第2話 最悪の卒業式での出来事
ヒロイン(仮)登場です。
その後の2週間は地獄だった。
僕は周りのくすくすという吐き気がするような笑い声に耐え、ただひたすら時間が過ぎるのを待っていた。
休憩時間にはジルフィードがこちらを指差して仲間内で下品な笑い声をあげていた。
何が貴族だ。どこも貴くないじゃないか。
人をバカにして何が楽しいのか。
それにジルフィードが「レッド」なのが信じがたい。あいつの実呂は上位30位に入れるようなものではない。自分の親の地位を悪用しているだけなのだから。
この学園において順位は3ヶ月に一回行われる剣術大会によって決められる。
しかし奴、ジルフィードは親が伯爵であることを理由に相手を脅し、八百長しているため、第23位という不相応の順位になったのだ。
そんなわけで、奴が「レッド」なのは明らかにおかしく、納得のできないものであった。
一日が終わり、学園寮に帰ったあともあちこちで笑い声が聞こえ、中庭で鍛錬していても何かしらちょっかいをかけられる。
この前なんかはタオルが切り刻まれていた。奴ら、暇らしい。
1日1日がやたら長く、辛かった。
そんな一週間を過ごし、やっと迎えた卒業式の日。
これさえ終わればこんなクソ貴族どもと毎日顔を合わせずに済む。
そう考えると少し気が楽になった。
少し明るい気持ちで式場へ向かうと、玄関の前でジルフィードのグループが待ち構えていた。大方、僕をバカにしたいのだろう。わざわざご苦労なことだ。
「おい、平民!第9位なのに『ブラック』なんだってな!ダッセェ!」
ジルフィードの取り巻きの1人が言う。
「口を慎め?『ブラック』だって立派な騎士だぞ?ザコしか相手にせず、やる仕事といえば鍛錬ぐらいの暇人のあつまりとはいえ。」
皮肉るようにジルフィードが言う。
奴らが笑っている間に無視して通った。
後ろから、「平民のくせにでしゃばるからそうなるんだよ!この脱落者!」という声が聞こえた。脱落者という響きに吐き気を覚える。
心を落ち着け、会場の席に座ると、様々な感情のこもった視線を感じた。
同情や哀れみ、バカにするようなものだ。
酷く気分が悪いのを我慢しながら式が終わるのを待った。
証書を受け取り、学園長の話になった。
「卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。当学園ではーーー」
聞き流していると、急に学園長がこちらを向いて気持ちの悪い笑みを浮かべた。
嫌な予感がする。
「今年度の卒業生からは上位10位以内の者が1名脱落するという事が起きました。この件は誠に残念なことでーーー」
僕は悟った。この学園自体がクソなんだと。
ニヤニヤしながらこちらを見る奴らを無視していると、卒業生を代表して第1位の、セシルティ・フォン・グランベルグが壇上に現れた。彼女は公爵令嬢で、この学園ぶっちぎりの実力を持つ。そんな彼女は開口一番、「私は、今日この学園を卒業出来ることを嬉しく思います。何故なら、この学園は腐っているからです。」
ぶち込んできたあのお嬢!
周りの奴らのびっくりした顔を見て少しスッキリした。
その後も彼女の皮肉スピーチは続き、学園長がこれ以上どうにもならんだろってぐらい青ざめたあたりでそのスピーチは終わった。
その後、とても静かに式が終わった。
セシルティ様様だ。とてもスッキリした気持ちで式場から立ち去り、学園寮へ帰ると、また奴らがいた。ジルフィード一味だ。
「セシルティ嬢のスピーチでいい気になるなよぉ?お前は脱落者にかわりないんだからぁ」
いつにも増して語尾がキモい。明日は騎士団の入団式なのに寮を出る準備は終わったのだろうか。
「そうだそうだ!お前なんかジルフィード様にかかれば瞬殺なんだからな?」
取り巻きの1人、あいつはダメだ。
普段の鍛錬を見ていればあいつの実力程度分かるだろ。
あ、最近はそもそも鍛錬自体サボっているから新しく取り巻きになった奴は知らんのかな?ジルフィードの実力。
「ん、あぁ。まぁ、私にかかればお前なんて瞬殺よぉ」
あいつ、焦ってんのか何なのか知らんけどオネエ言葉になってる。
思わず吹き出すと奴の取り巻きは急にキレ出した。
「何なんだお前はっ!中庭に出ろ!決闘だ!」
「いえ、結構です。」
アイツの相手をすると親の権力を盾に脅してくるからな。
できれば相手したくない。
「ほら見ろ、怖いんだ!自分の弱さがバレるのが!この脱落者め!」
もう今までの出来事で耐性ができたのか、すごく冷静に会話ができる。が、悔しいものは悔しい。
いつか、対等な立場になったらボコボコにしてやる!
そう思いながら部屋に戻り、明日に備えて早めに寝た。