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幕間 攻略戦

 side畑陽平(はたようへい)


 〝王居攻略作戦〟の開始まであと少し。俺達紅葉コミュニティのメンバーは配置について最後の確認を行っている。ゾンビの数に身震いする、この数のゾンビの相手をしなきゃいけないのか。


 どれだけの死者が出るのだろう……。大地震がおきた後の紅葉高校の惨状を思いだす。

 あの時はもっと多くの人がいた。それでもたった一人のかすり傷から多くの仲間たちが死んでいった。俺は被害があった場所から遠いところにいたから無事だった。


 近くにいた人達は絶望しかなかっただろう。

 唯一人、その絶望に希望をもたらしたのが優希だった。ゾンビに変わってしまった友人、知人をあいつは一人で苦しそうな表情で倒していった。それでも被害は収まらず最終的には高校を放棄するしかなかったが。


 そこからは優希がこの紅葉コミュニティを引っ張っていった。

 俺が主人公になれなかったのはちょっと悔しい気持ちがあったが、それは他のやつらも同じだろう。ただそれを納得させるだけの強さが優希にはあった。


 だからこの戦場に、すぐ近くに優希がいないことに恐怖を覚える。それだけ優希の強さに俺達が依存していたということだろうか。


 俺は手に持った怪しい茶色の瓶を見る。久我さんから貰ったこの怪しい液体。久我さんが言うにはこれは回復薬で、スーパーで俺と古高さんの命を救った物と同じものだという。


 なんなんだろうあの人は。何でこんな物を持っている。

 戦闘力がずば抜けて高いと思ったら今度は回復薬。近接戦闘特化じゃなく、万能だとでもいうのだろうか?得体が知れない。だが、俺達C班の命を二度も救ってくれたことは間違いない。


「畑。本当に久我さんは信用できるのか?」


 思考に嵌まりこんでいた俺に、声がかかる。声をかけてきたのは昨日の作戦説明後、久我さんと七瀬さんが攻略組に入ることを渋ったB班のリーダー肉森厚(にくもりあつし)だ。筋肉ムキムキでアメリカンフットボール部のキャプテンをしていた男。


「ああ、強さに関しては折り紙付きだ。俺らじゃ話になんないぐらい強い。信用に関しては、俺は命を助けられている。この回復薬で」


 俺は昨日久我さんから渡された大量のHP回復薬と解毒薬をみんなに配っていた。初めは胡散臭そうな顔をしていたみんなだが、これが生きるか死ぬかの線引きになると俺は思っている。


「そうか……悔しいな。絶対に俺が攻略組に入ってやると思っていたんだがな」


 悔しそうに肉森が苦笑する。そうだ、悔しいがしょうがない。ここに優希とサシで戦って勝てるようなヤツはいないんだから。


 久我さん達を紅葉コミュニティに引き込むつもりが、逆に俺達が赤城コミュニティに出戻ることになるとは思ってもみなかった。


 もうすぐだ。もうすぐ〝王居攻略戦〟が始まる。



◇◇◇



 side古高(こだか)みずき


 怖い。これからゾンビが溢れている東御苑に入らなきゃいけない。わかっていたはずなのに、今になって恐怖心が湧き上がってくる。


 少し前はそんなことなかった。ゾンビと戦っても、周りにみんながいる、優希くんと優里亜さんがいる、それだけで何とかやれそうな気がしてた。


 変わってしまったのはあのスーパーでの出来事。

 壁を破って現れた〝異形〟。久我さんのおかげで店内から脱出した私達を待っていたのは、もう一体の異形だった。


 だけど足場がしっかりしている外ならやれると思っていた。みんなもそうだろう。


 七瀬さんがすぐに銃で異形の動きを止め、私と畑くんで攻撃した直後、強い衝撃と共に私の意識はなくなった。


 気がついた時には倉庫に寝かされていて、久我さんが異形を倒したと聞いた。私と畑くんは瀕死の重傷を負ったのだと。


 その時は何とも思わなかった。本当に怪我をしたのか怪しいぐらい何ともなかったからだ。ただ時間が経つにつれどんどん恐怖が湧き上がってきた。


 ——私は一度死にかけた


 久我さんと七瀬さんがいなければ私達C班は全滅しただろう。

 それを考えれば考えるほど怖くなる。


 ここに優希くんはいない。優里亜さんもいない。久我さんも七瀬さんも。


 四人は攻略組として離れたところで待機している。もし〝異形〟が出てきたら、私は戦えるのだろうか?また、あの時のように何が起こったかもわからないまま気を失い、そのまま目が覚めることが無いなんて……。


 震える身体を自分で抱きしめながらネガティブになっている思考を止めるように周りを見る。C班のみんなを見ると緊張した面持ちで武器のチェックをしている。畑くんは珍しく肉森くんと何か話している。


 戦いたくないなんて言えない、怖いなんて言えない。私はギュッと畑くんから渡されたHP回復薬を握りしめる。これがあれば大丈夫、と必死に自分に言い聞かせる。


 今更ながら赤城コミュニティの人達の気持ちがわかってしまった。戦わないんじゃなくて戦えなかったんだ……。


 私達には優希くんがいた。彼等には誰もいなかった。


「そろそろだ」


 ビクリと私は声に反応する。


 さっきまで肉森くんと話していた畑くんの声が聞こえてくる。みんなの顔に緊張が走る。


 北東の空に岩の塊が飛んだら作戦決行の合図。私達はじっと北東の空を見つめていた。


 合図までの時間がとてつもなく長く感じる。このまま合図がなければいいのにと思う。


 その時、北東の空を一つの塊が飛び、王居の結界に弾かれて消える。


 ——合図だっ!


「全員行くぞっ!」


 肉森くんの声に全員が頷く。B班C班を先頭に私達は東御苑に突入する。

 橋を渡って敷地内に入った瞬間に流れるアナウンス。


【領域結界に侵入しました】


「ああ゛〜あぁ〜」


 入った途端に行われるゾンビの大合唱。周りにはゾンビ、ゾンビ、ゾンビの群れ、恐怖で体がガチガチになり思考も定まらない。


「怯むなっ!俺たちの役目はゾンビを倒すことじゃないっ!攻略組が結界を破壊するまで引きつけるだけでいいっ!」


 畑くんが囮組を鼓舞する。そうだ、倒せなくてもいい。最悪でも攻略組が侵入するための時間を稼げればいいんだ。


 すぐに同じ班の戸田くんと香村くんが鉄でできた身体を覆い隠すほどに大きい盾を構える。私と畑くんはその隙間からパイプを尖らせた槍で突く。新しい装備として鉄を伸ばして削った剣もあるが、今は槍で十分だ。


 ゾンビは多いが生垣を上手く使ってゾンビを誘導していく。少しでも多く、少しでも長く。私達はゾンビを引きつけなければいけない。


 私達は絶対に生き延びてみせる。

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