。




 数時間後、暗闇の中で俺はソファに寝っ転がっている。気がついた時には光は完全に消え、夜になっているのがわかった。


 シャッターを開けて店を出ようと思っていたのだが、店の裏から従業員用の通路が広がっているのでそこからメガネ店を出ていく。こっち側には人の気配はない。


 それでも用心しながら通路を歩き、時折止まって耳を澄ます。俺は暗視メガネで周りが見えるが、本来は光の入らない暗闇だ。灯りを持ったもの以外がここにくることはないだろう。


 通路のすぐ横には階段があった。音を立てないようにゆっくり階段を降り一階までたどり着く。ここからが本番だ。


 客が立ち入れる所に地下はない。ならば俺がいる従業員通路の何処かに地下へ通じる階段があると予想ができる。


 今俺が使った階段では地下へは降りれない。ここは各店舗の従業員用。ショッピングモールの設備や倉庫がある場所に地下があると当たりをつける。


 一度二階に戻って倉庫側の階段を使うか考えるが、通り過ぎてしまうことを考えて一階の従業員通路を進むことにする。


 表の客が歩くところと違って廊下が硬く、注意しないと音がしてしまう。俺は革靴を脱ぐと靴下でひんやりと冷たい通路を歩いていく。


 暗い中をひっそりと進んでいく。通路を進むたびに扉があるが、鍵が掛かっていて中の確認ができない。


 入ってみることも考えたが、まずは通路を行けるところまで行って確認したい。


 通路を半周ほどしたところで遠くの方に灯が見えてくる。五人ほどが円になって蝋燭の灯りを中心に何か楽しそうに話している。


 五人は通路にカーペットを敷いて、廊下の幅いっぱいに広がり動く様子はない。


 敷物や蝋燭を使ってそこにいるということは、そこに居なければいけない理由がある、仕事に近いのではないかと推測する。


 かなり離れているのでよく見えないが、近づきすぎて気がつかれるのは良くない。



「ちょっとトイレ行ってくるわ」


 しばらく動かず待っていると、二人が立ち上がり俺のいる方に蝋燭の灯りを持ってやってくる。じっと息を潜めて通り過ぎると一つの扉を開けて二人が入っていく。ここがチャンスか。


 二人が入った扉に近づき、耳をすまし二人が離れたのを確認するとゆっくりとドアノブを回して扉を開ける。


 そっと忍び込むとそこは倉庫に通じる通路だ。二人の後を追っていくとさらに扉があり鍵を開けて外に出ていく。


 水が流せないから外で用を足すって感じか。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ。 だからあっさり死んだのか・・・。 アホだなW
[良い点] ここで、一気に領域玉壊したらどうなるんだろ。
[一言] 面白い
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