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幕間 紅葉コミュニティ

 side山田優希


「埼玉方面もダメか……」


 探索班が報告を上げてきたのは一昨日。俺達が赤城コミュニティを離れて紅葉高校に拠点を移してから三日目のことだった。


 ――他県に行くことができない


 少し遠出をしていた探索班が東京と神奈川を隔てる結界のようなものを確認した。物理的に破壊することはできず霧のようなもので先も見えない。結界沿いに歩いてみるが、きっちりと東京と神奈川の境界線沿いに結界が張られているということだ。


 この報告を聞いた時にすぐに埼玉、千葉に行くことができるかの調査を行うことにした。ゾンビが徘徊する中での危険な調査だが全員の意見は一致していた。


 少し距離のある千葉方面は俺が行くとして、埼玉方面には優里亜に行ってもらった。彼女ならゾンビに囲まれても逃げることぐらいはできるだろう。


 そして結論としては、埼玉にも千葉にも神奈川にも行くことができない、そんな絶望的な現実だった。


 遠すぎて確認はしていないがこの分だと山梨に行くのも無理だろう。


 閉じ込められた東京、いつまでコンビニやスーパーなどの加工食品が持つか、一年か二年か。それでも限界は来る。早急に東京を封鎖している原因を探すか、それとも農業ができる土地を探してそこに拠点を移さないといけない。


 紅葉コミュニティは学生を中心とした30人程度の〝ステータス持ち〟の集団だ。はっきり言って何もない状況から農業ができるとは思えない。俺にも農業の知識はない。


 赤城コミュニティからの離反は俺の判断ミスだったか?いや、あそこにいても大多数の大人は引き籠っているだけで何も動こうとはしなかった。周辺の食料はほぼ取りつくした。すぐにでも動かなければいけないのに心が折れていた。


 別のコミュニティを探して戦力として受け入れてもらう。


 そんな計画だったがここにきて暗雲が立ち込める。だが、東京は広い。まだ生き残っているコミュニティがあるはずだ。ここからは畑などが多く残っている多摩地区方面を重点的に探索していくのが良いだろう。



◇◇◇



 その日の夕食時、数人のメンバーが都市伝説の話をしていて何とはなしに聞いていた。


 〝都市伝説〟


 ちょっと前なら陰謀論者やテレビ局が大げさに騒いでいるだけのただのネタとしか思わなかっただろう。


 都市伝説などが嫌いなわけじゃない。むしろテレビや動画サイトの検証番組は好きな方だったが、今となっては何が起こっても不思議じゃないファンタジー世界だ。

 都市伝説どころじゃない。


 だが彼らの話している内容は結界にまつわるものだった。


 〝鉄の結界〟


 赤城コミュニティ時から把握している不自然にゾンビが集まっている場所〝王居〟。周辺のゾンビが減少した時もあそこは変わらなかった。危険すぎて近づくことはなかったがゾンビを引きつける何かがあるのだろうとは思っていた。


 鉄の結界の話をしていた鈴木くん達の話がピタリと止まる。全員が彼らの話を真剣に聞いていたからだ。俺自身ももしやと思って聞きいってしまった。


 気まずそうにしている彼らに俺は話を促した。


「その話、俺にも詳しく聞かせてくれ」



 そこからは早かった。全員一致で〝王居〟の攻略準備が進められた。周辺のゾンビが少なくなっている今が攻略のチャンス。


 誤算があったのは一部の人間が東京以外は()()()()()()()()()、との思いを抱かせてしまったことだ。


 全員のモチベーションは高い。だが東京以外が無事かも知れないと言う祈りにも似た希望を抱いてしまったのは良くない。


 もし東京が解放されて他県も同じような状況であったら、希望が絶たれてしまったら、どうなってしまうのか。


 だが希望を抱くなとは言えなかった。やる気に満ちている一部の人達に水を刺したくなかったし、俺自身、そうだったらいいなとの思いがカケラ程ではあるがあったからだ。


 攻略作戦の概要は簡単だ。初手で優里亜のユニークスキル【流星魔法】で王居ごと吹き飛ばす。倒しきれなかったゾンビやボス級のゾンビがいた場合に俺を筆頭とした戦闘組が叩き潰す。


 俺達はリスクを取らない。簡単に攻略できるならそれに越したことはない。ゾンビになって死んでいった友人達のためにも俺達は生き残る。


 王居を破壊する事で結界が無くなればいいが、無くならなければ次は歌舞伎町の探索に切り替える。ただ歌舞伎町はほとんどの建物が倒壊してまともに歩ける場所が少ない。探索は時間がかかるだろう。



