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第9話

 窓を開けても中々こびりついた臭いは取れず、俺もキツい。臭いの元は冷蔵庫。ただ冷蔵庫の近くには行かなければいけない。ここならあるはずだ。


 臭いを必死に我慢してキッチンの開け放たれた収納を見ると、あった……。


「包丁二本ゲット」


 地震前から帰っていないのなら包丁はあるはずだと思った。地震後にここにいた人は、外に出るときに武器として包丁を持っていく可能性が高く、食料も食べ尽くしていると思う。


 ここを探索したいが正直臭いが限界なので、入り口でマゴマゴしている七瀬さんの元に向かう。俺が出てくると申し訳なさそうな表情で謝ってくる。


「ごめんなさい……」


「いや、大丈夫。というか俺も大丈夫じゃないからここは後一年ぐらいは放置しよう。これは無理です」


 二人で苦笑いしながら、大きく息を吸って呼吸を止めると素早く窓を閉めて戻ってきた。いくら何でもこれは無理。臭すぎて吐きそうになる。


「七瀬さん提案があるんだ。探索やめてゾンビ倒しに行きませんか?理由として、臭い部屋は食料は腐ってて回収は無理。臭くない部屋は食料はない」


「私も同じ考えです。やはり盗みはいけません。人がいなくてもそっとしておくべきです」


 俺の提案にコクコク頷く七瀬さん。この臭さが相当効いたのだろう。お互い食料以外の便利品がある可能性を全て無いことにして探索は打ち切った。もう鍵も必要ないので管理室に適当に置いておく。


 臭いが鼻にこびりついているような気がして一旦休憩を挟む。


「七瀬さんは短剣の長さどれぐらいがいいですか?」


 七瀬さんは少し考え仕草をするも、よくわからないらしく、まぁそりゃそうだって話だが。


「大和さんと同じでいいです」


 との事で、持ってきた包丁二本はいつも使っている30cmの刃渡りの短剣に変化させた。これで二人とも二刀流、二丁拳銃の完成である。予備の短剣も欲しいけど、それはまたそのうち包丁を見つけたらで良いだろう。


 さらにミリタリーの趣味部屋から取ってきたベルトにつけられるポーチを二つ強化してお互い腰につける。予定としてはポーチを腰に二つつけて、それに触れて武器のスイッチをする予定だった。

