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第14話

 七瀬さんが倉庫が端から空になっていくようなペースで段ボールを回収していく。中の確認はせず、あればあるだけだ。俺は七瀬さんの周囲にあるデッドスペースを潰すように確認、近くにある段ボールや食品を周りが見渡せるように回収していく。


 かなりのハイペースで回収し、数分後には倉庫内は半分が空になる。ちょっとやりすぎたかと思っていると店内の方が騒がしくなってきた。


「七瀬さん、一旦隠れましょう。何か因縁つけられても面倒ですし」


「そうしましょう。表で大騒ぎするような人達ですからね。見つかりたくはないです」


 俺達はすぐに回収をやめると両開きの扉に顔を近づけて店内を伺う。表で騒ぎすぎてゾンビが一斉に来ちゃったんだろうな。言い争いをしていたと思われる二グループの合計八人が四人ずつで店内に入り込もうとしているゾンビを抑えている。


 一つはおじさんが率いる中年グループ。もう一つはブレザーやジャージを着た学生グループってところか。


 これは不味いな。予想以上にゾンビが集まっている。見えるだけで二十体ほど。下手すりゃこのスーパー囲まれてる。


 二箇所ある出入り口はゾンビの侵入を防いでいるものの、ガラスがなくなっている見通しのいい窓からゾンビが入り込んでくるのは時間の問題のように思える。


 おじさん達の防具は身体中につけているのでガッチガチの重装備だが、武器が鉄パイプの先を尖らせているような物なので近づかれると弱いのだろう。集団で囲んで一体を倒すのは良いかもしれないが、囲まれて突っ込んでこられて間合いが詰まると厳しいのかもしれない。


 このまま見捨ててスーパーを逃走するというのもありだが、物資の残っているここを放棄するのも勿体ない気がしてならない。だがスーパーの中で暴れられるのは勘弁してほしい。


 ……助けるか、逃走か……。


「あっ……」


 悩んでいると七瀬さんが何かに気がついたように声を出す。一瞬ゾンビが入ってきたのかと思い周囲を見回してみるがゾンビがいない。ただそれ以上七瀬さんが何も言わないので俺から聞いてみる。


「何かありましたか?」


 俺がそう聞くと七瀬さんは言いづらそうに答えてきた。


「あっちの学生グループですが……たぶん私のクラスメイトかもしれません」


 そう言われて学生グループの方を見る。確かに一人の女の子は学生服の下に七瀬さんと同じ色の赤のジャージをはいている。そうなると、助けたほうがいいのかな。七瀬さんを見るとどっちともとれるような微妙な表情をしている。足を怪我してからの七瀬さんはクラスメイトに良いイメージがないようだからできるなら会いたくないのかもしれない。でも知り合いを見捨てるのは……という感じだろう。


「じゃあとりあえず介入しましょうか。めんどくさいことになりそうならその後は逃げるってことで」


 七瀬さんが頷く。さてどこから突破するか。出入り口二カ所はゾンビの侵入を防ぐために人が集まっているのでそこに行っても周りが邪魔で戦いづらい。となると、窓から飛び出して外から片づけていくか。


「七瀬さんは店内から窓に集まっているゾンビを狙撃。俺は窓から外に出て外から倒していく」


「それだとゾンビが大和さんに集まってきて危険すぎるんじゃ?」


 心配してくれるのは嬉しいが、時間をかけるとゾンビが中に入ってくる。中に入られると物が散らばって動きにくい店内での戦闘は危険すぎる。


「外にゾンビが集中すれば出入り口も多少は楽になると思う。そこから巻き返せると思うし、七瀬さんのフォローも期待している」


 俺がそう言うと、心配そうだが嬉しそうに七瀬さんが頷く。


「わかりました。精一杯フォローしますので期待してて下さい」


「任せた。MP残量だけ気をつけて。心臓が狙えない場合はヘッドショットしてくれるだけで危険度は下がるからよろしく」


 そう言うと俺は倉庫から飛び出す。目指すは学生グループの近くの窓だ。すると窓付近にいたゾンビが一体吹っ飛んでいく。チラリと後ろを見ると七瀬さんがスナイパーライフルを構えている。相変わらずいい射撃だ。


