第28話
次の日の会議はグダグダだった。
屋上での理由を夜通し説明していた俺は疲労と寝不足で会議が始まる前から瞼が重くなりこっくんこっくんと船を漕ぐ。
愛理さんも不機嫌そうな表情で目の下に隈を作りながら時折り船を漕いではハッと気がつく。
優里亜さんは俺を睨むように見ながら悔しそうに口をつぐんでいる。
優希くんはまだ立ち直っていないのか俯いたまま空返事。
たぶん会議のメインを押し付けられたであろう古高さんはあわあわしながら、俺たちの様子に戸惑う赤城さんと条件を詰めていく。
これは酷い。会社でもここまで酷い会議は見たことがない。俺もその原因の一つだということを棚に上げて睡魔に身を委ねる。
一時間も掛からず会議は終わり、紅葉コミュニティ側が俺と愛理さんの協力と引き換えに赤城コミュニティ側の条件を全て飲んだ形になる。
こんな調子だったので屋上での約束は議題に上がらなかったが、優希くん達はすぐにでも拠点に帰り王居攻略の準備をしつつ攻略の間、赤城コミュニティに一時的に間借りする事になった。
半分寝ていたのでほとんど話は聞いていなかったが、後で俺たちの様子を不審に思った七瀬さんに簡単に説明し、会議の内容も教えてもらった。
みんなで訓練してやり過ぎてしまって疲労困憊だ、ということにしただけだけど。流石に優希くんとの勝負のことや俺の身体から魔力がどうとかは全て隠した。
ただ一つだけ決まらなかったのは王居攻略日だ。早めに攻略したいところだが攻略の要となる優希くんの状態が悪い。
体調不良、ということでここでの話は済んだが、離反したと言っても優希くんの強さは赤城コミュニティ、紅葉コミュニティ全体で知れ渡っている。
下手に動揺を与えないためにも優希くんには早急に立ち直ってほしい。この程度の挫折はよくあることなのだから。
会議が終わると紅葉コミュニティ側はさっさとコミュニティへの帰り支度を始めるが、優希くん大丈夫かな?
見送る俺に優里亜さんがそっと囁く。
「すぐに化けの皮を剥ぎますので」
そう言ってキッと睨むと優里亜さんは二人を連れて帰って行った。美人は何やっても美人なんだなと感心しつつも気が重い。また襲われるかもしれないから二人っきりになるのは極力回避しようと心に誓う。
さて、王居攻略までにまだ多少時間はある。出来る限りの準備をしておきたいけど、今日はとりあえず、寝るか。
◇◇◇
そこからの日数は瞬く間に過ぎていった。
赤城コミュニティの探索班を紹介され、どうやってパーティーを組んでいくかの話になったが慣れている人と組んだ方がいいと言うことで俺と愛理さんは二人のパーティーになった。五人の探索班のメンバーがそれで連携が完成しているということだったので崩すのを渋ったからだ。
命に関わることなので彼らの言い分は正しいし、俺としてもやりたいことがあったので彼らの意見を受け入れた。仮に誰か一人が俺達のパーティーに加わって三人になると、正直なところ足手まといにしかならないというのが本音だった。
そして俺と愛理さんは二人でゾンビ狩りを始める。
探索初日にスーパーに立ち寄った俺達は店内にある全ての物資を一日かけてアイテムボックスに回収した。それを小出しにすることでゾンビ狩りの時間を作るというのが俺の目的だ。
王居攻略までどれだけ時間があるか不明だが、優希くんが復活すればすぐにでも攻略が始まるだろう。二日経った現在、紅葉コミュニティの人達はまだ合流していない。優希くんの状態が悪いのか、説得に手間取っているのか、ただ時間があるならやることは一つ。愛理さんのレベル上げだ。
現在の俺のレベルは15、優希くんが13、優里亜さんが14、そしてもっともレベルの低い愛理さんが6。愛理さんのレベルが低すぎるのだ。
