第29話
〝王居攻略作戦〟の前日、探索班の全員が体育館に集合した。総勢41人。校長先生の如く優希くんが舞台の上に立ち作戦の説明を始める。
ちなみに赤城さんはじめ赤城コミュニティのお偉方も横の方に集まって座っている。
「集まってくれてありがとう。それではこれから〝王居攻略作戦〟の内容を説明します。作戦の目的は領域結界内にあると思われるコアの破壊。質問は説明後に時間を取るのでその時に」
作戦内容はこうだ。
部隊を二つに別ける。一つ目の部隊は攻略組の優希くんのパーティー。メンバーは優希くん、優里亜さん、愛理さん、俺だ。
二つ目の部隊はそれ以外のメンバー、それが囮組。
まずは囮組が王居東御苑に侵入。ゾンビが声で仲間を呼び寄せるのを利用し周囲のゾンビを囮組に集中させる。
東御苑が選ばれたのは建物が少なく歩道が複雑に張り巡らされている上に低い生垣が多くあるのでゾンビの進行を妨げやすくコントロールしやすいからだ。
最悪建物もあるのでそこに逃げ込めるというのもある。明るく見通しも良いので奇襲される心配がない。
囮組がゾンビを集めているうちに攻略組が別ルートから一気に東御苑を突っ切り最短距離で宮殿に入り目的を達成する。事前に優希くんと情報交換した結果、俺が破壊した球体が領域結界を作っているのではないかと結論づけられた。
ライトノベル好きの人にはありきたりな設定だということだ。
「質問がある人は挙手をしてくれ」
優希くんの説明が終わると何人かの手が上がる。ここの子達は積極的だな。会社の会議で手が上がったのなんて見たことないぞ。
優希くんが一人のガタイの良い男子を指す。
「作戦はわかったが、どうにも納得いかないのは、その……久我さんと七瀬さんが攻略組に入ることだ。本当に強いのか?」
手を挙げていた数人も手を下ろしながら彼の意見に頷く。なるほどね。
確かに見た目は明らかに彼の方が強い。そこは俺も同意だ。筋肉ムキムキで背も俺より高い、180以上はありそうだ。
確実に崩壊前に戦ったら俺がボッコボコにされるだろう。あって良かったステータス。
でもまあ、もしみんなが納得いかないなら別に俺は囮組でも良い。俺が辞退しようと手を上げかけるが……
「強い。断言するが久我さんは俺と……同レベルの強さだ。七瀬さんは貴重な遠距離攻撃の手段を持っている」
「優希の言葉は本当よ。私が証言するわ」
俺が辞退する前に言われてしまった。優希くんと優里亜さんの言葉に周りがざわつく。ほらみんな俺の方見てるじゃん。愛理さんも視線が集まって居心地悪そうにしている。
何人かは疑いの目で見ているが、普通っぽい優希くんが質問したムキムキより強い時点で見た目じゃ判断できないのはわかるはず。
まあ彼の気持ちもわかる。あれだけムキムキに体を鍛えたのにデスクワークばかりだった俺より弱いと言われてるようなもので、ぶっちゃけ理不尽な世界になったとは思う。
「俺も証言させてもらうぜ。久我さん達は明らかに俺たちよりも強く、戦いなれている。……悔しいけどな」
そこで声を上げたのはスーパーで会った畑くんだった。彼とはちょっと俺達が使う武器のことで険悪な雰囲気にはなったが納得してくれたのか無駄だと思ったのか聞いてこないので水に流したい。
三人の証言に納得したのかムキムキは「わかった」と言って引き下がる。優希くんが質問を促すがそれで挙手する人はいなくなった。
ちょっと待て!挙手した全員が俺の実力に疑問てことだったのか?わかるけどっ!わかるけどモヤっとする。
ちなみに後から聞いたら畑くんはC班のリーダーで、ムキムキはB班のリーダーだそうだ。A班は優希くんと優里亜さんの二人だけ。B班以降は実力者がリーダーになるようにしているとの事。
だから実力的にはムキムキは強さ的に紅葉コミュニティ第三位だったみたいで、攻略組に入るなら自分が有力、次点で他班のリーダーだと思っていたらしい。
明日に備えるということで今日は休息日としてこれで終了だ。物資の調達もここ数日で終わらせているので今日は何もすることはない。
みんなが体育館から出ていくのを眺めながら、明日本当にあの王居に行くんだと実感する。正直なところ……怖い。
実際に王居の状況を見てしまったからだろうか。いや違うか。元々俺は戦うことなんてしたくなかったはずだ。今までは生きるため、愛理さんとの〝約束〟を守るために騙し騙し戦ってきた。状況に流されていた、やらざるを得なかったというのがある。
でも見てくれ。この人数を。俺を含んだ41名。特に紅葉コミュニティにいた学生含むステータス持ちはやる気と決意に満ち溢れている。自分が攻略組になりたかったと思っている人が大半だ。
俺の役目はもう終わったんじゃないのか?
