第24話
俺が縮地について考えていると唐突に優希くんが勝負をしようと何の脈絡もなく言い放つ。
「何を言っているの?大和さんがそんな意味もない勝負を受けるわけないっ!」
愛理さんが言い返すが、優希くんは真剣な表情で俺を見たままだ。何を狙っている?
「それを俺が受けるメリットは?」
「久我さんが勝った場合は、赤城コミュニティの物資の補充を紅葉コミュニティが一カ月間手伝います。王居の攻略後ですが。俺が勝った場合は久我さんと七瀬さんは紅葉コミュニティに所属してもらいます」
そう言うことか。彼らの目的は初めから俺と愛理さんの引き抜き。現状コミュニティはあるもののどこに所属するか、出ていくかは本人の自由意思でしかない。
そしてこの条件は俺にメリットが全くない。物資の話だが、たぶん協力する代わりに物資を要求するのは明日の会議で普通に決まるだろう。赤城コミュニティは物資が少ない。協力の代わりに物資を提示されれば赤城さんも飲まざるをえない。ただ、俺が頷くとは限らないが。
なのでこれは全く飲むことができない。
「却下だ。俺にメリットが全くない。条件を変えよう。俺が勝ったら、優希くんと優里亜さんが赤城コミュニティに所属する」
「なっ、それはできない。俺は紅葉コミュニティの代表をしています。俺が抜けると紅葉コミュニティが崩壊する。それだけタイプ持ちは重要なんです」
適当に吹っかけてみたがやっぱダメか。このままだと近いうちに赤城コミュニティは崩壊すると思うんだよな。少しでも戦力が欲しいんだけど。でも、優希くんを見ると迷っている感じはするな。何でそこまで俺達に固執する?
いや、俺達じゃないか。たぶん愛理さんに固執しているんだろう。そこまでして愛理さんが欲しいのか……。
「なら、さらに変更だ。紅葉コミュニティ全員が赤城コミュニティに戻ってくる、でどうかな」
これならどっちに転んでも優希くんの希望は達成され紅葉コミュニティの崩壊も防げる。反対する人もいるだろうがそこは優希くんの一言でどうにでもなるだろう。
優希くんを見ると愛理さんをチラチラ見ながら考えている。
「わかりました……それでいいでしょう」
はっきりと了承の言葉を返してくる。たぶん負けた時のことじゃなく、元々勝つつもりだったことを思い出したんだろう。
「ちょっと優希!勝手に決めないでよ」
「そうだよ。みんなで話し合って決心して赤城コミュニティを出たんだよ。今更戻るなんて……」
他二人が反発して、話し合いが始まってしまった。
「大和さんはそれで良いんですか?もし負けたら……」
「負けてもパーティーメンバーじゃなくて、あくまでも所属だからね。流石に避けタンクとかやらされるなら逃げるよ。その時は愛理さんも一緒に逃げる?」
心配そうに聞いてくる愛理さんに冗談ぽく言いながらアイテムボックスから鑑定メガネを取り出す。狡いとは言うなかれ、敵の情報を集めるのは戦いの基本である。
「大和さんが逃げるなら私もお供します。一緒に頑張りましょうね!……でもお父さん達どうしよう」
俺の言葉で心配が吹っ飛んだのか嬉しそうにお父さんの心配をしている。まあ両親は一緒に連れてけばいいでしょ。
鑑定メガネをこっそり着けて優希くん、次いでに優里亜さんのステータスを見せてもらう。
「鑑定……」
ヤマダ ユウキ
タイプ:万能Aタイプ
レベル:13
固有スキル:戮力協心
スキル:剣術 縮地
イトウ ユリア
タイプ:遠距離Bタイプ
レベル:14
固有スキル:流星魔法
スキル:魔力操作 土属性魔法
優希くんのユニークスキルは何だ?戮力協心、普通の意味で考えるとみんなで協力しましょうって言葉だったはず。愛理さんにも意見が聞きたいが、まだ嬉しそうに心配している。「どうしよう」って呟きながらゆらゆらしている。
戮力協心、たぶんパーティー組んでる人に対しての全体バフってところだろうか。