愛理さんの射撃が上手いと言っても弾数は限られる。町中のゾンビ程度なら今のところ問題はなさそうだが王居にどれだけのゾンビがいるかは不明だ。現在のMP数の60発の弾じゃ足りない可能性の方が高い。MP回復薬があるがそれだって無限じゃない。
それにせっかく短剣の練習を始めたので実戦で使って戦えるかどうかを試してほしい。
と言うことで、ゾンビの調査がてら俺達は〝王居〟に来ていた。
「大和さん。作戦前に来てよかったんですか?見つかったら怒られちゃうと思いますし、危険じゃないでしょうか?」
スコープを覗きながら愛理さんが心配そうに聞いてくる。
「危険は危険だけど、どうなっているか俺は見たことなかったからちょっと見てみたかったんだ。それに敵情視察は戦いの基本だって言うしね」
俺達がいるのは王居外苑から直線距離にして500m程の地点だ。そこからスコープを覗いて中を確認している。外苑ですらそこそこのゾンビが練り歩いているな。
王居はゲーム的に言うと四つのエリアで構成されていると言えるだろう。
一般道と繋がっている外苑。一般公開している東御苑。自然のある吹上御苑。攻略目標があると思われる宮殿。
全てが堀で囲まれ、中心にある宮殿へと橋や歩道で繋がっている。これが王居だ。
この王居の外苑の周囲で俺達はレベル上げを行おうとしているのだ。理由は簡単、ゾンビが多く逃走が楽であるというだけだ。
「さあ、行こうか愛理さん」
「わかりました。足を引っ張らないようにレベル上げなきゃ、ですよね……」
ゾンビの数にスコープを覗きながら顔を引き攣らせ愛理さんが答える。すぐにスコープをしまうと、いつも使っているスナイパーライフルではなくハンドガンを二丁装備する。
あの数だから俺が前でゾンビを引きつけてもほとんど無意味に近い。寄ってくるのを片っ端から撃つつもりだろう。
「安心して。無理に外苑には入らない。手前で集まってきたゾンビを片っ端から仕留めていく。あまりにも多く集まってきたら即逃走だ」
◇◇◇
それから毎日俺達は外苑周辺のゾンビを狩りに狩った。初めはゾンビの多さにビビり気味だった愛理さんは慣れてきて普通に戦うことができるようになった。もちろん俺も言い出しっぺがビビるところを見せることはできず、表情だけは冷静に大量のゾンビを倒すことができていたと思う。
正直な話、やめておけばよかったと初日で後悔したのは言うまでもない。
ゾンビ狩りを始めた次の日に紅葉コミュニティが赤城コミュニティに合流。大量の物資が赤城コミュニティ届き、さらにはもう話がついたのか全員が赤城コミュニティに戻ってくることになった。そのおかげで、今まで教室でくすぶっていた人達が動きだしたのが何より嬉しいことだった。彼らが帰ってきた事に希望を見出す人、何もしなければまた見捨てられるかもしれないと危機感を感じている人、様々だったが。
今は無理して動いているかもしれないが、一日中教室の中で燻っているよりは何倍もマシだと思う。外に出ることができる人と探索班が協力して、正門や東門、教職員用の門を外から中が見れないように目貼り作業が開始された。
優希くんも復活したみたいで朝から物資の確保に出かけていった。ここに来る前よりも雰囲気が何となく男らしくなったような気がする。彼はこれからもっと強くなるのだろう。
優里亜さんは俺を睨みつけることはないが、警戒しているのが丸わかりだ。とはいえ俺も警戒しているのでどっちもどっちというところだろう。
そして最低限の物資の補充が済み、俺のレベルが16に、愛理さんのレベルが10に届き【短剣術】も獲得した時に、俺達の〝王居攻略作戦〟の作戦会議が始まる。
◇◇◇
ナナセ アイリ
タイプ:一般人Aタイプ
レベル:10
HP:100
MP:100
筋力:C
耐久:C
俊敏:C
魔力:C
精神:C
固有スキル:なし
スキル:射撃 短剣術
【短剣術】短剣の扱いが得意になる