第7話
「大和さんっ!大和さん!」
どこからか声が聞こえてくる。あれ、俺何してたっけ?
ゆっくりと体を起こすと、足と腰が痛い。変な体勢で寝てたみたいだ。ぼけっとしながら声のしたほうを見ると七瀬さんがほっとしたような、あきれたような顔でこっちを見ている。
周りを見ると瓶が転がっている。
「やっぱりどこか頭を打ったんじゃないですか?そんな体勢で寝ているなんておかしいです」
心配そうに俺の頭を撫でまわす七瀬さん。ちょっ、正面からそれやると胸が、胸が眼前に来て良くないです。かなり焦りながらも頭のどこかで、役得ですな、という言葉が浮かんで振り払うことができない。男ってこんなもんだよな、と思いつつ七瀬さんが納得するまで頭を撫でまわされる。
「どこか痛むところはないですか?」
心配そうに聞いてくる七瀬さんを安心させるように「どこも痛くないから大丈夫」と言って離れてもらう。改めて自分の体勢を見ると、胡坐をかいている状態で前に倒れるようなトリッキーな寝方をしていたみたいだ。修行僧である。
その状態で寝られるなんてこれもステータスの影響か?と思いつつ、そんなステータスいらないと首を振る。
「ああ、大丈夫、大丈夫。かなり精神的に疲労が溜まってたみたいだ。それでちょっと頑張っちゃったから一気に疲れがきたんだろうね」
変な体勢すぎて足が痺れているし腰が痛い。
「あまり無理しないでくださいね」
そう言うと七瀬さんはにっこり笑って散らばっている瓶を拾い集めだした。身体を伸ばして足の痺れや腰の痛みをとっていると。
「これは、私が飲んだHP回復薬ですね。こんなに作ってどこか行くんですか?他の種類も多くあるみたいですが」
彼女が不安にならないように俺はすぐに理由を説明する。
「すぐに出かけるってわけじゃないよ。もしもの時の保険だね。俺と七瀬さんの分。作れる時に作っておかないとMPが勿体無かったから」
「私は……戦えるのでしょうか?自信がありません」
七瀬さんの分、て言ったのが戦うこと前提に聞こえてしまったか。沈んだ表情で黙ってしまった七瀬さんにこれも説明する。
「いや、戦えなくてもいいんだよ。最低限、戦いを見ても動けるようにだけなってもらえれば十分だ。そうすれば一緒に物資の補充に行けるでしょ?今までは警戒しながら物資を集めてたけど、二人なら役割分担ができるから効率がよくなる」
「わかりました。少し、頑張ってみます」
できることがあるのが嬉しいのか、ちょっと不安そうにしつつも笑顔で頷いてくれた。
瓶を片付け終わると二人でリビングに移動し、今後の話し合いをすることにした。まずは七瀬さんの話を聞くことにする。
「私は……足を引っ張りたくないです。……大和さんさえ良ければもう少しゾンビと戦えるか試してみたい」
決意した表情の七瀬さん。うんうん、初めは忌避感が凄いからね。多少慣れれば自衛もできるようになるし、やる気になってくれてほっとする。
「じゃあ、最低限自衛ができるようになるまでゾンビを狩ってみよう。レベルが上がれば逃げるのも楽になるはずだから、やって損はないよ」
それから俺が昨日見た道路に生えている木の話、夜間の行動に役立つアイテムの案を話し合った。ラノベでは主人公はだいたい〝夜目〟のスキルを持っていて、夜間でも問題なく見えるそうだ。
やはり七瀬さんの意見としても、眼鏡などのアイテムにその効果をつけて使うのがいいんじゃないかという事で話は纏った。
だがこの家に眼鏡はないので、明日のマンション内の探索で探してみようって事になった。
「明日から探索の優先順位は、第一に包丁などの刃物類、第二に食料、第三に便利アイテムって事でいいかな?」
「わかりました。家の間取りはほぼ同じだと思いますので私も役に立てると思います。」
その後、七瀬さんのリュックにも幻想拡張で強化をして話し合いは終わった。
明日から頑張るって事で、今日は俺はミリタリー雑誌を読んで少しでも銃に詳しくなること、七瀬さんはラノベを読んで幻想拡張に使える知識を思い出すって事で一日を過ごすことになった。
とは言っても緊急じゃないから明日からの為に英気を養う意味も込めて休息日ってところか。
二人してリビングのソファーに座り、俺は一通り銃の撃ち方を写真の構えている人を見て予習し、何かやってみるかと床に回収してきたエアガンを全て出す。
大量のエアガンを横目で見た七瀬さんの顔が引き攣っていたが俺がBB弾を詰めていくとほっとした顔でこっちに寄ってくる。
「これエアガンですよね?これでゾンビと戦えるんですか?」
「ああ、このままじゃ無理だけど、幻想拡張で改造すれば十分戦えるよ。丁度いいから七瀬さんも好きなの選んで。とりあえずハンドガン二丁選んでくれる?」
そういうと七瀬さんは二つ選んだ。一つは何故かピンク色のハンドガン。たぶんこれ何かのコラボとか現実にある銃じゃないよね?
「これなんていう銃ですか?」
「いや、俺詳しく知らないんだ。まあ銃なんて撃てれば同じだよ。車は走ればいいよねって感じと同じみたいな」
とりあえず二つのハンドガンにBB弾を入れてあげる。ちょっと満足げに二丁拳銃を構えている七瀬さん。ハンドガンならいけそうか?銃自体が日本人には馴染みがないし、ゾンビに必要以上に近づく必要はないからこれなら戦えるかもしれない。
「家の中だと壁に穴が開く可能性もあるし、ちょっと屋上で撃ってみようか?」
空になっている缶を三つほど持って七瀬さんと一緒に屋上に向かう。今日は風がないから弾がブレることもないだろう。缶を置く台を探してきてだいたい胸の高さに空き缶を二つ、その上に一つ空き缶を乗せて、五メートルほどの距離をとって射撃訓練の開始だ。
一発、二発と弾が外れて壁に当たってどこかに飛んでいく。まあ難しいよな。若かりし頃、某夢の国で射的十連発成功した俺がドヤ顔で本に載ってた撃ち方を教えてあげる。
初めは当たらなかったが、撃つ間隔を開けて一発一発集中して撃つようにしたら当たるようになってきた。すぐに空き缶がベコベコになって立たなくなってきたので、ちょっと迷ったが壁に短剣で丸を書いてそこに切って加工したアルミ缶を貼り付けることで当たったかどうかわかるようにした。
「当たるようになってきました。これ結構楽しいです」
そういえば最近だとサバイバルゲームの参加者に女性が増えてきているってネットで見たな。営業部の田中さんも女性チームと戦ったことがあるって言ってたし。
結構なストレス発散になるのかも。
七瀬さんが集中して遊んでいるので暇になった俺は、ミリタリー雑誌でピンクのハンドガンを調べていく。中々発見できなかったが、広告部分で見つけることができた。
七瀬さんが使っているピンクのハンドガンはアニメオリジナルのカラーみたいだ。女性主人公が使っているものらしい。
カンカンカンカン音が聞こえてくるのでちゃんと当たっているのだろう。七瀬さんのメイン武器はハンドガンで決まりかな。
基本的なスタイルは俺と同じで、短剣とハンドガンを持ち、接近されたら短剣に切り替えればいいんじゃないだろうか。
射撃が当たるかどうかは別として足にあたれば動きを止めることもできるかもしれない。ちょっと試してみないとわからないけれど。
そうして射撃で遊んだ俺たちは、というか七瀬さんは満足してその日を終えるのだった。