表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/96

第1話

 これどんな状況!?何で七瀬さんに抱きつかれているの!?

 俺の頭の中で〝事案発生〟と警告がなり続ける。このままでは俺の社会的地位が致命傷を受けることは確実。まさか不審者が帰ってきたから社会的に俺を殺そうとしている!?ニュースで見た痴漢冤罪事件が頭をよぎる。


「な、七瀬さん。よくわからないけど、一旦離れた方がいいです。ご近所さんの目もありますし。それにほら俺結構汚れてるんですよ。」


 ご近所さんなんて既に存在していないことはわかっているが、何言っていいかわからない。それよりも早く離れないと不味い。


「ご、ごめんなさい。足が疲れてちょっと動かなくなってしまって……」


 七瀬さんもようやく正気に戻ったが、足に力が入らず俺に寄りかかったまま動けなくなっている。てか、足が痺れてほとんど動かないとか言ってなかったっけ?


「じゃあ、申し訳ないけどちょっと失礼します」


「きゃっ……!?」


 俺はちょっと体勢を変えると七瀬さんの膝裏あたりに手を回して抱き上げる。初めてやったが、所謂お姫様抱っこである。

 正直、する方もかなり恥ずかしいし、女子高生をお姫様抱っことか絵面が不味い。


 七瀬さんも顔を赤くして俯いてしまっている。早く解放してあげなければ。


 七瀬さんが出てきて閉まってしまったドアを片手であけると、玄関に入っていく。部屋を見渡すとリビングに車椅子があったのでそこに七瀬さんをそっと座らせる。


 離れた所に車椅子があるのは歩く練習でもしてたのかな?


「あ、あの……重くなかったですか?」


 七瀬さんが申し訳なさそうに聞いてくるが、そういえば全然重くなかった。女子高生の平均体重は知らないが40kgぐらいはあるのかな?

 これもステータスの影響かもしれない。たぶん今の俺は毎日全力で体を鍛えているボディビルダーぐらいの力はあるんじゃなかろうか。何なら背負っているリュックの方が重いまである。


「全然重くなかったですよ。羽のように軽いってやつですね」


 俺の言葉に恥ずかしそうに、ほっとしたような表情を見せる……。

 何だこれ?出ていく前と帰ってきてからの七瀬さんが人が変わったように見える。もはや別人と疑うまである。そういえば、痩せ細って顔色も悪かったはずが、健康的な体つきと顔色になっているような?


「ひょっとして、HP回復薬……いや、栄養ドリンクちゃんと飲んだんですね」


 俺の言葉に思い出したのか、恥ずかしそうにしていたのが顔を上げて一気に饒舌になる。


「はい!すごい効き目でした。それで足も治ったんですよ!お医者様には治らないって言われていたのに。まるでファンタジー小説に出てくるような魔法の薬みたいっ!あれは大和さんが作ったんですか?」


 キラキラとした目で下から覗き込むように見られると照れるな。そうか、やっと理解できた。


 頭のイカれた不審者かと思ったら、動かない足の治療薬を持ってきたイケメンだったわけだ。まるでヒロインを助けるヒーローのように。

 飲んでくれればいいなと思っていたけど、本当に飲んじゃったんだ……あの怪しい液体。この子大丈夫かな?騙されやすい子なのかも。


「今なら信じてくれると思うけど、ファンタジー的な力を手に入れてね。そのおかげで何とか生きてるんだよ。あの薬もその中の一つ」


 それからは俺の今までの話をして、七瀬さんの話も聞いた。七瀬さんの足に関しては機能としては問題なくなり、玄関先で動けなくなったのは半年の車椅子生活で筋肉が落ちているのが原因だとわかった。


 明日からリハビリしないと、って楽しそうに笑っていたのが印象的だった。活力が戻っているというか、いい笑顔で笑う子だったんだな。


 暗くなってから二人で夕食をとった。俺がとってきたものはほとんどひと手間かけなきゃいけないもので、主にお湯が最低でも必要になる。

 なのでそれは明日以降に考えるとして、今日は缶詰だけの寂しい食事であったが、二人で食べたためかいつもより美味しく感じられた。こんな食事も久しぶりだな。


 一人暮らしをしていたせいか、一人で食事することに慣れ過ぎていた。女子高生と食事とか何話していいのかわからなかったけど、主に七瀬さんが話してくれていたので助かった。


