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第5話 新年は貴方と共に居たかった

 「オイ!何時までゴロゴロしてる。少しは手伝え【バーベナ】!これをテーブルまで頼む」


 「――あーい」


 のそりと起き上がり【佐行(さゆき)】から温かな料理が盛られた皿を受けとる。


 クリスマスに巷を少し賑わせた『婦女子連続惨殺事件』の犯人【麝香 撫子(じゃこう なでこ)】を捕獲する事で幕は閉じた。彼女は人類に仇なす存在である【魔女(ヘクセ)】。今は特別施設に幽閉(・・)されている。そこで彼女が何をされているかなんて私達には知らされていない。所詮はそんな所……。


 私と佐行も【魔女】。なぜ私達が捕まらずに生活出来ているのか……それは。



 「おぉ!元日のお昼からエビチリですか!流石は料理名人!このソースの色がまた良いねぇ」



 人類の為に特異特質(ちから)利用(・・)しているからだ。別に私達は【人】に迷惑をかけたい訳じゃない。佐行に至っては元は《人》。ある日突然、後天的に魔女になった。性別に関係なく【特異特質(マイノリティ)】を持つ者全てを魔女と呼ぶ。魔女の烙印を押されると、もう人とは扱われずに一生涯を送る事になる。



 「なんか中華だと華やかな感じで、正月に良くないか?あと生春巻き」


 「生春巻きはなんか違わなくない?好きだけどさぁ」



 人類には魔女への対策はまだ脆弱であり、私達みたいな協力者(・・・)に支えられている面も否めない。魔女が生きるには、協力者としてひっそり生きるか、仇なす者として生きるか……私達は前者として生きる道を選び許された。



 「そうか?春巻だから中華じゃないの?」


 「ベトナム料理だよ!判らずに作ってたとか佐行らしいね」



 でも何故、協力者として私達みたいな【仇なさない魔女】が居るか、不思議なところではあるが、それはまだ人としての《心》が残っているから……。



 「俺らしいか……。お節出すか?朝食べたから止めとくか?」



 完全に《人の心》を失うと言うこは、【目的本能】に忠実に支配され最早別人として生きる。昔の記憶や本人の意思など有っても無いようなもの。それは個体により様々だ。殺人衝動、食欲、性欲、承認欲求、主として人の時に果たせなかった物事(・・)が【目的本能】になり易い。



 「お節はもぉいいよ。それに何であんな五万円(たかい)の買ったの?」



 先の事件では、【人】の時に子を授かれなくなった事が目的本能に多大な影響を及ぼしていた。



 「折角の正月だし良いかなと思ったんだがな。駄目だったか?」


 「いや駄目じゃないし……佐行が買ったから別に文句はないよ。私はご馳走になってる方だからさ。でもさ佐行の目的本能って本当に平和だよねぇ。まさかの衝動買い(・・・・)とはね。お節もそうなのかな?」



 笑うも佐行の場合は色々と特別だと私は思う。特異特質は《物の出し入れ》だし目的本能は《収集癖》なんて平和的。

 まぁ衝動買いは私が馬鹿にしているだけであって、本質は《収集癖》のみだけなんだが如何せん、無駄遣いが多いのが欠点。



 「ねぇそろそろ一緒に住まない(・・・・)?いい加減にさぁ」



 と言うものの所畝ましと置かれた本、本、本。いくら紙媒体が好きだからって、読む時間なんて無いのに勿体ない……まぁどうせ買って満足(・・)なんだろうけど。



 「――そうだな。そろそろ時期(・・)かもな」


 「そうだよ!もう別々に住むメリットも無いし。それとさ、この読まない、使わない《物達》も片付けようか?私が来ても物は大して増えない(・・・・)けどさぁ……邪魔っちゃぁ邪魔だよ!一年で一度も使わなかった物はこの先も使わない可能性大だよ!」


