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第10話 白刃の戦場に謳う⑤

 激戦、死闘、数ある戦いの中で私は初めての"敗北"をした。

 

 目標の逃走と言う形で――――。


 「ちぃとばかし相手が悪かったなぁ。鈴鹿(アイツ)が居なければ俺達は大手を振って帰れたってぇのによぉ」


 隊長は悔しげに、しかし少し笑いながらそう言った。

 ペインは相変わらず目を覚まさない。隊長に抱えられたまま、とても超高級ホテルとは思えなくなった、荒れ果てたホテルのロビーを後にした……。


 「ねぇあの鈴鹿(すずか)って人、隊長の奥さんって本当?」


 私は不意に疑問を口にした。


 「んまぁ……そんなとこだ……」


 隊長はまごつきながら、部が悪そうに呟く。その表情はとても哀しく、寂しそうでもあった。


 「そう……なんだ。私……ごめんなさい。ダメだよね。他人の深いと所(プライベート)を詮索しちゃ……聞かなかった事に――」


 「いやまぁなんだ。お前とつるめば何れは知れる事だ。佐行(サユキ)だって知ってるさ。俺の身内が大犯罪組織に所属なんて、笑い話にもなんねぇだろ?」


 ペインを抱えたまま器用に、車の扉を開けながら隊長は苦笑いをする。


 「ふっ――。隊長……そんな表情(かお)出来るんだね。ビックリした」


 精々、今の私が言える事はそんなところ。先の戦い、出来事、私にとってはあまりにも多過ぎた"情報"。正直に言って私も精神的にかなり疲れていた。


 「オイオイ。俺だって家ぇ帰りやぁ二児の父親だぞ!"人間様"なんだちゃんとした"感情"はあるさね」


 そう……そうだ。隊長は私みたいに魔女(ヘクセ)でもペインみたいな戦闘狂(ベルセルク)でも無い。普通の人間(・・・・・)だ。


 「ごめんなさい。つい……だって何時も私を虐めるし、人間味有るところなんて一度も見た事無かったから……でもなんか安心した。これでも一応は、佐行の師匠だもんね!」


 「おうよ!短い間だがな。アイツはアイツで優秀な生徒だったよ。まぁお前らが恋仲になるとは驚いたけどなぁ」


 ペインを後部座席に寝かせると、煙草を咥え何時もの様に一息つく。


 「ふぅ。やっぱり失敗後の一服は不味いな……敗北の味は何時もゲロ吐きそうだ(・・・・・・・)


 「なら辞めたらいいじゃん!体に良くないし」


 「辞められるんなら当に辞めてるさぁ。……出来ないからまだ吸ってんだよ……馬鹿娘!」


 「ふふっ。何時もの隊長だ。少しは落ち着いた?」


 「馬鹿言え!テメェ何ぞに心配されてたまるかってぇんだよぉ!」


 私は助手席へと腰を下ろすと微笑んだ。


 「なぁに笑ってんだぁ?まぁた俺を馬鹿してるなぁ!」


 「違うよ!なんか嬉しいんだ。任務は大失敗だったし、ペインはこんなの状態だけどさ、今迄さ隊長とこんな風に話した事なんて無かったでしょ?それがなんか嬉しくて……それに私、また笑えたよ」


 私は今迄に心は笑っていても、表情(・・)だけが笑っていなかった。


 笑う表情が出来なかった。


 しかし、年末から少しずつそう言った事が出来るようになってきていたんだ。


 (私……取り戻した……のか)