 さて、今日はここに泊めてもらうことなったがどうしよう。ああ、ちなみにちゃんと部屋は別。

 問題は異形にコロコロ転がされまくった俺は、汗と埃で汚い。さらに一張羅のスーツもボロボロになっている。

 食事前に多少拭いたのだが、正直なところ体が気持ち悪すぎてベッドに入りたくない。話をしている最中もいつ七瀬さんにおっさん臭いと言われないかとドキドキしていたぐらいだ。


「人類の反逆者の意味はわからないが、討伐したことでここら辺のゾンビが落ち着けばいいけど。そして、できれば水の確保をしないと生活自体が困難になる、か」


 そこら辺は明日、七瀬さんと話して考えよう。



◇◇◇



「と言うわけで、衛生面の問題で風呂に入りたいんだけど何かアイディアはない?」


 朝起きるとさっそく七瀬さんと朝食の缶詰を食べながら相談する。


「今は水だけは十分にあると思います。屋上のタンクの中にどれだけあるかわかりませんが、大和さんのスキルで何かできませんか?」


「スキルか、言いにくいんだけど俺ほとんどゲームしないからスキルとかに疎くて。七瀬さんは詳しかったりしない?」


 俺のスキルで水をどうにかする、か。お湯が出せれば解決するんだろうけど、お湯か水を延々と出せるような物のイメージが俺の中にないんだよな。


「スキルの知識ですか……知識ならライトノベルの知識が役に立つのではと思います」


 七瀬さんが遠慮がちに言ってくるが、ライトノベルか。読んだことないな。


「俺、ライトノベル読んだことないんだ。このマンション内で誰か持っている人知ってる?書店に行ければあるだろうけど。電気が使えないし、棚がほとんど倒れているから探すのが厄介でさ」


 少し迷うような表情を見せた七瀬さん。何かあるのかな。


「それなら、少しだけ……」


 そう言うと七瀬さんは、一旦自分の部屋に戻り数冊の本を持ってきた。恥ずかしそうに差し出してきた本を受け取ると。

 男性(たぶん主人公)が色々な美少女に囲まれている表紙が目に入る。出してきたってことはこれが俗に言う〝ラノベ〟なのか。


 パラパラめくってみると初めは女性の下着姿や、いやそんなポーズ取らないでしょって感じのイラストがあり、それから小説が始まる。内容は


 〝神の勘違いで死んだ主人公が、お詫びにチートをもらって異世界に行って無双する。そしていろいろな女性(男は大抵クズ)を助けてハーレムを築く〟


 この時点でツッコミどころはあるが、話の内容はそこまで重要じゃない。どう見てもこれは〝男性向け〟なのではないかと思う。現実的にハーレム云々言いだしたら会社ではセクハラで冷たい目をされ、友人関係だったら鼻で笑われるレベルの男の欲望全部盛りみたいな内容だ。

 あくまでも欲望部分が〝男性向け〟であるとは思うが、もしかしたらストーリーはめちゃくちゃ面白いのかもしれない。


 何か言うべきか迷ったけど、恥ずかしそうに俯く七瀬さんを見ると、ツッコんじゃいけない部分なんだと空気を読む。


「とりあえず借りておくね。一旦屋上のタンクを見に行こうかと思っているんだけど、七瀬さんはどうする?」


「あっ、私も行きたいです。家の中じゃ狭いし。屋上でリハビリしたいです」


 俺が話題を変えたので、七瀬さんもそれに乗ってきてくれる。笑顔で行きたいと言う。

 話し合いの末、念のため屋上でのリハビリは俺がいる時だけ、部屋の中では自由ということになった。昨日みたいに屋上で動けなくなったら大変だしね。


 リハビリ初日なのでいきなり階段は厳しいということで屋上まではお姫様抱っこ。後から車椅子を持ってきて、七瀬さんは車椅子を押すようにリハビリを始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