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第2話

 屋上に上がった俺は、大きめの貯水タンクによじ登り、蓋を外して中を確認する。マンションに俺たちしかいない事もあってまだかなりの余裕があると思われる。


 ぶっちゃけて言うと、よくわからなかった。

 今のペースなら一ヶ月以上は大丈夫なんじゃないかと思う。このマンションを拠点にすると言っても、七瀬さんが十分に動けるようになったら移動するつもりなのでそれまで保てば良いと考えているからだ。


 確認を終えて七瀬さんを探すとフェンスの側で崩壊した世界を見つめながら佇んでいた。声をかけるか迷ったが、横顔を見た感じ絶望してるわけじゃなさそうなので声をかける。


「改めて外を見て、ショックだった?」


 俺の接近に気がつかなかった七瀬さんはビクッとすると、俺の方を真剣な目で見つめながら意外なことを口にする。


「ショックはショックです。ゾンビしか歩いていない世界、両親の事も心配です。けど、不謹慎だと怒られるかもしれませんが世界が変わったお陰で私は解放された……そして大和さんのお陰で自分の足で歩ける。不安や焦りはありますが、それ以上に解放感が凄いんです」


 七瀬さんは緩やかに吹いてくる風に気持ちよさそうに目を細めると、胸一杯に空気を吸って深呼吸する。


 ーー解放感


 俺も目を細めて七瀬さんを見る。

 俺も感じていたものだ。たぶん世の中には生きにくい、息苦しいと感じている人が多くいて、俺や七瀬さんみたいに何とか周りに溶け込んでやってきた人達もいるんだろう。


 逆に溶け込めなかった人はぼっちや変わり者と言われてしまう。そう言ってる人の何人かは自分もそう生きたいと思っているはずなのに。


「不謹慎だ、なんて怒らないよ。俺もそっち側だったからね。」


 俺と七瀬さんはお互いに苦笑すると、七瀬さんはリハビリに、俺はラノベを読むために持ってきた椅子に座り込んだ。



◇◇◇



 このラノベというのは中々興味深い。ストーリーとかそこら辺のことは省くが、俺のスキルに使えるものを一冊読み切る前に見つけた。


 鑑定とアイテムボックスと気配察知系だ。一つづつ説明していく。


 鑑定は、物の効果や他人のステータスを覗き見ることができる。この鑑定のスキルで、使用時の効果がわからない武器やアイテムの使用時の効果を見ることができる。

 敵に使えばどんなスキルを持っているかで戦い方や気をつけるスキルがわかるというものだ。


 アイテムボックス、袋の中は異空間になっていて大量の物を入れておくことができる。中は時間が停止しているので物が腐ったりもしない便利アイテム。


 気配察知系はそのまま周囲の人やモンスターの気配を感じることができる。これがあれば奇襲回避、安全なルートがわかるなど今の俺たちに必須と言っても良い。


 まさかライトノベル一冊でこれだけ情報が入っているとは思わなかった。特にアイテムボックスは目から鱗だ。

 確かにゲームでもどうやって持っているのか不明なぐらいアイテムを持ち歩いていたな。それを表現しているのだろう。


 そして一番引っ掛かった言葉が〝魔石〟

 魔物の中に存在し、取り出して生活必需品のエネルギー源などに使える魔力の塊だ。


 ゾンビの胸にある固い感触、もしかするとゾンビにもこの魔石があるのかもしれない。

 ただゾンビの胸を開いて確認するのは……

 

「やってみるしかないか……最低限、危険な頭部、両腕を切断して胸を開く。考えるだけでキツいな」


 ライトノベルの話が全て参考になるわけじゃない。ここには猫耳獣人も爆乳エルフもロリババアもいないのだから。

 だがゾンビの胸に何かがありそうなのはわかる。


「その前に、武器の補充、アイテム作成をしないとダメか」


 現在の武器は短剣、ハンドガン、包丁。折れた鉄の剣も念のため回収してきたが、あれはもう限界だろう。

 他に俺の持ち物は軍用リュックとボロボロになっているエコバック。


 優先順位としては、包丁でナイフを作り、リュックをできるならアイテム袋にし、物資回収。

 ハンドガンの魔力消費も確認しとかないと。


 七瀬さん次第では、七瀬さんも身を守れるぐらいにはしておいた方がいいよな。洋服の強化が先か?