◇◇◇



 ……失敗した。


 全員が所定の位置につき、優里亜の流星魔法、安易にメテオと名付けている高圧縮された魔力弾が高高度から落下、建物にぶつかる寸前で何かに弾かれるように消滅した。


 崩壊前の常識が当たり前のように残っていた。アレを防がれるなんて考えてもみなかった。全員が呆然と佇む中でいち早く気を取り戻した俺は、魔法を防いだ結界の調査に乗り出す。


 何人かが俺についてこようとしたが、何かあった時にすぐ逃げられるようにと俺一人で行くとみんなを説得する。


 堀を渡り、敷地内に入った瞬間に頭に流れるアナウンス。


【領域結界に侵入しました】


 閉じ込められたかと慌てて下がるが出ることができ、すぐにみんなの元に戻った。ユニークスキルの消耗が大きいのか優里亜に疲労が見える。

 俺達は作戦失敗で撤退を余儀なくされた。


 拠点に戻り雰囲気の暗くなった俺達だが、俺が聞いたアナウンスをみんなに話すとラノベ好きな鈴木くんが推測を話してくれた。


 ダンジョン化、されているんじゃないかと。


 ダンジョン。俺の中では洞窟のイメージがあったがライトノベルのファンタジー物では洞窟だけじゃなく、町自体がダンジョンと認識されている物、洞窟型でも入り口から入ると別次元に繋がっているものなどがあるという。


 それらは総じて外から、もしくは中からの物理的、魔力的攻撃に強く、ダンジョンを破壊するには最奥に位置するダンジョンコアを破壊するか、ダンジョンマスターを倒す事で潰すことができる設定があると言う。


 それが適用されるなら〝領域結界〟に入り、無数のゾンビを倒しながらコアを探し、ボスを倒す。


 戦力的に無理だ。後二人、最低でも一人は俺や優里亜と同等とは言わないが近いレベルの強さを持つタイプ持ちがいなければ。

 やる気に満ちた声を上げる者もいたが解決案が出ないままお開きとなった。



◇◇◇



 状況が変わったのが三日後だった。


 夕方になると探索の結果を聞くために集まるが、そこで俺の興味を強く引く話を聞くことができた。C班の畑くん達が遭遇した生き残り。


 何と、もう生きてはいないだろうと思っていた車椅子の女性、七瀬さんと会ったと言うものだった。


 クラスでのことを思い出す。自分でも顔から火が出るほど恥ずかしい思いをした告白じみた告白。あの時七瀬さんは恥ずかしかったのかどこかに行ってしまったが、クラスのみんながいて追いかける事ができなかった。


 その七瀬さんが生きている!足が治っていると言っていたがそんな事はどうでも良い。生きていてくれる事が重要だ。


 一緒に20代中盤ぐらいの異常な強さを持つ男性がいて、信頼しあっているようだったと聞いたのには少し嫉妬を覚えたが、それもどうでもいい事だ。


 七瀬さんは両親を探して赤城コミュニティに向かったようだ……迎えに行こう。両親と七瀬さん、そして強い男性。


 久我、という男性は両手で短剣を使いゾンビの攻撃を易々と躱しながら戦場を走り回りゾンビのヘイトを集めていたそうだ。

 他にも拳銃らしき物も持っていたらしいが一瞬のことで詳しくはわからないそうだ。警察関係の生き残りか?


 本人は一般人タイプと言っていたそうだが、C班が言うにはスピード特化の近接タイプじゃないかとのことだ。動きもさることながら使っている短剣でそう判断したとのこと。


 七瀬さんも変わった銃を持ってゾンビを易々と倒していたと言う。動きは一般人タイプとほぼ変わらないが、正確にゾンビの心臓部を撃ち抜く様は射撃系のスキルであると予想される。

 彼女も遠距離系のタイプに違いない。


 いいぞ!これで俺のパーティーが完成する。本来は楯職のタンクの方が安定するが、彼には避けタンクを担って貰えばいい。


 七瀬さんには戦ってほしくなかったが、戦えるなら常に俺の側で守ればいいだけだ。それだけの力が今の俺にはある。


 その時初めて紅葉コミュニティで自分が持っている権力を使った。このコミュニティに上下関係はない。だが、俺が強く言えば反対する者は出てこない。


 だからこそ今まではみんなの意見をまとめるだけで極力提案止まりに抑えていた。


「七瀬さんとその久我さんに協力を要請し、あわよくばこっちに引き込もう。俺達が強いと証明すれば安心して来てくれるはずだ」


 待っていてくれ七瀬さん。なぜ俺がこの世界で選ばれたのかはわからないが、今度こそこの力で君を必ず守るから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白い
[一言] ヒロイックシンドロームってやつかなぁ? ステータスで自分が周りと違うのを認識してしまえるから元々ある自己顕示欲に歯止めが効かないんだろうなぁ… 英雄症候群は通常普段抑制されてる人に多いんだけ…
[一言] 想像の100倍気持ち悪い子だったw
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