第8話 白刃の戦場に謳う③
「ははっ!これで特異特質は使用不可!詰んだ!君達は詰んだ!ほらぁ魔女はこの娘だけだろぉ?」
私は両の肘よりも上から《トリマト》により切断された。
――――痛み。確かに少しは感じる。常人ならば両腕を切断された時点でショック死か地獄の苦しみで悶え、苦しみ、のたうち回るだろう。
でも私には【微かな痛み】程度にしか感じない。
そして腕は意図も簡単に、まるで豆腐を切るかの様に物理的な抵抗は一切無く。
彼の刃物化された指の切れ味は恐らくは、人工的に作られた刃物を凌駕しているで有ろう切れ味。
刃物化事態が複雑ではなく単純、故に能力の向上に繋がり、特異特質は複雑で無いモノこそが、より一層に能力を強くする事例も有る。
彼は恐らく――――その事例に当てはまる人物であると。
「ひぁぁっ!ニコちん大丈夫ぅぅ!両腕がコロンしちゃってるよ!コロン!」
ペインは一応の事、私を心配してくれているみたいだが、何か嬉しそうにも聞こえるのは気のせいか?
「うぉい!トリマトよぉーオメェさんはやっちゃいけねぇ取り返しのつかねぇ事、やっちまったなぁぁ!これで俺達の勝確定だな!」
隊長も心なしか嬉しそうな、そんな風に私には感じられる。
「君達は仲間が大ケガして、気でも可笑しくしなったのかな?だって両腕を切断したんだよ!それに特異特質を使う大事な大事な《腕》を《手》を失ったんだよ!それなのに良くもまぁ――――」
「ニィィコ!――――やれ!」
隊長は私に向かって右手を《銃》のポーズをとり私に向かって打つ真似をし指示する。
私は無言で本当の、私の特異特質を発現させる。
初動は必ず両目が金色に輝くも、真後ろに居る彼には見えていない。好都合!
【特異特質】発動
【逆恨み】
――――ブッシャァァ
刹那、迸る血液。地に落ちるトリマトの両腕。強いては肘よりも上部。それは先程のニコとほぼ同じ部位から腕が、何の前触れも無く切断された。
ボトボトッ
鈍い音が床から聞こえる。床には血溜まりとそこにはある筈の無い彼の両腕が転がる。
「えっ?」
トリマトは状況の判断が思考が追い付かない。数秒して彼は状況を無理矢理にでも押し込まれたように理解をした。
そして断末魔にも似たような、何処から絞り出したのかと言う程の咆哮を上げた。
「――――ヴァァァァ――何が……何がおぎぃだんだぁ――――いだいあづいいだい、痛いいだいよぉぉ!!」
あまりの苦痛と突然の出来事に彼は、力無く膝から崩れ落ちた。
「あっはっはっ!バッカでぇー!まぁ誰だってそうなるわな!《初見殺し》とは良くもまぁ言ったものだ!」
隊長はバカ笑いをし、腹を抱えて笑う。
「さぁもう終わりにしようよ。貴方も辛いでしょ?」
私は両手で彼の頬を触れる。
「いだい……手……なんで手が……?なんで手が有るんだよぉ!!」
彼は私の無い筈の彼が切り落とした【腕】が有る事に困惑をし、更に荒れ狂った。
私の特異特質とは、《私》が受けた【事象】をそっくりそのまま《相手》に返す。そして返すと私は《事象》が起きる《前》に事象が起きた所が元に戻る。
それは回避する事等、不可能。
問答無用で返す。強力過ぎるが故に欠点も勿論有る。
それは完全なカウンター型。相手から私が何かしらの事象を受けていないと成立しない。そして、その事象が私を即死させてしまっても成立はしない。私が生きている事で成り立つ。それに効果が相手に知られてもいけない。警戒されるから。
まさにギリギリの背水の陣。しかし、効果は先の通り絶大である。これが隊長曰く【隠し玉】って奴だ。