 「あ……っ。そうだったな。そいだよなお前は……良かったじゃねぇか。アイツも喜ぶぜぇきっとな。さぁて(おかみ)に連絡しながらペインを病院に連れてくかぁ」


 車はゆっくりと走り出す。街は既に行き交う人が群れ、私は非日常から日常へと戻ってきたと確信する。


 私の視界に映る人々の大半は"魔女"なんて"都市伝説"と思っているだろう。


 もしかしたらそこで犬の散歩をしている老婆が"魔女"かもしれない。

 果ては世話しなく働くサラリーマン、テナントの窓越しに見えるショップ店員、路上でたむろしている金髪の不良少女かもしれない。


 何れにせよ、何処に魔女(奴等)は潜んでいるかはわからない。

 魔女(私達)は同族での共感(シンパシー)なんて便利なモノなんて持ち合わせて等いない。



 「――了解しましたぁ。じゃそう言う事で宜しくぅ~」


 物思いに(ふけ)ってる間に"上"との連絡が終わったようだ。

 私の耳には何も届かなかった。それは単純に"雑音"と言った方が正しい位に。


 まだ今日と言う日が始まってそれ程、時間も経っていない。朝から滅多に無い程の大仕事をしてきたのだし、私は特異特質(マイノリティ)も普段以上に発現させ満身創痍だから余計だ。


 「ねぇ隊長ぉ~少し、少しだけ寝ても良い?私……疲れ……」



 私の記憶はそこで途絶えた。




■□■□


 「――……きろ!起きろよぉニコ!馬鹿娘!着いたぞ!年上に運転させた挙げ句、仕事中に眠るな馬鹿垂れ!」


 「ふぁ?……あっ。ごめんなさい……ついうっかりって事で」


 「何がうっかりだよ馬鹿!ほれ、先ずはペインを看て貰うぞ!ほれ手伝え小娘」


 眠い目を擦りながら車から降りる。それ程、長時間乗っていた訳ではないが体が思いの外に強張っていた。固まる身体を一気に解放する様にして身体を伸ばす。

 心地が良い――背伸びが気持ちいい。


 「あぁ此処へは久しぶりだなぁ~。何時来ても病院と言うよりは、"研究所"だよねぇ」


 「減らず口はいいから行くぞ。今日はまだやる事が一杯(いっぺぇ)有るんだからなぁ!」


 目の前に広がる、無機質で白塗りの建物群。これ等は"某製薬会社の研究施設"であり、私達は通称"病院"と呼んではいるが、似て非なる場所。


 日本国が、秘密裏に提携、契約を交わし"対魔女の協力者"の一端である。


 「さぁて、蛇と出るかなんとやら~流石にペインにゃ目ぇ覚まして貰わねぇといけねぇが……」


 「ねぇ本当に平気かなペイン?一応、傷は私の特異特質で治しはしたけどさぁ……」


 「今は教えらんねぇがペインは造りが違う(・・・・・)からな。まぁ専門家に看て貰うのが一番だ。ほれ急げぇ」


 (この人なんで私よりも詳しいの?ペインの素性まで知ってる様な感じ……本当に何者!?)


 私達はある建物の中へと迷い無く進む。

 受付等存在しない。

 此処は町医者なんかでは無いから。



 隊長の後を付け着いた先の部屋は、恐ろしく寂しい場所だった。


 サイコ映画に出てくる様な、部屋一面真っ白で、部屋に有る家具はシンプルなパイプベットただ一つと、テンプレ染みた部屋。


「急にですまないがペイン(コイツ)を宜しく頼む!ちょっと急がないといけないんでな……何か有ったら"対執"の課長(オヤジ)に宜しく頼むな!」


 隊長は部屋に居た"研究員"らしき男性にそう話ながらペインをベッドへと寝かす。

 

 「あっ!それとペイン(ソイツ)持ち物(武器)は取り敢えず取り除いたが、まだ出てきたら保管宜しくぅ!」


 それを聞くと男性は軽く頷き、それを確認するや足早に隊長は私達を引き連れ部屋を退出した。


 「なんか恐ろしい程に手慣れてない?……隊長」


 「んーまぁ俺も色々(・・)やって来たからな~ベテランってヤツだ……。さぁて、次は"対執"に帰るぞぉ~書類が俺等を待ってるぜぇ(・・・・・・)



 私は建物を出る時に聞こえた気がした。




 それはホテルで……ペインが戦いながら"謳っていた"あの讃美歌が――――。



 まるで私達を見送るかの様にして。


 




 ―― episode:2 魔女の祝祭

続きが気になる、面白いかも等、思って頂けたらブックマークや評価等、宜しくお願い致します。今後の励み、活力になります。

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