第11話 episode:3 檜扇コノハ 不良は儚い夢を見た① 【佐行視点】
今回エピソードは大佐こと【佐行】視点の主人公回になります。
「――しつけぇ野郎だな!――ったく、なんだよさっきから……アンタは。警察か刑事かテメェは!」
俺の目の前には、如何にもなステレオタイプの『不良やってイキッてます』と言わんばかりに啖呵を切る若者。
人目を憚らずに喚き、騒ぎ立てている。
俺等を避ける様に、視界の端で捉え、何食わぬ顔で通り過ぎる人達……まぁ当たり前だよなと。
そもそもの事の発端は、俺が昼間出先から戻ってきた正午にまで遡る――――。
■□■□
――数時間前
「只今、戻りました。って今日は課長しか居ないんだっけ……」
「お疲れ様~おかえり。佐行君すまなかったね。微妙な案件をお願いしちゃって」
「いや良いですよ。直ぐに終わりましたし。今日は女性陣は不在か……ウチもそろそろ人員増やしません?机は沢山有るのに人手が足りな過ぎじゃないですか」
「そうなんだよねぇ。"上"にも取り合ってるんだが、中々に聞き入れてくれなくて……せめて後2、3人は欲しいと、私だって思ってるよ。私が言うのも何だがね、最近は事務のペインまでニコちゃんと一緒に現場行ってる位だもんねぇ」
「一応は考えてはいたんですね!」
「君まで私を馬鹿にしてぇ!私だって一応は管理職だよ!自分の部下の事だって、部内の業務進行だってちゃんと考えてはいるよぉ!ただ日がな一日、座ってるだけじゃないんだからさぁ」
「ははっ……すいません!」
「そうそう!ぶっちゃけ今日は、もう暇だろ?ならさぁもう一つだけ頼まれてくれないかな?特別に昼食代は出すからさぁ」
課長は申し訳なさそうにして、一枚の写真を手渡してきた。
「ん?不良?男?それとも女か?中性的過ぎて……わかんないな。で課長、コイツをどうしろと?やっぱり魔女ですか?……結構若いな」
「あぁそうだ。そこそこに若い"魔女"だね。檜扇コノハ、年齢は二十歳。大抵、何時も東国天夜の西口付近でたむろしてるみたいだから、直ぐに見つけられると思うから……」
金髪に染め上げ左頭側をサイドポニーテール。一重でつり上がった両目。左耳にはピアスが三個……手元の写真に写る人物。
渡された写真を瞬時に自身の特異特質の効果で格納した。
「んー相変わらず便利な能力だねぇ。流石は歩く"倉庫"と言われるだけあるね」
「ちょっと課長それは止めてくださいよ!ペインが馬鹿にして言い始めたんですからね」
「気にしてた?ごめんごめん!……はい、じゃぁこれで何か好きなもの食べて、"対象"への接近と捕獲よろしくね!でも無理はしなくて良いからね~無理だったらそれはそれで良いからね~」
クルクルと器用にペンを指先で回しながら、少々無責任で興味がそれた様なトーンで俺に伝える。
俺は一抹の不安と不信感を抱く。
魔女相手にそんな緩い事で良いのか?取り逃がしが許される?それに目的は一体何なのか……?
「因みに佐行君、今回の魔女の"能力"だがね、"風"を操るらしいよ。切り傷に十分気をつけてね!それじゃよろしくね」
課長はそうとだけ言うと、モニターと書類とにらめっこを始め、カタカタと世話しなくタイピング音を室内に響かせた。
「――じゃ行ってきますわ!なんか有ったら直ぐに連絡しますんで――」
そうとだけ言うと、俺は執務室を後に自分の車の元へと向かった。
(相変わらず適当な人だ……本当に。しかも色々と曖昧過ぎるし、失敗が端っから許されるなんて……絶対に有り得ん。こりゃ"正規"の仕事じゃないな。きっと何時もの課長の独断専行だな。俺が断った所で結局は、あの手この手で押し付けられるんだ……素直に"こなした"方が時間が無駄にならないからな。それにどうせ初めから"そうするつもり"だったんだろうし……)
溜め息混じりに煙草を咥え、火を灯す。
束の間の安らぎ。現実との繋がり。
ひと吸い、ひと吸いが愛おしくさえ感じる。
隊長もそうであったなと、思い返す。
車が走り出せばまた、"非現実の世界"へと足を踏み入れる事になる――。
「さてと……行くか。狸小路親父の御使いに!」
雑に灰皿に煙草を押し込む。
スターターを押し車に命を吹き込み、ゆっくりと車は走り出す。
何事もなく、無事に終わる事を切に願いながら。
■□■□
――そして現在
「本当に課長の言った通りだ。あっさり見つかった……分かり易すぎだろ」
俺は課長の言った通りの"場所"へ足を運ぶと、渡された写真の人物を視界に確認した。
運が良いのか当の本人しかそこにはおらず、絶好の機会である。
俺の僕の秘密基地を使えば簡単に"捕獲"が出来る。
