第3話 「ブラック」との邂逅
翌日、荷物をまとめた僕は「ブラック」騎士団寮へと向かった。
寮の玄関を出て思いっきり深呼吸をする。
僕は、「レッド」を諦めたわけじゃない。
きっと「ブラック」で活躍すれば「レッド」に移動出来る。
そんなことを考えながら歩いていると、違和感を覚えた。
異様に人が少ないのだ。
確か僕らの代は350人ほど在籍しており、各騎士団(「イエロー」を除く)に同じ人数割り振られる。なので「ブラック」には80人強は入るハズだ。
しかし今この道で同じ方向に向かっているのは十人いるかどうか。
先に行っている人や、後から来る人も当然いるだろうが、いくらなんでも少なすぎる。
一抹の不安を抱えながらやたら長い気がする道を歩いて行った。
「ブラック」騎士団寮に着くと思っていたよりも綺麗だった。建物自体は古いながらも掃除が行き届いており、「ブラック」のイメージと合っていなかった。
もちろん良いことなのだが、何でこんなにも綺麗なんだろう?
「思ってたよりも綺麗だな」
お、同じことを考えている人がいる。
「やることが他にねぇんだろ」
・・・ウソだろ
今、ものすごい不安ができた。
活躍する以前に掃除しかしないのでは?
いや、いくら何でも仕事ぐらい・・・あるよね?
将来設計の根幹が崩れそうなことに戦々恐々としながら騎士団側の指示を待っていると異様にゴツい大男ができた。
「皆、よく集まってくれた。私が騎士団団長のグランツである」
あれ、ファミリーネームが無い。ってことは平民!?
いや、ちょっと待て、これで全員?
80人どころか30人いるかどうか。
「今ここにいない者は全員昨夜のうちに辞退届けを出したものである。奴らが復帰することは無い」
えー、あー、うん。
そっか。50人夢諦めたか。そか。
ヤベェだろ、「ブラック」!
50人の騎士学園卒業生を諦めさせるって!
いや、これは「ブラック」は悪くないかもしれないけど。
ほら、団長の隣のほっそい人めっちゃ悲しそうだよ!?
あーもう、将来に不安しかない。
「我が『ブラック』騎士団の主な仕事は他の騎士団の雑用である。表立って目立つことは全くない」
わー。将来設計木っ端微塵。
「故にこの場に集まったものには大いなる感謝を。そして共に研鑽していこうぞ!」
あの人声低いのにめっちゃ通るなー。
魔法でも使っているのかな?
そんな下らないことを考えているうちに隣のほっそい人が話す番になった。
「えー、副団長のアルレンツです。どうぞよろしゅう」
あ、あの人副団長だったんだ〜。
てかまたファミリーネームないし。
この訛りは西部か?
「皆さんが今見た通り、この騎士団は人気があらへん。でも皆仲の良い騎士団なので、どうか続けて欲しいと思います。」
まばらな拍手が起こり、新入団員の部屋へ案内されることになった。
玄関やここは綺麗だったが、部屋はどうなんだろ?
少し不安になりながらやたらガタイの良い団員さんについて行くと4人部屋に着いた。同室の子1人しかいないけど。
その部屋は・・・とても綺麗だった。
「なんか、イメージと違う」
同じ部屋に案内された背の高い子がボソッと呟く。
この子とは仲良くなれそう。
荷解きしてあらかた片付くと親睦会を兼ねた昼食会に呼ばれた。
この国では普段は各騎士団で自炊を行う。
そしてここの昼食はめっちゃ美味しかった。
何なんこの騎士団。掃除に料理が完璧って。
家事にステータス振りすぎだろ。
一通り食べ終えると、また副団長の話になった。
「皆ご飯美味しかったか?」
「めっちゃうまかったです」の合唱。
てか言ってるのほぼ団員だな。
「そらよかったわ。ウチが丹精込めてつくっとったからうれしいわ」
あ、副団長か、めっちゃ料理上手なの。
「部屋も大丈夫やったか?すまんのぅ、ウチは財政難でろくに部屋数確保でけへんのや。まぁ、ほとんど準備してもこんかったけどな」
悲しい。準備したのに来ないのは悲しいよなー。
「まあ、そのうち1人1部屋になるやろ」
分配してくれるらしい。ありがてぇ。けど同室の子と話してからが良いなー。
「ま、そんなわけで午後からは軽ーくウチらの訓練に参加してもらうさかい鍛練用の服着たら運動場に出てくんさい」
「ブラック」の訓練、どの程度なのか見させてもらえる良い機会だ。
僕は出来るだけ早く片付けを終え、運動場へと急いだ。
この時に僕は気付くべきだった。
引き攣った団員たちの顔に。