優里亜さんは、典型的な魔法使いタイプか。流星魔法とかメ○オしか思い浮かばないほどヤバそうだ。魔法は見たことないから今度見せてくれないかな。
俺のレベルは15、俺のほうが上だがステータス補正がどうなっているかがわからない。ステータス補正が表示されない、スキル詳細が見れないと鑑定メガネはちょっと微妙な性能なんだよな。
俺がスキル考察をしているうちに話は済んだのか優希くんがこちらに向かってくる。
「ルールはどうしますか?」
優希くんが聞いてきるが、それはもう決めている。
「相手に致命的な怪我をさせない。致命傷だと思われる攻撃を受ける、降参したら負け。スキルはOKでどう?」
「それで良いんですか?俺のユニークスキルは無しにしますね。あれは強力すぎる」
自分からユニークスキルを縛るって、それだけ強力なスキルだって事か。
「了解だ。武器はいつも通りって事で良いかな?」
「ええ、俺はいつも使っているマテリアルブレードに鞘をつけたままで」
そう言うと優希くんは鞘をつけたまま剣を腰から引き抜く。あれが初期装備としてついてきた〝マテリアルブレード〟か。武器もらえるとか羨ましいんですけど。
「ちょっと準備するよ」
俺は屋上を出て三階に降りるとアイテムボックスから武器を取り出す。
屋上に戻ると優希くんが離れて立ち、優里亜さんが近くにいる。
「はぁ……では私が審判をします。優希、久我のお兄さん、準備はいいですか?」
優里亜さんが審判をしてくれるみたいだ。久我のお兄さんとか新しいな。俺達は頷くとお互いに構える。
「お兄さん……それ、笑わせに来てるんです?」
優里亜さんが呆れたように俺が構えている二本の孫の手を見ながら言ってくる。まぁそうなっちゃいますよね。俺は真面目な顔して答える。
「これで愛理さんと訓練してるんだ。訓練に短剣使ったら危ないでしょう?」
優里亜さんはそれ以上何も言わずに無言になる。そろそろ真剣になる時間だ。優希くんとの距離は約5メートル。優希くんは腰溜めに剣を構えている。
あれは初手縮地からの突きか、それともフェイクか。
集中力を上げていく。
ゆっくりと空を見上げる。見えるのは青い空だけ。大きく深呼吸すると、神経を研ぎ澄まし開始の合図を待つ。
「始めっ!」
優里亜さんの声と共に優希くんが一瞬とも言える時間で俺の目の前にくる。
――早いっ!?
剣を下段から斬り上げ、確実に俺の胸元に剣先が迫ってくる。
俺はギリギリで孫の手を剣に当てると、身体を半身にし剣先を逸らす。
孫の手から伝わってくる縮地の速度と攻撃速度が乗った重い攻撃で孫の手が弾き飛ばされそうになりながらも何とか凌ぐ。
すぐに俺は大きく後ろに下がり、間合いを取る。斬り上げを捌いた左手がビリビリと痺れている。
あ、危なかった……。一瞬でも反応が遅れていたら瞬殺されるところだった。事前に縮地を見ていなかったら反応できなかったかもしれない。そのスキル、ズルくないか!?
「やっぱり、縮地を見せちゃったのが不味かったですね。まさか躱されるとは思いませんでした」
余裕そうに話しかけてくる優希くん。俺の方は冷汗が流れ、話せるほどの余裕がない。少しでも気を抜いたら一瞬で斬り伏せられるような感覚に陥る。
これか、この圧倒的なスキル。縮地を初めから持っていたのか後から獲得したのかわからないが、ここまで圧倒的な強さを見せられたら、紅葉コミュニティの人達が彼に従ってしまうのもわかる。俺自身なんで今の一撃を捌ききれたのかすらわからない。
これはレベル差なんて無いも同じだ。レベルが上がれば上がるほど彼の強さは一般タイプとはかけ離れたものになるのだろう。これだから主人公は。
だが、逆に言うとレベルが低くスキルが少ない今だからこそ彼を下せるチャンスでもあると思う。ポジティブすぎる考え方かもしれないが、縮地は見えている、剣術も連続で攻撃されたらどうなるかわからないが何とか捌けた。
俺はさらに集中して彼の動きをイメージし構え直す。