 炬燵(こたつ)を中心にその周りにうず高く積まれ、やや埃を纏った物達を嫌味の様に軽く叩いた。隣に座る佐行は私に目を合わせずに渋々呟く。



 「――ん、まぁバーベナと一緒に住める……なら」


 「本当に?信じて良い?せめて次からは《収集》は食材か生活用品で宜しく!私だって家事(・・)やるんだからさ!(いず)れ使う物なら損した気分にならないしね」


 「――努力します。ところで今日も家から一歩も出ないのか?今日位は何処か行かないか?もうウチに来て三日目だぞ」


 生春巻きを頬張り私は少し思考を巡らせる。初売りは物が増えるし特に欲しい物は無いから却下。初詣はそもそも信仰とかしてないし《魔女》だから取り敢えず却下。後は……家でイチャイチャラブラブしかない、承認!


 「あー今日も家が良い。外出るなら食糧確保の為だけで良いです。休みは後は三日も残っているからゆっくり行こうではないか!」


 「今日も《引き籠り》かよ!折角の正月休みなんだからっ――――」


 食事中にも関わらず、隣の佐行の膝元に倒れ込み天を見つめた。佐行は『何ヤってんだ』と不思議そうに覗き込む。私は不意打ちにと口付け(キス)をした。


 「――ちょっ……お前……」


 相変わらず私は上手く表情は作れない。作れないが今の自分なりに笑顔を作ってみた。


 「んふ。嫌だった(・・・・)?なんか悪戯したくなっちゃった……ねぇ?」


 「悪戯って……でも前より少しずつ《笑え》てるな。バーベナ可愛いよ」


 私の癖っ毛の頭を優しく撫でる。時折、指に髪を絡ませる。ウェーブのかかった髪が指を温もりを求めるかの様に纏わり付く。私はまるで子猫のみたいに優しくゆっくりと身を寄せる。


 「ふん!可愛いのは当然だよ!なんせまだ若いからねっ」



 何時までもこんな《日常》の中で過ごしたいと切に願う。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 正月休みも終わり私達はまた、非日常へと戻される。年末の一件以来、魔女に関する事件等も無く平和な日々を送る。そんな一月も中頃を過ぎ、そろそろカレンダーも翌月を意識しだした頃に思いも寄らない話が舞い込んできた。



 「ねぇねぇ【ニコちん】ここのこれどう書けば良いかなぁ?さっき課長に提出したら『意味不明』って言われてさぁ……」


 私に教えを乞うのは女性事務員の【ペイン】。事務員として長い筈なのに、毎回と言って良いほど書類の《ダメ出し》を食らう。その度に私の所に泣きついてくる年上の《駄姉ちゃん》だ。 