 七瀬さんが開けてくれたゾンビのいない窓に駆けよるとそこから外に飛び出す。ざっと周りを確認するがそこら中にゾンビがいる。これだけの量を呼び寄せちゃったのかよ!?出入り口付近のゾンビ以外でも二十はいる。それにまだ少しづつだがスーパーに集まってくるゾンビがいる。

 短剣を握る手にじっとりと嫌な汗をかく。


「何!?」

「誰だ!?」


 俺に気がついた人から声は聞こえてくるが今は気にしない。正直ちょっと黙ってて欲しい。


 意識をゾンビを倒すことだけに集中する。集中力が増し、ほんの一瞬世界が止まったような錯覚に陥る。


 襲いかかってきたゾンビの脇を擦り抜け短剣を差し込むと同時に一歩踏み出す。

 その背後にいたゾンビの腕を左手で捌くと引き抜いた右手の短剣を差し込む。

 回転するように倒したゾンビの背後に周り背中合わせになると左右から襲いかかってくる右側のゾンビを躱して背中を蹴りつける。

 ゾンビが抱き合うように重なった瞬間に纏めて短剣で貫く。


「こりゃキツいっ!」


 一息つく間もなく、前後からゾンビが迫ってくる。そして後ろのゾンビが顔を吹っ飛ばされて転がっていった。七瀬さんナイスフォロー!


 前のゾンビを瞬時に倒すと学生たちが塞いでいる出入り口まで道が開ける。左右から迫るゾンビを躱しながら、出入り口に群がっている二体のゾンビを後ろから突き刺して倒すと周囲のゾンビが一斉にこっちを向いてくる。


 ぞっとするような寒気が身体を駆け抜ける。


 これだけのゾンビに見られていると、ゾンビに慣れたと思っていた俺でも恐怖がわき上がってくる。


 ーーこのまま逃げるか?ーー


 ゾンビに囲まれて一瞬弱気になったが、ここにはまだ七瀬さんがいる。近くのゾンビが吹っ飛んでいったのがわかる。七瀬さんはしっかり戦っている。


「クッソッ!!」


 一声叫んで恐怖を強引にごまかしながら、前後左右から突っ込んでくるゾンビを観察する。左から来ているのがちょっと遅い。そう判断すると左のゾンビに近づいていき抱きしめるように振るわれた腕をくぐり後ろから蹴りつける。すぐに別のゾンビが迫る。


 立ち止まっての戦いは不利すぎる。

 俺はゾンビの少ない方に走るように向かっていく。進行方向を塞ぐように迫ってくるゾンビは左右に躱して躱しざまに短剣の一撃をいれて足を止めず、常に一瞬だけでも一対一になるように。


 俺が適当に動きまわっているせいで七瀬さんからのフォローはなくなっているが、時折、少し離れたところにいるゾンビが吹っ飛んでいるので的確に一体一体処理をしているのだろう。


 俺がめちゃくちゃに動いているせいで、ほとんどのゾンビの注意を引いてしまう。完全に囮になってるな。


「っしゃー!俺らも負けてらんねーぞっ!囲まれないように一体一体片付けていく。あの人に全部持ってかせるなっ!」


 出入り口のゾンビが少なくなって盛り返してきた学生達が気合を入れて参戦してきた。俺から離れたゾンビが学生に向かっていき、近いゾンビから一体一体倒している。


 ほっとしたのも束の間、群がるゾンビを避けながらもう一つの出入り口を見るが、誰も出てこない?

 店内に押し込まれたか!?学生達の方は七瀬さんが時折ゾンビを削っているので任せて大丈夫そうだ。


 俺はふらふらゾンビを避けながら、おじさんグループの出入り口に近づいていく。覗いてみるが姿が見えない。


 出入り口を塞ぐように棚が横倒しになっていて、その奥には人影がない。押し込まれて店内で戦っているのかと考え、七瀬さんが危ないと店内に足を踏み入れようとしたが棚で塞がれているのでそれはないと思い直す。


 そもそも店内は静まりかえっている。アイツら、俺が囮になって立ち回ってる間にーー逃げやがったっ!

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ子供(?)の方が現状ゲーム感覚で柔軟というか向こう見ずな選択ができるよねってだけな気もする んー…これはこれでめんどくさいことになる? 相手もまとめられる頭のいいリーダーがいるならこの…
[一言] ものっそい貧乏クジ引いたかと思いましたが、学生たちはいいやつっぽくてどうにか助かったかな。 戦うのに躊躇わないし、なかなか頼もしい。
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