第21話
「愛理さん。学生たちが来てる」
俺がそう言うと愛理さんも俺の隣に来てスコープを覗く。
「あれは……優希くん、何でここに……」
やっぱり愛理さんの知り合い、いや元クラスメイトか。昨日スーパーで学生たちに会って、そして出ていったはずの学生たちが俺達のいる赤城コミュニティに来るなんて嫌な予感しかしない。
一人は優希くんと言うらしい、もう一人はスーパーにいた古高さん、そして一際目を引く金髪の少女がいた。
光り輝くような綺麗な金髪で、顔つきは大人びているように見える。目の色はこれも綺麗なブルー。スタイルも日本人とはかけ離れて良いように見える。
「愛理さん。あの金髪の娘は?」
スコープを覗きながら聞いてみたものの返事がない。目を離して愛理さんを見るとジト目で俺の方を見ている。
「大和さんは、ああいう娘が好みなんですか?綺麗ですもんね」
なんでそんな目で俺を見てるの?俺、結構真面目にこれから厄介ごとが起きた時のために対処できるように情報が欲しかっただけなんだけど。
そんな変な顔してたのかな。スコープを持っていない手で自分の顔を撫で回してみるが、うん、全然わからん。
「いや、好みじゃないとは言わないけれど、欲しいのは愛理さんの元クラスメイトかって情報なんだけど……」
「興味はある、と言うことですか?ちなみに私は彼女を知りません」
ちょっと変な雰囲気になってしまったが、金髪さんは情報なしか。
そうこうしているうちに三人は門番さんに連れられて校舎に入って見えなくなる。愛理さんが不機嫌そうな雰囲気を醸し出している。
「まあ、俺の好みとしては、日本人女性が良いかなって思ってる。気になったのは染めてるなら綺麗すぎるって思っただけだよ」
などと言い訳じみたことを言ってみる。自分でも何言ってんだと思うが、この雰囲気は居た堪れない。
「でも、好みじゃない、とは言わないんですよね?」
やべぇ、これ面倒臭いやつだ。何言ってもダメなやつだ。愛理さんがじっと見てくるのでだんだん汗が出てくる。
仕方ない。現実社会で揉むに揉まれた俺が苦労の末に身につけた女性の機嫌を直すリアルスキルを見せる時がきたようだ。
俺は一つため息をつき大袈裟に首を振る。そして愛理さんの目を真剣に見つめる。ポイントとしては目を逸らしちゃいけない。
俺と目が合った愛理さんは、俺が見つめたまま何も言わないので、さっきまでの雰囲気を霧散させてちょっと落ち着きなさそうに、でも視線を逸らせずにモジモジし出した。
そして俺は心の中でカウントダウンを開始する。
……3、2、1ーーここだっ!
「俺は愛理さんの方がか……」
「ここに居たんですか、久我さん。それに愛理も」
俺のリアルスキルを見せる直前で屋上のドアがガチャリと開き、七瀬さんが出てくる。
俺は言葉を邪魔されてフリーズし、愛理さんを見ると口を半開きのままフリーズしている。
その顔はダメだ!愛理さん!モザイクを掛けてあげたい。
硬直する俺たちを訝しげに七瀬さんが交互に見るが、七瀬さんが何かしらの結論を出す前に俺のフリーズが解ける。
「どうしたんですか七瀬さん。俺に何か用ができましたか?」
社会人としては切り替えが大事。すぐさまモヤっとした気分を押し殺し軽く答える。
「あ、あぁ、ちょっと面倒なことになってね。君にも来て欲しいんだ。下にここを離れた学生達が来ている。愛理も……大丈夫か?」
七瀬さんの言葉ではっとフリーズが解除され、何とか頷くと顔を赤くして俯いてしまう。
そして首を捻る七瀬さんに先導され、問題が起きた会議室に俺達は向かって行った。
俺のリアルスキルのお披露目はお預けとなったのだった。
◇◇◇
俺達が会議室に入ると、そこには以前の赤城コミュニティの面々、それと予想はしていたが紅葉コミュニティだと思われる先程の三人が座っていた。俺達が入った途端に紅葉コミュニティ唯一の男性優希くんが反応を示す。
「七瀬さんっ!無事だったんだね!」
立ち上がった拍子に椅子が倒れるがお構いなく優希くんが愛理さんの傍まで駆け寄ってくる。愛理さんはすっと父親の陰に半身を隠すと優希くんが驚いたような顔になる。彼は感動の再会でも期待していたんだろうか?