 「――ん。なんだこりゃ……酷い……酷すぎる。何時になったらまともに書ける様になるんだよ!駄姉ちゃんよ……」


 頭が痛くなる程の駄目っぷりに今回も頭を抱える。これでいて良く《首切り》に成らないものだと常々、私は別の意味で敬意を払う。


 「だって私は《脳筋》だし許してちょ!」


 「てかペイン(あんた)それ自分で言う?言っちゃうわけ?少しは努力しな――」


 呆れてツッコミを入れるもそれを遮る音が鳴る。



 ギィィギギギッギギィィ



 相変わらず五月蝿い扉が開く音。


 耳を《つんざく》音と共に現れたのは私の大っ嫌いなアイツの姿がひょっこりと現れた。



 「あけおめぇ~ことよろぉ~過ぎたけど!皆の英雄(・・)事、【隊長】さんのお出ましだよぉ」


 あぁ私の大嫌いな……【捕獲部隊】の【隊長】が飄々とした面持ちで現れ私は一気に不機嫌になる。


 「あっれぇ?珍しいお客様じゃないですか!って事は対策執務室(ウチ)にお仕事の依頼ですかな?って今年も宜しくお願いします!」


 ペインもペインで隊長(ヤツ)のノリに合わせて話し出す。


 「んーまぁね。一応、昨日の内に《課長》には連絡しといんだけどね。君達がその感じじゃ聞いてないね。あの課長(オヤジ)相変わらずだねぇ」


 「聞いてないし何でまたアンタなんかから――」


 「いやねぇ今回はどぉしても二人(・・)の力が必要でねぇ。そう君達二人の」


 両手の人差し指を立て、今話した事を強調するかの様に私達二人に突き刺す。


 「えっ!私も今回は現場に行って良いんですか?やっったぁぁぁ!」


 ペインは思いっきりしゃがみ、しゃがんだと思ったら勢い良く立ち上がり、天井を貫いてしまう位に両手を掲げ大いに喜んだ。


 「――【大佐】は大佐も行くんだよね?」


 私の質問に無言で隊長は首を左右に振った。


 「じゃぁ私は降りる(パス)。私は大佐となら能力をフルに発揮できる。隊長(アンタ)とじゃ一割も発揮なんて出来やしない……」


 「なぁに言ってんだぁこの雌餓鬼(メスガキ)がぁ!俺の凄さわからせたるぞ!コノヤロォ!!現場行くぞ!今すぐ現場に!」


 バカ対バカの口喧嘩に上機嫌のペインが口を開く。


 「まぁまぁ二人とも落ち着いて下さいな。大佐が居なくても《無双のペイン》ちゃんが居るから大丈夫ですよ!ニコちんの力だって全快で引き出して上げますって!」


 駄目だコイツ……久しぶりに現場に行けるからって浮かれてる。


 ペインは一応、事務員として部署に在籍しているが、余程人手が足りない際は駆り出される事も屡々(しばしば)ある。


 そしてこのペイン無茶苦茶な奴で、そもそも【魔女(ヘクセ)】でも無いのにも関わらず、過去に上げた武功は数知れず……。元々は自衛官だったらしくウチの課長が、私が此処に来る数年前に引き抜いて来たと聞く。


 「で今回は如何なもんで?」


 ノリノリのペインは隊長の顔をまじまじと見上げ聞く。


 「んぁ今回は《捕獲》じゃねぇんだよ。《殺害》しろとの上からの指示だ。だから攻撃手(アタッカー)にペイン、隠し玉(とっておき)雌餓鬼(ニコ)が必要との判断でな」


 殺害?それはかなりの特例(イレギュラー)。本来なら捕獲が殆んどで、万が一に戦闘で相手を殺害してしまう事も無い事も無いのだが、最初から《殺害命令》なんて、私は初めての経験だ。


 「殺害って上層部は相当に焦ってない?なかなか無いよこんな事は!私だってそれなりに長い事、狩ってるけどさ」


 「余り深入り詮索はするな。言われた事だけやってろ。当たり前だが長生き(・・・)できねぇぞ」


 ふざけた態度ばかりの隊長だったが、この時ばかりは神妙な面持ちでそう吐き捨てた。


 「一応、明日の朝9時に迎えに来るから各自ちゃぁんと用意しとけよ!後ニコお前は【アレ】はもって来るな!アレだけは俺じゃ対処しきれねぇ。万が一の事にでもなったら取り返しがつかん。それと回数(・・)は常にマックを維持しておけ!俺の指示以外で勝手に使うなよ」


 「回数までアンタの指示?アレも使用禁止?」


 「あぁそれも上層部の指示だ(・・・)。特にアレの使用は厳禁!この前も勝手に使ったろ?」


 (なんかやりづらいな。まるで操り人形じゃない。ペインは喜んでるけど……【佐行】……私大丈夫かな?)



 「話を戻すけど今回の相手って一体何者なの?」


 「そうだったな……実は俺も余り乗り気じゃない……」


 強気な【俺様系】の隊長らしからぬ言動に不穏を感じる。嫌な予感が全身を駆け巡る。



 「あーアレだアレ!」



 「世界的な犯罪組織【魔女の祝祭(ヴァルプルギス)】の一人を狩り殺す」


 それを聞いた瞬間、私の血の気が引いた。何か嫌な予感がする……いや予感では無い。


 確信だ。


 私の【目的本能(ほんのう)】がそう告げる。

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