 何にしてもここ数日のゾンビの挙動の変化は激しいからやれることは早めにやっておかないと手遅れになる可能性もある。


「七瀬さん!部屋に荷物を取りにちょっと離れるから、無理しないようにね」


 屋上を歩きまわっている七瀬さんに声をかけると、七瀬さんは「わかりました」と言ってリハビリを続ける。ちょっと見た感じだと出歩いても問題なさそうな感じがするけど、何が起こるかわからないからな。長時間歩けるぐらいまで筋力が回復しないと無理か。


 俺は屋上を離れると七瀬家の鍵を開けて寝室として貸してもらっている両親の部屋に入る。ちなみに七瀬家の合鍵はもらっている。

 リュックの中を確認するとタオルにくるまれた包丁がある。


 そのままリュックを背負って屋上に出て七瀬さんを確認すると、普通に歩いているから大丈夫だな。なんか子供の安全を常に監視している親の気持ちになってくる。


 椅子に座り包丁を取りだすと、七瀬さんが不思議そうな顔をして近づいてくる。


「包丁をどうするんですか?」


「ああ、これに今から幻想拡張を使おうと思ってね」


 スキルに興味を持ったのか、押していた車椅子に座って興味深そうに見ている。このまま見ているつもりなのかな?見られているとちょっと緊張するし、ちょっと恥ずかしい。いい大人が包丁を持って「幻想拡張」とか厨二発言しちゃうんだから。

 ま、まあ、実際できるんだから厨二発言じゃないとは思いたいけど。


 このスキルは秘匿だな。七瀬さんにも言っておこう。スキルを隠したいって程のものではないけど、大人としては恥ずかしいのだ。


「幻想拡張」


 俺の魔力が包丁を包み、刃渡り30cm程の両刃の短剣が数秒で完成する。このスキルは一度作ったものは作成スピードが上がるのが助かるな。短剣を作っただけなので消費も少ない。


「本当に、物が変化するんですね。マジックを見ているみたい」


 目をキラキラさせながら面白そうに七瀬さんが見ている。喜んでくれたのはよかった。そう言えば、短剣に纏わりつく魔力は七瀬さんには見えたのかな?


「変化させるときの魔力は見えた?」


「はい。何か黒いものが覆っていくのが見えました。聞いていたから大丈夫でしたが、知らなかったらビックリしていたかも」


 そうか、使用中の魔力は見えるのか。ならできるだけ人前では使わないようにしよう。


「七瀬さん。この力のことは秘密ね」


 七瀬さんにくぎを刺すと、ぱぁっと嬉しそうな笑顔になった。


「もちろんわかっています!あれですよね、目立ちたくないんですよね!?でもいざという時にはやりすぎじゃない?ってレベルで大っぴらに使ってみんなポカーンとするやつですよね?最終的には大和さんだから、みたいな感じでっ!」


 嬉しそうに語る七瀬さん。

 いや、何言っているのかわからないんだけど、七瀬さんの好きなラノベの主人公はそんな感じなの?結構しっかり読んでるんだなって、なら初めからスキルとか七瀬さんに詳しく聞いたほうが早かったのでは?

 しかも俺のスキルって使い方によっては強力だと思うけど、ラノベの主人公みたいにど派手なものじゃないからみんなポカーンとはしないと思う。


 それに、この世界には俺以上の能力を持った人がいるはずなんだ。ラノベ主人公タイプの。どこで何やっているか知らないけれど。


 そこでふと、思う。七瀬さんはどうなのだろう。どこから見てもヒロインぽい。


「七瀬さん、〝ステータス〟って言ってみてくれるかな?」

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― 新着の感想 ―
[一言] はしゃいでるの可愛い。
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