 だが、ポーチが触っている判定になっているようでポーチを触らずとも手に武器が召喚されるように出てくるのでそれで落ち着いた。

 着々と装備が整っていくな。


 ある程度休憩して精神的なダメージが回復した俺たちはマンションを出てゾンビを探す。前回と同じようにマンションの周囲を一周する予定だ。


 物陰に隠れつつ進んでいく。七瀬さんはハンドガンを持って俺についてくる。外ということもあって緊張は隠せていないが、だいぶ落ち着いているので大丈夫だろう。


 二つ目の角、マンションの真裏でゾンビを発見する。ただし数は二体。できることなら二体倒して経験値を稼いで貰いたいがまだ難しいだろう。


「さっきと同じね。七瀬さんが撃ったら俺が飛び出して一体を倒す。一発目を外したら、もう一発同じゾンビに撃ち込む。OK?」


「二発目でも倒せなかったら?」


 不安そうに聞いてくるが……


「その時は俺が倒します。落ち着いて、しっかり狙って撃つだけでいいんです」


 話を終えると位置につく。七瀬さんが前で俺が後ろ。緊張が伝わってくる。まだ二体しかゾンビの相手をしていないのでこれは仕方ないことだ。


 上手く狙いが定まらないのか時間が掛かる。更に少しして七瀬さんが頷き、トリガーを引く。軌跡とともにゾンビが仰け反るが、命中したのは腹。


 すぐに俺が飛び出して射線に注意しつつ隣にいるゾンビの胸に短剣を差し込む。七瀬さんを見ると構えてはいるがハンドガンが揺れているように見える。


 ギリギリまで待つか。


 俺が倒したゾンビが崩れ落ち、もう一体が口を開けた瞬間に二発目の閃光が通り過ぎる。今度は……ハズレ。すぐに俺がゾンビの胸に横から短剣を挿し込む。


【レベルが上がりました】


 おっと、ここにきてレベルアップか。

 倒れるゾンビを横目に七瀬さんの元に帰る。


「良い感じだね。外れたのは仕方ないよ。練習よりも遠かったんだから。今はやれたことが重要だと思うよ」 


 悔しそうにしている七瀬さんに彼女が謝る前に先に声を掛ける。初めはこんなもんでいいと思う。ビビりまくってた俺よりも十分動けてるし。


「ありがとう。次は当てられるように、頑張ります」


 マンションを一周した時点で倒したゾンビの数は三体。二体倒した後にすぐ一体が現れて、これは七瀬さんの射撃で一発で仕留めた。


 やはり射撃に関しては七瀬さんは上手いのではないだろうか?まぁ他の人が使っているのを見たわけではないのでわからないが、わかっている事は俺よりだいぶ上手いってことだ。


「まだMPに余裕があると思うけど、どうする?できそうならもうちょい狩ろうと思うけど」


 七瀬さんのトータルのMPは今朝の時点で10。レベルは上がったが全快するわけじゃないので最低でも後5は残っているはずだ


「まだできます。少しでも早く慣れたいですから」


 迷うことなく七瀬さんが言ってくるので続行することにする。たぶん後一、二体倒せばレベルも上がるからレベルアップしてから切り上げた方が明日の弾数が多くなるので良いだろう。


「無理しない程度にやって行こう」


 マンションから少し離れて一匹発見。すぐさま七瀬さんの射撃で瞬殺。レベルが上がったみたいだがとりあえず続行。


 次は二体同時だがその二体がちょっと離れている。七瀬さんの射撃で一体目を撃ち抜くが腕にあたって倒せず。俺は同時に走り出すと一体目の首を短剣で跳ねつつ、二体目に向かい胸を突き倒した瞬間にすぐに戻ろうと振り向く。


 すると七瀬さんが二発目の射撃で心臓を撃ち抜き倒していた。凄いな、この数日で普通に戦えている。ただMPの問題でここで切り上げよう。まだ数発は撃てるだろうがギリギリまで使い切る必要もない。


「お疲れさま、七瀬さん。射撃がかなり上手くなってきたね。一体だけならもう一人でも倒せそうだ」


 俺が褒めると七瀬さんは嬉しそうに笑っていた。まあゾンビに慣れていないからかちょっとぎこちない笑みだけど。


「はいっ!ただ一人は無理です。大和さんがいるから安心して戦えている部分が大きいです」


「そっか。それでも十分戦力になっているよ」


 今日は切り上げる事にしてマンションに帰る。途中でもう一体ゾンビが横から歩いてきた。無視して行こうと思ったが、七瀬さんがやる気を見せていたのでお任せした。


 そのゾンビも七瀬さんに一撃で倒された。ここまで当たるってちょっと凄すぎないかな?身体に当てているならわかるけど、ピンポイントで心臓に当ててるんだよね。


「七瀬さん何でそんなに当てられるの?凄すぎない?本当に素人なの?」


 流石におかしいと思った俺はちょっと聞いてみたが、やはり素人だという事だ。サバゲーをやってたわけでもないし、FPSをしてたわけでもない。ずぶの素人だと言っているが納得がいかない。


 マンションの自宅に帰って、お互い一息つく。まだ数日しかいないが帰ってきたって気持ちになる。七瀬さんがシャワーを浴びているうちに俺はステータスを確認するとレベル13。スキルは増えてない。


 そろそろ短剣術みたいなのを覚えて良い頃だと思うんだが、一般人じゃ覚えないとかあるのかな?レベルもゾンビだけだと上がりづらくなっている。と言っても異形みたいなのと戦いたいわけではないけど。


 自分のスキルに納得がいかないまま七瀬さん用にスナイパーライフルを強化する。これで暇なときにでも屋上からゾンビに撃ち込んでいけばレベル上げの足しになるだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やったあこの小説面白い! 若い女性への配慮も現実的な主人公だから読んでてしんどいとかもない…今日から当分楽しめるぞ…!!わくわくやで…! ありがとうございます!
[一言] アイテムボックスとか言う不思議なものまで幻想拡張で作れちゃうのか... 知識さえあればBB弾をエネルギーに変換して打ち出す銃みたいなのも作れちゃいそう...できたら強そう
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