第22話
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
皇居→王居とさせて頂いて居ります。
優希くんが発した言葉にアホなのかとツッコミたくなる。協力も何も戦力ごっそり持ってっちゃったのは君達でしょ?
赤城コミュニティには物資補充以外で動かせる戦力は存在しないのは知ってるはず。今でもギリギリ、いや、既に足りていないのだから。
周りを伺うと、当事者じゃなかった俺と愛理さん以外の赤城コミュニティの人達の顔がどんどん険しくなっていく。戦力粗方奪っていきながら更にまだ寄越せと言っているようなものだし。
「どういうことだ?攻略?ここにそんな戦力が無いことは君達が一番わかっているはずだと思うがね。それとも君はここの人達に死ねと言うのかね?」
怒り心頭といった感じだが、赤城さんは怒りを抑えて淡々と口にする。
「俺達が協力して欲しいのは久我さんと七瀬さんです。久我さんは一度に複数体のゾンビを相手にできると聞きました。更に強力な個体も瞬時に倒したと聞いています。七瀬さんも銃を使うと聞きました」
優希くんの言葉に全員の視線がこちらを向く。予想はしてたが情報ダダ漏れか。まぁ仕方ないことではある。俺がどうやって答えるか逡巡するが俺が答える前に赤城さんが拒否する。
「彼等はうちのコミュニティの一員であり、大事な戦力で探索班だ。何かもわからない攻略に行かせるわけにはいかない」
「もちろんです。説明します」
拒否されるのは織り込み済みなのか、優希くんが語りだす。
「まず、ここ東京は不思議な力で他県への出入りが封鎖されています」
優希くんの言葉にこの場の全員が息を飲む。
「それは……本当なのかね?」
赤城さんの問いに優希くんが頷き、横に座っている優里亜さんが口を開く。
「私も証言するわ。本当のことよ」
赤城さん以外のお偉方がざわつく中、赤城さんは難しい顔をして口ごもる。東京が封鎖、他県へ行けないか。それは困る。
「正確に言うと、東京都を一周調べたわけではありませんが、わかっている限り千葉、埼玉、神奈川には薄い壁でもあるように行くことができませんでした」
他県へ通行ができない。他の県がどうなっているかわからないが東京は完全に孤立しているわけだ。
「そこで俺達は以前からゾンビが集まっている場所。赤城さんたちも把握していると思いますが、王居に何かあるのではないかと考えました。あそこだけ不自然にゾンビが集まっているのは何か大事なものがあるんじゃないかと」
「それは……東京の封鎖と何か関係があると?」
ゾンビが不自然に集まっているから王居を攻略すれば結界がなくなる。と確証はないが何もしなければ閉じ込められたまま。
「鉄の結界、と言うのをご存知ですか?」
優希くんが語る〝鉄の結界〟とは有名な都市伝説だった。
第一次大戦中、空爆されれば大損害になるにもかかわらず大規模な鉄道工事で作られた山手線、中央線。山手線は円をかくように、中央線は蛇行しながら山手線にぶつかる。そして東京に出来上がったのは陰陽道の太極図にも似た線路。
大戦中にもかかわらずこれを作ったのは、陰陽道の気の流れや風水的に悪い気の流れから東京を守る、鉄道という建設物で物理的に東京を守るためと言われている。
そして完成した太極図の陽の中の陰に当たる部分が〝王居〟
陰の中の陽に当たる部分が、新宿歌舞伎町
鉄の結界とは東京を、王居を守るために作られたのではないかという都市伝説だ。
そういうことか。東京を囲む出入り不可能な結界。不自然に集まっている王居のゾンビ達。そこから鉄の結界という都市伝説につながったわけか。となると、歌舞伎町にも相応の何かがあると考えているだろう。
会議室は優希くんの話が終わると静まりかえる。
崩壊前なら何を馬鹿なことをとせせら笑う人もいただろう。だが大地震で建物の多くが崩壊し、ステータスなんてゲームのようなシステムができ、ゾンビが我が物顔で闊歩する現在は、それを笑える者はいなかった。
「ですので、まずは王居の攻略をしたいと俺達は思っています。歌舞伎町の方は距離があるのでまだ調査が進んでいません」
「それでも君達は30人はいたはずだろう?久我君と愛理さんを加えたところで変わるとは思えん……彼等二人が数人分の働きをするとでも?」
そこからの話し合いは、まあ上手くはいかなかった。
優希くんは全員とは言わないが二人の協力がほしい、赤城さんはコミュニティが立ちいかなくなるから無理だと。
他人事のように俺は聞いていたが、正直疑問がある。何で優希くんはそこまで俺たちに拘るのか?