更にトリマトの刃物化が可能な範囲外から切断をしたのだ、もうどうにもこうにも彼の負けは確実。
後は静かに死ぬだけ。
「では"さよなら"だ。イケメン君――」
隊長はそう言うと彼の額へ銃口を向ける。
シャンシャン――――
――――シャン
何処からとなく響く"鈴の音"がその場に居る全ての者を地へと縛り付ける。
シャン
「あらあらあら~。ウチの新人君を随分と可愛がってくれたわねぇ。可愛らしいお嬢さん!」
「お……お前が何で……此処に居る」
私達の前にはサイドアップにした狐色の髪。凛々しく着こなされたビジネススーツの女性が此方を見据えていた。右手に白鞘の刀が握られている。
(ホテルの従業員?否、人払い済みの筈。あの発言は……。それにこの異常なまでの威圧感と殺気……怖い)
「ご……御前……すいませ……ん。こんな失た――」
「いいのよ。気にしないで。目的はもう時期達成するもの。そこでゆっくり休んでなさい。腕は……まぁ"新しい"の用意してあげるから」
「オイ!俺を無視してんじゃねぇよ。【鈴鹿】!」
「あら。貴方いらしていたの?お久しぶり~あの子達は元気かしら?」
「はぁん?お前なぁ……アイツらは……」
「ふぅ。アタシ言ったわよね?人類にはもぉ"興味"無いって。あの子達だって結局は人類の殻に籠ったまま……貴方だって中途半端じゃない。そのクダラナイ才能は――」
キィィィン
「ペイィィン止めぇろぉぉ!お前じゃ敵わなっ……」
「あら可愛らしい子。食べちゃいたい位に強そうね貴女は……」
「ありがとうございます。そしてさようなら」
ペインの両手は銃では無く何時しか、サバイバルナイフに持ち変わっており、その斬撃を白鞘のみで防ぐスーツの女性。
二刀のナイフによる猛攻すら手に取る様に軽やかに避ける。太刀筋、行動、視線、思考、更にはペインの"癖"までもが読まれているかの動きをする。
「んふふ。あー貴女はもしかして、"旧帝國"の――――」
「それ以上は言うなぁぁぁ!」
今迄聞いたことの無いペインの怒声。それに此処まで感情的なペインを私は初めて目の当たりにし戸惑う。
(旧帝國?何十年前の事を?そもそもこの女性は一体何者?祝祭の?)
「ペイン!退け!流石のお前も鈴鹿に絶対に勝てない!頼む……退いて……くれ」
「隊長ぉ……何でそこまで……私はまだ」
「あら貴女はとぉっても優秀な上司に恵まれているわね!アタシと貴女の力量はね。天と地程の差があるのよ。分かる?んー分からないから挑むのよね!いいわ気が済むまで来なさいな!」
「シャァァァ!」
体勢低く、地を這うように床ギリギリを走る。女性の間合いに入るや否やナイフを投げつけ、直ぐ様に腰から銃を抜き出し引き金を引く――。
シャン
『ニシムク・サムライ』
シャン
鈴の音色が聞こえた気がした。
気が付くとペインが大量の血を流し、うつ伏せで床に倒れている姿が目に入り、私は身の降りかまわずペインへ駆け寄った。
「ペイン!ペイン!大丈夫?今……今すぐ治してあげるから――」
「んふふっ。お嬢さん優しいのねぇ……でも」
"鈴鹿"は私達に近寄るや否や
グチュ……グチュグチャ……
ペインの背中に刀を突き刺し、これ見よがしに刀で"肉"をこねくり回す。
「や……やめて……止めてよぉ……」
「あら泣いちゃったの?泣き顔も可愛らし。私の子供になっちゃう?ねぇ【バーベナ】ちゃん」
タァーン
一発の銃声が鳴り響く。
無防備であった鈴鹿の後頭部からは、緩やかに血液が流れ出していた。