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時雨に蛍

作者: 渡良しの

降車してすぐ、私はふと白々しく光る駅名の書かれた看板にたかる小さな虫の群れを見ました。

すると特別訳もなく涙が流れてくるのでした。

と言いますのも、私は先程まで不規則な列車の揺れに身を委ねながら「人様に迷惑をかけて生きる訳にはいかない」と何度も何度も繰り返しておりましたが、その言葉を噛み締めれば噛み締めるほどに苦味が出てきて仕方がないのです。確かに、人は誰しも迷惑をかけなくては生きてはいけません。そのことは頭では分かっているのですがやはり私は生きる資格がないのだと、頭ではない私の中のどこかが直感的に感じ取り、生きていることを許さないのです。そんなことを考えておりましたから、今、私は胸のあたりが軋むように痛く、苦しいのです。しかし外には待ち人がおりますゆえにこの場で何分も考え込んでしまう訳にもいきませんから、仕方なく足を踏み出してみました。プラットフォームから改札までの薄暗い道のりには誰かに踏まれて潰れた虫がおりましたが、それは見てはいけぬもののように感じて目を逸らしつつも、弔ってやるものがいないことを黙認する私への罪滅ぼしでしょうか、踏まないように細心の注意を払って通り過ぎました。


改札を通って駅前の待ち合わせ場所である時計の下に向かいましたが、まだそこには待ち人はいません。私は仕方なく待っている間はロータリーの真ん中にあるベンチに腰掛けることにしました。本来なら付いているはずの街灯も先週あたりに点滅し始めているのを見ましたので、今は付いておりません。

無骨な暗闇の中に小さな蛍の光を見るまでは帰れそうにありません。


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