俺はそれを横目で見つつ優希君を観察する。
身長は俺とどっこいどっこいの175ぐらいだろう。黒髪で目元まで髪を下していて所謂量産型の主人公ぽい見た目である。
顔は整ってはいるが愛嬌もあり、温和な感じがする。確かにクラスに一人いたらモテそうな雰囲気はある。愛理さんが言うにはクラスの中心人物だったそうなのでリーダーシップもあるのだろう。
さらにもう一人。何故か俺をじっと見ている屋上で物議を醸した金髪女性。すらっとして背が高く170はあるだろう。モデル体型でぼんきゅぼんの日本人には滅多にいないタイプだ。目鼻立ちは整っており彫は深くはないが外国人顔というのだろうか。綺麗な長い金髪とブルーの瞳が人を魅了するような雰囲気がある。
最後の一人は古高みずきさん。呆れたように優希くんを見る目が印象的だ。長い髪を後ろで結んでいてスポーツでもやってそうなイメージがある。
三人に共通するのは、何故か制服を着ているということだ。
俺の記憶が確かならば、大地震の日は学校が休みだったとか愛理さんが言っていたような気がするんだけど。そのおかげで愛理さんと会えたわけだし。学校が休みでも制服着てたのか?それともわざわざ着替えて避難したのか?
「……久しぶりだね。優希くん」
おっと、俺が観察しているうちに会話が始まっていた。愛理さんの感情のほとんどこもってない固い声が厳しい。
久しぶりの再会でテンション上がっていたところにこのテンションで言われたら俺なら心がへし折れる。優希くんはどうだろうか?
「七瀬さんが無事な姿を見れてほっとしているよ。ずっと心配していたんだ。足も治ったんだね」
さすがイケメン。俺ならテンション駄々下がりな攻撃を受けてもしっかりと笑顔で返してる。これがモテる男の余裕というやつだろうか。
てか、父親越しに話すとか優希くんメンタル強いな。七瀬さんどうしたらいいか困ってるよ。
「心配……?そっか、ありがとう。私は大和さんに助けてもらったから大丈夫」
そう言うと愛理さんは俺と七瀬さんの手を引いて紅葉コミュニティから一番離れた席に向かう。
愛理さんに手を引かれながらチラリと優希くんを見ると呆然とした表情で固まっていた。
流石にこれはダメージがデカかったらしい。イケメンがしちゃいけないような口半開きで目を見開いて固まっている。即死ダメージだ。
七瀬さんも学校の事は聞いてないのか娘の態度に戸惑っている。
「あ〜、そろそろ始めたいのだがいいかね?」
俺達が席に着くと、状況を見守っていた赤城さんが声をかけてくる。たぶんダメだと思います。優希くんがまだ再起動していません。
「優希。そろそろ戻ってきて」
金髪さんが優希くんの元へ行き服を引っ張って元いた場所に戻っていく。優希くんのテンションが駄々下がりなのが見ていて可哀想になってくる。
「さて、まずは紹介しよう。昨日から赤城コミュニティに入ってくれた。久我君と愛理さんだ」
赤城さんの紹介から俺と愛理さんは軽く挨拶をする。
「そして久我くんは会うのは初めての人もいると思うが、優希くん、古高さん、優里亜さんだ」
三人が立ち上がりそれぞれ挨拶をしてくれる。
古高さんはスーパーで会っている。優希くんは山田優希がフルネームだ。山田という苗字がクラスや学校に複数いたので名前で呼んでもらった方が良いらしい。
金髪の娘は伊藤優里亜と言うのが本名。ハーフだということだ。こちらも苗字が多くいるので名前で呼んで欲しいとのことだ。
挨拶が終わりここからが本題だ。
全員が注目する中、ダメージから回復したのか優希くんが話し出す。
「ある場所の攻略のために協力してほしい」