第2話
球体を床に叩きつけた途端、ガラスの割れるような音と共にバラバラに砕け散る。
それと同時に床に染み込むように全てのカケラが何もなかったように消えていく。
「何だった……!?」
【領域結界が破壊されました】
【エラーが発生しました。修復を始めます】
【……】
【修正できません。領域結界を破棄します】
【幻想世界スタート前のイレギュラーを確認】
【ソロでの領域結界の破壊を確認】
【低レベルクリアを確認】
【固有スキル:幻想拡張 スキル:ソロアタッカー スキル:ステータス+ を獲得しました】
頭の中にはっきりと声が聞こえてくる。
まるでゲームのアナウンスの様で、ただそれが当たり前のように感じている俺がいて……。
「幻想世界……」
呆然と呟く俺の頭の中には何故かベンチに置いてあった設定集のゲームのような知識が当たり前のようにあり、今までの常識が変わっていることをここで初めて理解した。
俺はゆっくりと壁際に移動して座りこむ。
何がどうなっているのか……わかっていることは、俺が何かしらの力を手に入れて、何故かその知識が当たり前のように頭に入っているということだ。
どこでこの知識を手に入れたのか、誰に教わったのかすらわからないがそういうものとして頭の中にある。
混乱する気持ちを静めるために少しの間何も考えず膝を抱えて……。
頭の中にある知識を確認するように呟く。
「ステータス」
同時に俺の目の前にゲームのステータスみたいなものが表示される。ありえないと思う気持ちと当たり前だと思う気持ちが俺の中でせめぎ合う。
クガ ヤマト
タイプ:一般人タイプA
レベル:1
HP:10
MP:10
筋力:B+
耐久:B+
俊敏:B+
魔力:B+
精神:B+
固有スキル:幻想拡張
スキル:ソロアタッカー ステータス+
これが俺のステータスになるわけだ。オール1の表示かと思ったがHPとMPだけは数字で10となっている。
まあMPはまだしもHPが1だったら転んでも死にそうだしそんなものだろう。
他はアルファベットで……たぶんステータス補正が書いてあるのかな?ちょっとわかりづらい。
それとアルファベットの後ろの+は何の意味がある?スキルに関係しているとは思うが。
そして一般人なんてタイプは設定集に無かったはずなんだけど……見落としか?もしくは設定集にないNPCの村人などの設定だろうか?
一般人タイプAとかあるって事は他にもBがあったりするのだろう。ゲームだと村人がモンスターと戦うイベントとかあるから設定されているとか。
だけど一般人でこのステータス補正ってことはちょっと強すぎる気がするんだよな。Bの上にAがあり、Sとかその上もあるならまあこんなものだと思うが。
何にしても確認が必要だな。固有スキルとスキルをそっと触ってみる。
【幻想拡張】思うままにものを拡張、強化できる。使い手自身のイメージが重要になる
【ソロアタッカー】パーティーを組んでいない時限定で領域結界内でのステータスが上がる
【ステータス+】+値がつきステータスが強化される
【幻想拡張】は設定集で見たサポート型の【アイテム強化】のちょっと良いヤツなのかもしれない。ただイメージが重要ってことは俺次第で選択肢が増えるのかも。正直、大人になってからゲームなどはほとんどしていないから後でいろいろ調べてみる必要はあるな。
【ソロアタッカー】と【ステータス+】はわかりやすいけど、領域結界というのはさっき破壊した球体と関係あるものだろうし、たぶんパッシブスキルっていう自動発動だと思うから今は考える必要は無し。
【ソロアタッカー】は単純に領域結界といわれる場所でステータスアップだからその時がくればわかるだろう。
【ステータス+】は単純な補正の強化っぽい。ただレベル1だとほぼ意味なさそう。誰か比較対象がいればわかると思うけど今は無理だな。
ゲームとして考えてみると、この固有スキルやスキルはちょっと不可解だ。一般人がこんな良いスキルを持っているわけない。
たぶんスキルは領域結界破壊時のソロと低レベル時でクリア時のボーナス、固有スキルはスタート前のイレギュラーって事のボーナスと思われる。
まぁ、一般人がイレギュラー的に領域結界?だと思われる球体を壊したって感じか……。
「一般人なのはいいけど……なら一般人じゃないタイプの人が存在するってことか……設定集に載ってたタイプにこれから会う可能性がある」
会ったら会ったでまあ俺には関係ないか。会ってもわからんだろうし。
ステータスを眺めやっと落ち着いて周りを見渡してみると壊れた内線電話が目に入る。
これに【幻想拡張】を使ってみたらどうなるのだろうかと、むくむくと好奇心がわき上がってくる。
使い方はなんとなくわかる。手に取ってスキルを使えばいいだけだ。
転がっている内線電話を手に取り千切れた配線やヒビ割れた受話器を眺めてみる。
一瞬、普通の物にスキルを使っても意味がないのでは?という気持ちが湧いてくる。このスキルは【幻想世界】独自のアイテム限定にしか使用できず、この世界だと使えないクソスキルの可能性もある。
まあ使えなかったら使えないでどうしようもない。意を決してスキルを使ってみる。
「幻想拡張」
唱えたと同時に手から何かしらの力が内線電話に流れていくのを感じる……感じるしスキルが発動しているのもわかる、ただ、それだけで内線電話は変化する事はなく、俺の中に何かしなくてはいけない気持ちがある。
何かって何だ?ヒントは?説明を思い出せーー思うままにものを拡張、強化できる。使い手自身のイメージが重要になるーーそうだ、イメージだ。
どんな強化、拡張するかイメージしろ。
電話、電話というとスマホのイメージしかない。とりあえずスマホでいいだろう。
スマホをイメージすると何かしらの力、たぶん魔力的なのが内線電話を包み込み、グニャグニャと小さくなっていく。
数秒で俺の手の中にはスマホが出来上がっていた。
「おぉ〜!本当にできた!」
出来上がったスマホは俺が使っていたモデルと全く同じ、見慣れたものの方がイメージしやすいからな。
テンションが上がった俺はさっそく電源をON。指紋認証はできないしパスコードもまだないだろう。
画面がついてそこには不可解な文字が……
四月一日11:55
何故か一ヶ月ほど時間が進んでいる。それに俺が休憩に入ったのはもちろん昼休憩だ。人によっては仕事の都合で早めに休憩に入るがうちはそんな事はない。
時間を修正しようと思ったが圏外でネットに繋がらないので正確な時間はわからない、日付だけでも修正しようと思ったが修正できない。
幻想拡張で作ったためかほとんどのアプリが起動しないし電波も圏外だ。
「……これ使えなくない?このスキル。時計だよね?これただの時計だよね?しかも日時のバグってる。内線電話、元が電話なのにこの仕様は納得できない」
いろいろガッカリなスマホをいじるのを諦めようとしたところでがっかりスマホの時間が12時に変わる。
【幻想世界スタートします】
ーー俺の頭の中に、いや世界中に響き渡った