第1話 運命の試験
ホールの方から人をバカにするような、気分が悪くなる笑い声を聞きながら、僕は寮のベッドで声を押し殺し、涙をこぼしていた。
数日前ーーー
僕は5つの騎士団の団長、副団長の前に立っていた。
今から僕はこの人たちの前で簡単な自己紹介をし、試験官と模擬戦を行う。
各騎士団に、「自分はこのくらい戦えますよ」とアピールし、指名してもらうためだ。
目指すのは勿論「レッド」。
その為に僕はこの5年間頑張ってきたのだから。
「王立棋士学園第9位ハルト!乗り物酔いは無し!武器はロングソード、特技は盾を使い攻撃を流すことです!」
自己紹介で乗り物酔いの有無を言うのは「ブルー」の仕事が船上で主に行われるためである。
その後、試験官との模擬戦が始まった。
試験官は現役の騎士が務めるため、先攻は必ず受験者からとなっている。
僕は相手の攻撃をいなしてカウンター気味に攻撃するのが主な戦闘スタイルなので、このルールは少しやりづらい。なので、最初の攻撃を相手が距離を取って避けるように、浅く横薙ぎにした。
こっちの考え通り試験官はバックステップでこちらの攻撃を避けた。
相手もロングソードを使っているので間合いは同じくらいなので、いかに相手に大振りの攻撃をさせるかが重要となる。
しかし、相手は中々踏み込んだ攻撃をしてこないので、お互いに決定打に欠ける試合となった。
そろそろ試合を終えないと制限時間になってしまう。
僕はまだ自分の得意なパターンに持ち込めていない。
このまま終わってしまうのはまずい!
そう思い、相手の間合いに踏み込んだ瞬間、僕はやってしまったと思った。
相手の刃を潰したロングソードが迫ってきたからだ。盾で防ぐ間も無く、僕は気がついたら医務室にいた。
「もう少し休まなくて大丈夫かい?」
医務室のおばちゃんに心配されつつも僕は試験会場を後にした。
学園寮に着くと、僕は嗚咽を漏らしながらベッドに倒れ込んだ。
違う、僕ならもっと出来た!
焦りさえしなければ、もっとやれた!
試験時間が短いのが悪い。
そうだあと10分、いや5分長ければ僕が勝っていた!
そう考えつつも、本当は分かっていた。
全て自分のせいだと。
ただ、自分は悪くないと思いたいだけだと。
「僕は絶対、絶対に『レッド』に入るんだ・・・」
そう呟きながら何か、自分が救われるような事を探した。
「そうだ!各騎士団には学園在籍中の成績や記録が送られる!それを見てもらえれば僕なら『レッド』に入れる!」
そう考えると気が休まり、僕は疲れていたせいもありすぐに寝てしまった。
数日後ーーー
ついに今日は僕らが配属される騎士団が担任の口から発表される。
「それでは各々の配属先を発表する!」
クラスが静まり返り、全員が食い入るように担任の顔を見る。
「配属先が『レッド』の者!」
次々と名が呼ばれる。
僕がいる最上位クラスはこの学年の第1位〜第30位までがいるクラスのため、「レッド」になれるものが多い。
「第8位、アリーナ・フランツ!」
次だ、頼む呼ばれてくれっ!
「第10位、ーーーーーー」
頭の中が真っ白になる。しかし、悲劇はそこで終わらなかった。
「配属先が『ブラック』の者!第9位、ハルト!」
教室がざわめく。
それはそうだ。この学園が始まって以来、
最上位クラスからは「ブラック」は出ていない。僕は何も考えられず、気がついたら
教室には僕1人になり、夕日が街をオレンジに染めていた。僕は今起きたのが現実だと信じられなかった。信じたくなかった。
僕は学園寮に帰らず、街中を無我夢中で走り回った。
嘘だ嘘だ!そんなわけない!
僕が「ブラック」だなんて嘘だ!
そうだ、これは夢なんだ、きっと悪い夢だ!
しかし、いくら走っても夢から醒めず、
「これは夢ではない」と理解させられた。
涙を浮かべながら寮へ戻ると、
「おやおや、上位10位以内にも関わらず『ブラック』になったハルト殿ではないかぁ!」
わざわざ周りに聞こえるように大声で言ったのは第23位のジルフィード・コーバッツである。
「第23位である私でさえ入れた『レッド』
に入れず、『ブルー』や『ホワイト』どころか、『ブラック』になるなど、一体どういうことですかなぁ?」
奴の発言で寮内のホールにいた生徒全員がくすくすと笑う。
僕は悔しかったが、ジルフィードの言っている事に間違いはなく、反論できなかった。
そのまま黙って部屋に行こうとすると、ジルフィードが道を塞ぎ、
「まあまあ、試験でどんな事をしたら『ブラック』になってしまうのか、ここにいる後輩に教えてやってくれませんかねえ?」
厭らしい笑みを浮かべながらそう言ってきた。
僕はその顔面をぶん殴ってやりたかったが、仮にも相手は子爵の子なので、
平民の僕が殴ったりしたら家族にまで影響が及ぶ可能性が高い。
押し黙ったまま部屋まで行くと、ホールの方から大きな笑い声が聞こえてきた。
この寮には各学年の第30位以上の男子が生活している。しかし、ほとんど平民はおらず、居ても裕福な商会の息子ぐらいである。
なぜなら、ろくな教育を受けられない平民が、騎士学園に入るのはとても難しく、さらに上位に食い込むことはほとんどないからだ。
そのため、平民である僕が奴らより順位が高いのが気に食わないらしく、常に貴族どもの目の敵にされていた。
その憎き僕が「ブラック」に入ったのがよほど嬉しかったのか、バカ笑いは消灯時間ギリギリまで続いた。