確かにゾンビ数体程度なら何とかできるようにはなったが、30人も戦力があるなら俺たち要らなくね?と思うのだ。
俺は自分を過信してるわけじゃないので、俺がいれば戦況を覆せるとか一騎当千の働きができるとか思っていない。
多分だけど、スーパーで会った畑くん達よりもちょっとレベルが高い程度なのだと思っている。彼等のレベルは知らないが、少し頑張れば俺程度の戦力ならすぐに追いつくだろう。同じ〝一般人〟タイプだし。
平行線な話し合いを欠伸を噛み殺しながら見ていると、あからさまに俺を見ている金髪女性がいる。ずっと視線を感じていたが気がつかないふりをしていたのだ。
あんな綺麗な金髪一度見たら忘れないので知り合いだった説はない。優里亜さんだっけか。
ちらりと横を見ると愛理さんもつまらなそうにしている。いつ終わるのだろうか……。
「久我くんは、どうしたいかね?」
ボケっとしている時に不意打ちで赤城さんから振られる。俺はちょっとビクッとなったが元社会人なのですぐに気持ちを立て直す。
だけどみんなで俺に注目するのはマジでやめてほしい。
「すぐには答えが出せそうにありません。少し考える時間をください」
赤城さんは頷くと愛理さんにも聞いてくる。
「私も、大和さんとお父さんと相談してから決めたいと思っています」
愛理さんも当たり障りなく答える。これである程度は時間ができた。ちょっと考えをまとめたい。
「と言うことだ。では続きは明日ということでいいかな、優希くん。君達も今日はここにいてくれて構わない」
「わかりました。ではお言葉に甘えてここで過ごさせてもらいます」
会議が終わりになり、ほっと一息ついているとささっと愛理さんが俺の背後にくるように移動する。何事かと思って前を見ると、会議前に即死ダメージ受けたはずの優希くんがすぐ側まできていた。
「七瀬さん。久しぶりに会ったんだ。みんなで近況報告でもしない?古高さんもいるし、優里亜も改めて紹介するよ」
自然なイケメンスマイルで優希くんが手を差し出す。優希くん強いな。何が強いって精神が強すぎる。たぶんステータス補正がSSSとか振り切れてんじゃないだろうか。
「私は……」
「良ければ久我さんも少し話をしませんか?これから協力関係になるかもですし」
愛理さんが断るのがわかったのだろう。愛理さんの言葉を遮って優希くんは俺も一緒にと提案してくる。俺が断らなければ愛理さんも一緒にくるだろうということか。少し興味もあったので提案にのることにする。
「じゃあ、俺も一緒に行かせてもらうよ。ステータス持ちの〝一般人〟以外の人の話も聞いてみたいし。愛理さんもどうかな?」
ちょっと迷いつつも「大和さんがそう言うなら」と愛理さんも一緒に話をすることになった。愛理さんの学校での事情は少し聞いてはいたけれど、かなり優希くんが苦手なんだな。
さて、どこで話をするかということになって、三階の俺が使っている教室に案内しようと思ったんだが優里亜さんの提案で屋上ということになった。優希くんもそうだけど優里亜さんが俺を見ていたのが気になるし、彼らの目的が聞ければいいな。