第10話
「どぉしてだよ〜!?」
俺は絶望していた。なのでこのセリフをちょっと使ってみた。ただ俺の中のイメージではもう芸人の方で固定されてしまっている。芸人のをみた後に本人?本家?の方を見たが完全にギャグにしか見えなくなってしまった苦い記憶がある。
ゾンビ狩り後、七瀬さんがシャワーを浴びて、俺、シャワーを浴びた女子高生と一つ屋根の下にいるんだぜ!って心の中でドヤ顔しながら逮捕案件まっしぐらな状況下で悲しいお知らせを聞いたのだ。悲しいお知らせと言っても逮捕されたわけじゃない。
七瀬さんが〝スキル〟を獲得していたのだ。
状況的にはシャワーを浴びて着替えてきた七瀬さんにスナイパーライフルを渡して、暇なときにでも使ってねって話をして、レベルアップしたお互いのステータスを確認したときだった。
「あっ!スキルが出てる!」
そう言って七瀬さんが教えてくれたのは通常スキル〝射撃〟
【射撃】射撃時に命中補正がかかる
だそうだ。そして俺の方は何もなし。これおかしいよね!こんな簡単に七瀬さんがスキルを獲得できるなら俺の方が多く濃く戦い続けてきたのだからせめて〝短剣術〟とか〝潜伏〟とか何か覚えても良くないか?バグってるよね?絶対バグってるよね!?
ただまあおっさんが女子高生に嫉妬するのはみっともないので、俺は余裕の表情で「おめでとう」「射撃を頑張った成果だね」って褒めたさ。
七瀬さんも嬉しそうに「これからもっと頑張りますね」っていい笑顔で言ってた。
そして俺は七瀬さんに断りを入れて屋上にきて絶望してる。同じ〝一般人A〟タイプで何で違うんだ?ステータス補正?補正が高いとスキルを覚えづらいとかあんのかな。それにしても覚えなさすぎじゃないか?
何か差があるようには思えないんだよな。元々の適性みたいなのはあるかもしれないが。一番考えられるのは……年齢。大人になってから習うより子供の方が覚えるの早いっていうし。
ラノベの主人公に高校生が多いのはそういう理由?おっさんじゃダメですかそうですか。一ヶ月ぐらい経ったらもう七瀬さんに完全に上回られて用済みとして捨てられる可能性が……。今のうち優しくしておかないと不味い。
屋上から崩壊している街並みを見つめながら煙草に火をつける。
「ぐぇ、げほっげほっ、うぇ……」
久しぶりに吸った煙草は変なところに入ったのかただただ咽るだけで気持ち悪い。クールでワイルドな俺はどこにもいなかった。黄昏ることすらできなくなった俺は気分が落ち着くまで座ってじっとする。もちろん煙草は火を消した。
ため息をつきつつ七瀬さんの今までの行動を思いだしてみる。特別なことをしていないと思う。ハンドガンを握って、しっかり狙って、トリガーを引く。ゾンビに当たる確率は高い。心臓に当たる確率はそこそこだがどこかしらには当てていた。たぶん完全に外したのは一発ぐらい。
俺の戦い方は短剣、もしくは鉄の剣で一突き。確かに〝術〟というほどの技量も派手さもないが、刃物を振り回したことがない一般人としては結構しっかり戦えているとは思うんだよな。
スキル獲得の基準がわからん。わかったのは一つだけ、戦っていればスキルを獲得することができる。という一点。流石に一般人の七瀬さんが特別ってことはないだろう。
「もう一人ぐらい一般人のサンプルが欲しい。……とは言っても街中にはいないだろうし、早急に情報を持ってそうなコミュニティに合流したい」
ただそれはまだ時間がかかる。俺一人なら行動範囲を広げて手当たり次第に探す事は可能だが、その間、七瀬さんをほっとくわけにもいかない。
「正直、俺はこのままでも良いんだけどな」
コミュニティに入れば煩わしい人間関係が再開される。場所によっては人権なんて無視した独裁者だっているかもしれない。スキルがあって力を得ることができるのだから。
今は七瀬さんのレベル上げに付き合っているが、それ以外は自由だ。一度何者にも邪魔されない自由を知ってしまったら元の社会、いや生活環境が確実に悪化している今の社会に入りたいとは思わない。
何の力もないなら話は別だが、便利能力もらっちゃったし。
それにそのスキルも怖いんだよな。こんな便利な能力、知られてしまったら良いように他人に使われるだけだ。それも多数決、集団に強要されて拒むことなんてできないだろう。
「はあぁ〜……ストレス発散でもするか」
俺はアイテムボックスからスナイパーライフルを取り出す。
「幻想拡張」
魔力が集まりスナイパーライフルを包み込む。魔力弾を撃てるライフルにするのは簡単だ。何度もやっているのでイメージも固まっている。
すぐに魔力が収束して完成する。
片膝をついてスナイパーライフルを構えてみる。構えは適当だ。本で見たのをイメージしてちゃんと構えられているかは不明だがまあいいだろう。
スコープを覗いてゾンビを探す……いたっ!