しかし、少々のデメリットが有る。
俺の特異特質は、有機・無機物を任意に"とある場所"へ転移でき引き出す事が出来る。
ただし、転移させる"物"には"大きさ"と"重量"に限定条件が存在してしまっている。
大きさは"俺の身長まで"即ち、185センチまでの大きさ。円柱で例えるならば長さ185センチ、直径は70センチ迄は対応出来る事は確認済みだ。
重量は俺の体重の7割程までになる。現在、俺は95キロ……無論、身長体重の増減により出来る幅も変わってくる。
そして、デメリットと言うのが大きければ大きい程、重ければ重い程に転送、引き出し時間が変わってくる。
俺が試して来た結果、最大時で12秒程掛かってしまう。手頃な拳銃やナイフなんかはほぼ一瞬で出来るのだが……目標は目算でも170センチ位、体重は50キロ程だろう。
転送には6~9秒は掛かりそうだ。
(さて……不意を突こうにもこの数秒をどう堪えるかが要だな……いっその事、腕を掴んで連れ出すフリか。でも人目がヤバイか……どうするよ俺。そうだ!"アレ"で行こう)
俺はフラフラと歩き、体調の悪い"フリ"をして目標へと近付いた。
「うぅ……き……気持ちが悪い……」
我ながら下手な大根役者だなと思うも、目標まで後数歩の所まで近付いた。
「オイ!オッサン!そんな下手クソな演技でもして、俺から財布でも盗むしようってか?」
さっきまで俺なんかに目もくれず、スマホを弄っていた奴が鋭い眼光で此方を視認した。
「うぅ……そんなんじゃ……本当に気持ちがわ――」
目標は『はぁ』と溜め息をつき、次の瞬間、俺の水月に鈍い痛みが走った。
「ほら?これで本当に気持ち悪くなっただろ?」
俺は不意の痛みに耐え兼ね膝を着いた。周囲の人々は何が起こったかは理解は出来ずに居るも、通り過ぎる様にチラリと見るだけだ。
世間は冷たいな……と。
しかし、今は変に他者の介入があっては困る。目標を取り逃がしてしまう可能性があるからだ。
後で思えば今すぐに目標を捕獲せずに、人気の無い所で独りになった瞬間まで待てば良かったのにと。
当時の俺は計画性が無かったと、少し後悔し呆れた。数多の経験をしてきた筈の俺の失態……バーベナに知られたら当分は格好の"ネタ"として弄られるな……と。
「いってぇ……話と違うじゃねぇかよ……課長ぉ」
「アンタそんなに体格良いのに意外と弱いなぁ。張りぼてかぁ?」
「んなぁ事はねぇよ。ねぇけど……急所の不意打ちは流石にキツイぞ!」
確かに俺は生半可な鍛え方はしていない。これでも"外人部隊"にも居たし、他にも色々な戦場を流れ流れ生きていたんだ。肉体は嫌と言う程、痛め付けてきた。
しかし高々、急所へ一発の打撃だけで、俺が膝を着くなんて初めての経験だ。
悔しいが"檜扇"の特異特質が単純に強かったと言うまでの事。
「負け惜しみかぁ?不意打ち、騙し討ち、勝てば官軍。結果が全てだろ?そこに至る過程なんてどうでも良い事さ」
「ちっ!不良のクセに難しい言葉使いやがって……」
俺は少しよた付きながら立ち上がると、皮肉を込めてそう言った。
「一発食らったのは気に食わないが……俺はこんな事してる場合じゃないんでな……単刀直入に言う。俺に着いて来い!」
「やなこったね。素性もわかんねぇヤツに従う道理なんて無いね!」
「じゃぁ力ずくでもか?」
そして事は冒頭へと――。
「――はぁん?しつけぇ野郎だな!――ったく、なんだよさっきから……アンタは。警察か刑事かテメェは!」
「似て非なる職業って……とこかな」
「意味わかんねぇよ!」
「今は分からなくて良い。正直俺もお前を連れて行かなくちゃいけない理由も分からん」
「はぁ~??お前は馬鹿か?そんな事も聞かずに俺を……はぁん!誰の差し金か、俺も舐められたモンだな……」
檜扇はかなり呆れた様にして肩を力無く落とした。それは俺に対してか、はたまた依頼主に対してかは定かではない。
「どうする?来るか?別にその気が無いなら俺は構わんが……元々はどちらに転んでも良いと言われてるからな」
「なんだそりゃぁ!逆に気になるなぁ。お前に指示を出した無能を!」
クスクスと笑うと俺の肩に手を置きながら。
「なんか面白そうだから特別に行ってやっても良いぜ!どぉせ今日はバイトもねぇし、友達もこねぇからさっ!じゃっ馬鹿に会いに行こうぜ!」
(えっ?こうも簡単に?罠か?俺やられ損じゃねぇかよ!)
初めてこんなにも緩い……なんとも情けない任務遂行を俺は成し遂げようとしていた。
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