愛理さんを守りながらここまで連れてきた。
主人公の最初の壁として鼻をへし折った。俺も折られたが。
そしてコミュニティが一つになった。
自分の中での〝やりたくない〟〝行きたくない〟言い訳が溢れてくる。いっそのこと明日になったら体調不良ということにして……
「大和さん?どうかしたんですか、ぼーっとしてますけど」
「っ!?」
気がつくと目の前で愛理さんが心配そうに俺をのぞきこんでいる。……ダメだ。この娘の前で不安を表に出しちゃいけない。この娘は俺を信頼して着いてきてくれた。彼女だけを王居に行かせるわけにはいかない。
「大丈夫だよ。ちょっと考えごとをしていただけだから」
「そうですか。私は、ちょっと不安で……」
愛理さんが不安そうな顔で弱気を口にする。一瞬、一緒に逃げよう、なんて言葉が口から出かかるがグッと飲みこむ。
「大丈夫。俺も一緒に戦うから……」
俺は精一杯の虚勢を張る。大丈夫なんかじゃない。俺自身が一番逃げ出したいと思っているだろう。それでも俺は引きつる顔の筋肉を無理やり笑顔の形に変えてそう答えた。
「大和さんがそう言うなら、少し安心できました。私も強くなっていると思いますし、明日は頑張りましょうね」
そう言うと愛理さんは寄ってくる優希くんを避けるように壁際で話をしている七瀬さんの方に足早に向かっていった。それを見た優希くんは方向を変えてそっちに向かっていく。
体育館を出ようと出口へ向かう俺に誰かが歩いて近づいてくる。ちょっと一人にして欲しいところだが、その姿を見て俺は足を止める。
「久我さん」
畑くんだ。緊張した面持ちで俺を見ている。どうしたというのだろう。
「久しぶりだね。あれから身体の方は大丈夫だった?」
「はい、なんともないです。その節はお世話になりました。それとここでの勝負のこと古高さんに聞きました。あ、安心してください。俺以外は知らないので。明日は、優希のことお願いします。あいつが俺達の希望ですから」
古高さん話しちゃったのか。まぁそれでダメージを受けるのは学生たちだから大っぴらには言えないよな。……優希くんが希望か、ちゃんと主人公しているみたいだ。
俺はまたも無理やりに笑顔を作って大きく頷く。
「ああ、できる限り頑張るよ。それとちょっと渡すものがあるから俺の使っている教室まで来てくれないかな?」
ちょうど良い。彼に作り置きしていた大量の回復薬と解毒薬を渡しておこう。普通に考えたら信用されないが、あれで助かった畑くんなら信用してくれるだろう。
「俺に……ですか?優希じゃなくて?」
「優希くんにも後で渡すよ」
そう言って俺は畑くんと一緒に歩き出す。