第十二話 思ってたより展開が早い
女神の微笑。
「私を、あなた方のパーティに入れてくださいませんか?」
ギルド中が静まり返る中放たれたその一言は、広い建物の中で反響した。
暫く間があいてから、状況を理解できない様子のジャックが口を開く。
「は……はい?」
「だから、私はあなた方のパーティに入りたいのです。」
その言葉を皮切りに、ギルドは喧騒を取り戻した。みんなが俺たちを好奇の視線で見ているのは、おそらくこの女性の美貌によるものだろう。
スラリとした体に純白のドレスを着こなし、俺達を見つめている美女。整った顔に微笑をたたえたその姿は、まさにアニメやゲームに出てくるお姫様のようだ。それに加え何処か既視感がある綺麗な桃色の髪なんてそれはもう……。
…………。
「…すみません、ちょっといいですかお姉さん」
「はい、何でしょう?」
俺はギルドの隅で手招きする。そして、コツコツと音を立てて歩いてきた女に小声で話し掛けた。
(おいてめえ、ここで何やってんだ)
(なんですか、もう気づいたんですか。勘がいいですねえ、タナカさん)
そう、アンリである。見た目だけは美少女なこいつだが、満面の笑みを見ているとすごい殴りたくなる。
(俺はなんでここにいるんだって聞いたんだが)
(いやーそれはですね、まあこちらとしても腹いせにしても少しやりすぎたかなあと思いまして。ていうか私の説明し忘れで片付いちゃいまして、仕方なくタナカさんのサポートをしろということになりまして)
やりすぎた、というのは俺のスキルの件だろう。つーかこいつ、スキルの説明しなかったのがわざとだって認めやがった。
(まあ責任とってくれるのなら許さんこともないが。サポートっていうのが、俺のパーティに入ることなのか?)
(この世界に降りてくる時に女神としての力の大半は失いましたけどね。でも、それを差し引いても私、結構強いんですよ)
アンリによると、天界に住まう者たちは元はただの人間で。称えるべき偉業を達成した人間のみが、神になれるのだという。
(私は『すべての魔法を覚える』事によって神になったので、神力を失っても全ての魔法が使えるんです)
(なるほど。…お前って、すごかったんだな。知らなかった)
(まあ神ですし? ていうか、強さも知力も何もかもコウジさんより上なので、タメ口きかれる筋合いもないんですよねー。まあ、特別にアンリ様って呼ぶ事を許可しても)
俺は、アンリの髪を思い切り引っ張った。
(いだだだだだ、ちょ、やめてやめて、ちぎれま、やめろっつってるでしょこの愚民が!)
(お、地が出たな? やっぱり敬語は演技だったか、無能女神が!)
(この……っ! 神罰食らわせてやる!)
俺達が喧嘩していると、ギルドの受付の女の子が。
「すみません…。他の方のご迷惑になりますので、外でやっていただけないでしょうか…?」
……。
「「す、すみませんでした……」」
ギルドのみんなの視線から逃れるように、俺達はギルドを出た。
ーーーーーー
「全く、お前のせいでギルドのみんなから白い目で見られたじゃないか」
ギルドから出て、スナック菓子をかじりながら街道をゆく。とりあえず、この女神がどれだけ役に立つのか確かめることにしたので。草原を目指し、歩いているわけだ。
「違いますぅー。あんたのせいですぅー。私は何も悪くありませんー」
「この野郎!」
俺とアンリがもみ合っていると、ジャックがげっそりした表情で言ってきた。
「コウジ、頼むからあまり問題は起こさないでくれ……。監督責任で俺も咎められてしまう……。」
「わ、分かった。だが、この件に関してはこいつが全面的に……」
俺が隣で影をパンチしている女神を指差して言うと、アンリが食って掛かってきた。
「だからあんたが悪いって言ってるでしょう!? 元はと言えばあんたが私の挨拶を笑ったから……」
「面白かったんだからしかたねーだろうが! お前こそこっちは命かかってるっつーのに! くだらねーことで無能スキル押し付けて強引に送り出しやがって、訴えたら百パー勝てんぞ!」
「二人共、あれを見ろ!」
ジャックの叫びに、アンリと俺は喧嘩をやめて指された方向を見た。
「「……えっ」」
こんな奴とハモるなんて最悪だよ! と叫びたい気分だが、そんなことを言ってられる状況ではない。洒落になっていないことにアンリも気づいたのか、懐から出した杖を構えた。
「グおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「くそ、なんでこんなところにあいつがっ!」
耳を劈くような叫び声が響く中、ジャックも焦ったような表情で武器を構えた。
城の上空を飛んでいた漆黒の龍は、高度を下げてこちらに迫ってきた。王都の中央の広場に着陸すると、背中に乗った騎士が降りてくる。
禍々しい漆黒の鎧を身にまとった漆黒の騎士は、静かな声で。
「勇者は何処だ」
……急すぎません?
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