第10話
「疲れた……」
集中してて気がつかなかったが倉庫内は真っ暗になっていた。
俺の性格上、集中すると周りが見えなくなることが多々あるのでこれも要注意だな。
立ち上がって固まった身体を伸ばすと、関節がポキポキ音を立てる。
ステータス確認した時に見たMP20を使って10本のアイテムを完成させた。
俺の周りに置いてある栄養ドリンクの瓶を見回して納得の出来だと満足げに頷く。
「時間はかかったけど、成功している感はあるから大丈夫だろう」
10本の内訳はこうだ。
解毒薬×3
HP回復薬×4
MP回復薬×3
これでもしもの保険はできたと多少は安心できる。保険があるからと無理な突撃はするつもりはないが、これがあるだけで気持ち的に楽になるはずだ。
「ステータス」
ステータスを確認してみたところHPは時間経過で回復したのかレベル4の最大値だと思われる40になっている。
なのでHP回復薬は試しても効果がわからない。ならば、MP回復薬を試してみるしかない。
MPはスキル使用の消費と、自然回復で現在の数字は4だ。
ちょっと緊張するがMP回復薬を手に取り蓋を開ける。とりあえずって事で匂いを嗅いでみるが、栄養ドリンクの独特な匂いはせず無臭だ。
色はちょっと暗くてわからないが、特に粘度があるわけではなく見た目は水みたいな感じだ。
「よし、飲むぞっ!」
ちょっと気合を入れながら自作したMP回復薬の瓶に口をつける。大丈夫だと感覚ではわかっているが未知の飲み物に今更ながら不安になる。
数秒迷った挙句に意を決して瓶を傾け未知の液体を口内に入れると一気に飲み干す。
味は全くなく、温い水を飲んでいるようで、本当に効果があるのが疑念が湧いてくる。
念のために開きっぱなしにしていたステータス画面を見るとMPが凄い速さで回復していく。
しばらく表示を見ているとMPが40の時点で動かなくなる。
「飲んで一瞬で回復するんじゃなく、徐々に回復していくパターンのやつか。ただ回復スピードはかなり早い。秒間1回復ぐらいか」
それに回復量も高いみたいで俺のレベルだとMP0でも全回復まで効果はありそうだ。
となるとHP回復薬も同じような効果だと仮定しておく。
「効果を実感できたことで、成功した感覚は間違いないと考えても良さそうだ。これなら解毒薬も問題なく効果を発揮するだろ」
良かった。これでゾンビに噛みつかれたり引っ掻かれたとしても、スーツの防御力でダメージは軽減できて、解毒も傷を癒すこともできる。
不意に遭遇するゾンビ複数との戦闘になった時も多少の怪我を恐れずに逃げることができる。
できることなら怪我はしたくはないけど。
そういえばワイシャツには何も付与してなかったな。せっかくMPが回復したから防御力上げてガッチガチに固めておこう。
◇◇◇
朝になり目を覚ます。
昨日は幻想拡張を使いまくって疲れたので何となくHP回復薬を飲んで寝てみたんだが気分が良い。
気分スッキリだ。
ここ二日ほどゾンビと戦いながら、ビビったり、逃げたり、緊張したりで自分で思う以上に身体が疲れていたんだと思う。
肉体疲労にもHP回復薬は効果があるんだと思う。これはHP回復薬が手放せなくなりそうだ。
昨夜は店内にゾンビが入ってこなかったのか、夜中に物音で起きることもなくぐっすり眠れたのも良かった。
グッと身体を伸ばして、水を飲む。
今日の予定は、拠点を変えるための建物の選別ってところだろう。
コンビニの倉庫は食料もあるし生活は何とかなるんだが外を見ることができないのがキツい。
ここに長期間立てこもるのは精神衛生上良くないし、幻想拡張をもっと活かせるような知識も欲しい。
目標としては出入り口の少ないマンションを探す。
昨日の時点でここら辺のゾンビは粗方倒してしまったので、ゾンビの発生がゾンビ化だけならすぐには増えたりしないだろう。
マンションの一室に食料を持ち込んで立て籠り、気分が滅入ってきたら屋上で昼寝でもすれば良い。
レベルが上がって、体調も万全の今なら行動範囲を広げてみるのもありだろう。
エコバッグに最低限の食料と回復薬各種を入れてベルトに固定、前回の失敗を活かしタオルを挟んで瓶同士が当たって音を立てないようにして軽くジャンプ。
「よしよし、これなら動いても音はしないな」
俺はコンビニを出ると周囲を警戒しつつ、まずはコンビニ周辺を改めて探索。
ゾンビは一体いたのみで、後ろから心臓部に鉄の剣を差し込み物音を立てずに瞬殺。
「慣れたもんだな。体の疲労が抜けたからか体が思うように動いている気がする」
ゾンビを倒す時は後ろから刺す同じ動きを繰り返していたからか随分スムーズに体が動くようになってきたような。
これなら背後をとれれば二体ぐらいならゾンビが声を上げる前に倒せそうだ。
自分の動きに満足しつつ、気を抜くと不意打ちされた昨日を思い出して気を引き締める。
ここからは探索範囲を広く、コンビニを中心に円を書くようにじっくり広げていこう。
大通りに出るのは不味いので、細い路地を歩きながら一体一体ゾンビを倒していく。基本は後ろを向いた時に一気に接近して、こっちに向かってくるようなら物陰に隠れてやり過ごした後に背後から一撃。
ゾンビは感知能力がそれほど高くないのか二十メートルほど離れていればこっちを向いていても物陰から覗く程度じゃ気づかれることはほぼない。
一度調子に乗って、身体を出してみたら「あぁ~あぁ~」言いながら向かってきたので他のゾンビが集まる前に正面から鉄の剣を突きさし、すぐに逃げた。
それでわかったことだがゾンビの声は大きくないが、他のゾンビを呼び寄せる効果があるみたいだ。物陰から見ていたが、声を出したゾンビのところへ集まっていくような動きを見せた。
「これか、ゾンビの声で集まってくる……ということは、コンビニ周辺のゾンビが少なかったのは何処かにゾンビが集まった結果、一時的に少なくなっている?ならゾンビの多いほうに行けば生き残った人間がいる可能性がある」
だが、ゾンビの多いところに行くのはリスクがある。ある程度戦えるようになってきているとはいえ、それでも囲まれたら対応しきれなくなる。さらに周囲のゾンビが集まってくるとなると、逃げきれるかどうかも怪しい。
「最優先は武器の補充と拠点の確保だな。食料は今のところ何とかなっているから、レベル上げと並行してギリギリまでやっていこう」
武器は今のところ鉄の剣があるとはいえ、予備の武器も欲しい。包丁があれば性能の良いものを幻想拡張で作れると思うんだが……。
ファンタジーらしく追加効果がある武器とかも欲しい。
例えば、斬ったところに雷属性の追加効果で感電させるなど。ゾンビに効果があるかはわからないけど、欲しいものはほしい。
デ○ン系の追加効果は勇者が使うから一般人の俺は遠慮するとしても、せめて店売り、ほ○おのつるぎや作品によってはドロップ限定のふぶ○のつるぎ的なのは使ってもいいはずだ。
それに……
「設定集を見た感じだと魔法も使えるっぽいんだよな。イ○系の魔法が使えればまとまっているゾンビを一気に倒せるのに」
ただ魔法の使い方がわからない。たぶん何かしらのスキルが必要になってくると思うんだけど、スキルの習得方法が判明していない。
人に聞かれたらゲーム脳と言われそうなことを考えつつ、俺は探索を続けた。