距離としては500m程だろうか。一体のゾンビがふらふら歩いている。この距離なら外しても察知されることはないと思う。
深呼吸して、息を吐き出し切った瞬間にトリガーを引く。タンッと軽い音とハンドガンより少し強い反動と共にゾンビの頭が半分破裂する。
外れた。
ゾンビは勢いよく倒れると、すぐに起き上がってふらふらと歩き出す。ステータスを表示させるの忘れてた。消費MPを測るためにステータスを表示させる。
もう一度同じゾンビを狙って、トリガーを引く。今度は胸を撃ち抜くとゾンビが吹っ飛んで動かなくなる。威力的にはゾンビが吹っ飛ぶのだからハンドガンより高いだろう。
すぐにステータスを確認すると消費MPは1。威力の高低に拘らず消費は同じで、元の銃と俺のイメージによって威力に差がでるのかな。確かにスナイパーライフルは一撃必殺のイメージが強い。
俺も射撃スキルが欲しいから、MPの限界まで頑張ってみるか。七瀬さんと二人で射撃対決して遊ぶのも面白いかもしれない。どっちが多く倒せるか、みたいな。まあスキル持ちと勝負しても負けるだろうが、七瀬さんの安全なレベル上げと考えれば悪くない。
スコープを覗きながらまったりとしているとゾンビを発見する。ちょっと釣りしている気分になるが釣りはしたことない。
俺は暗殺者、俺は凄腕スナイパーだと自分に暗示をかけながら心臓に狙いをつける。ゾンビが横向きなので肩から射線を通すように狙う。
二体目、トリガーを引いた瞬間にゾンビの腕がもげてぶっ倒れる。倒したという手応えがないのでまだ生きてる。ゾンビは片腕が無くなっていて起き上がりにくいのか倒れたままもがいている。
これは……狙いづらい。
いくらゾンビでもそのままは哀れなので狙いをつけてトリガーを引く。今度は足が吹っ飛んだ。何だかゾンビを嬲り殺しにしているようで物凄く罪悪感がある。ちょっと焦りつつもう一度。
三度目の射撃で何とか心臓に当たりほっとする。
やる気のなくなった俺は場所を変えて当面の目標としている学校方向をスコープで覗く。流石にここからじゃ見えないけど何かないかと見ていると、崩れていないアパートの一室でカーテンの奥に何かが動いた気がした。
スコープから目を離すが、流石に肉眼ではみえない。スコープがズレてアパートを見失ってしまったが、ドキドキしながらもう一度探す。
数分でそのアパートを見つけることができ、今度は何も見逃すまいとそのアパートを注視する。カーテンが揺れたことで見間違えた?ただの錯覚?
もし人がいるとすれば、必ず動きがあるはず。祈るように見つめ続けていると
ーーいた
はっきりとは見えないが何かが動いている。動きがゾンビののっそりとは違う。人かどうかの判断はつかないが確実に何かが動いている。
俺は大まかな場所を記憶すると七瀬さんのいる部屋に急いで帰っていった。