第十話 はじめてのくえすと
なくしものって高確率で気のせいですよね。6割くらい。
「モンスターを狩ろう」
「いやです」
武器も買って、防具も買って。やっと勇者らしい見た目になったので、冒険者ギルドにやってきていた俺達だったのだが。
「お前は……。何のためにここに来たんだ?」
「嫌だよ戦闘なんて。もっと楽に済むクエストないの?」
ただ今、ジャックの提案にごねていた。
「スライム討伐ならいいだろう?俺がいれば負けることはないし、実戦経験は必要だ」
「……スライムってどれくらい強いんだ?防具屋さんが言ってた限りでは雑魚みたいだが」
俺のステータスで敵う相手なのかは見極めたい。ゲームではザコモンだったが、命がかかっている以上はな……。
「スライム単体であれば、子供一人でも倒せるぞ。そのくらいの弱さだ」
「なるほど。おい、早くしろ。狩りに行くぞ」
準備を速攻で終わらせた俺に、ジャックは呆れ顔で。
「自分が倒せる相手だと知った瞬間調子に乗るな、まったく……。」
そう言って席を立ち、ギルドの受付まで行って何か話しているジャック。暫くして、こちらに戻って来た。
「クエストを受注してきた。スライム種10匹討伐の依頼だ」
「ああ。……ていうか、冒険者登録とかしなくていいの?」
「通常は必須だが、アレはあくまで身分を証明するためのものだ。お前の持っている王家の紋章が代わりになる。クエスト達成報告時に提示すればいい」
なるほど。そう言えば、身分証にもなるんだっけ。
「さあ行くぞ、討伐だ」
その一言に、俺達は新たな一歩を踏み出した……!
ーーーーーーーーーーーーーーー
……はずだったのだが。
「おおおおおおおおおおい! 助けてくれええええ!」
どうしてこうなった。
「そいつはスライムの変異種、ビッグスライムだー。状態異常攻撃を持っているから、触れたら3日は動けないぞー」
そう、俺は今めっちゃでかいスライムに追いかけられていた。
「見てないで助けろおおおおおお! こいつ、足速えんだよおおおおお!」
「すまん、今忙しい。自力でどうにかしてくれ」
そう言いながらサンドイッチを頬張るジャック。
チクショーあいつめえええええ!
俺がスライムを引きつけ、ジャックの方へ猛突進すると、ジャックは顔を強張らせて剣を抜いた。
「コウジ、おまええええ!」
「はははは、後は頼むぜ相棒!」
ジャックにでっかいスライムを押し付け、襲ってきたスライムに剣を当てつつ走る。
「ぴゅいいいいい!」
「コウジ、そいつはパフスライムだ!女性を好んで襲い、服を溶かす!」
ジャックがビッグスライムを相手取りながら叫んだ。
まじかよ、こいつ倒さないほうがいいんじゃね?
俺が同志の殺生をためらっていると、ジャックが叫んだ。
「極稀に男を襲う個体も存在する! 気をつけろよコウジ!」
俺はパフスライムを迷いなく切り捨てた。
「おいジャック、あと1体だ! 未だ終わらないのか?」
「すまんコウジ、少し手間取っている! いつもの得物ならすぐなんだが……。」
見れば、ジャックの装備は初めに背負っていた大剣ではなく、短剣だ。そう言えば、さっき武器屋で手入れを頼んでいたな。
「くそ、届かない!」
スライム種は肉体を持たない。そのため、核を破壊することで仕留めることができる。さっきジャックから教わったことだ。
ジャックの短剣では、ビッグスライムの巨体の中央まで届かない。なるほど、苦戦するわけだ。
「コウジ、武器を貸してくれ! 仕留めるっ!」
「分かった、ほらよ!」
俺が剣を投擲すると、ジャックがキャッチした。短刀を捨て、それを構える。正面に一突きし、難なく核を破壊する。
ぴゅーーーーと奇声を上げて溶けていくスライムが見えなくなると、ジャックは剣を下ろしこちらに渡した。
「よし、クエスト完了だな。まあまあよかったんじゃないか?」
「そうだな。お前がサンドイッチ食べてたこと以外はな」
「おっと、お前がビッグスライムを俺に押し付けて逃げようとしたこと以外は良かったかもな、ははははは!」
そんなことを話しながら街へ戻る俺たちだった。完。
……なんて言っちゃうくらい、俺の心は晴れ晴れしていた。
夕焼けを背に受けながら、俺達は前へ進む。おそらくまだまだ続くその道を、不本意ながらも踏み出すのだろう……そんな事を、考えながら。
「……おい、そういや短刀は?」
「……あ」
後日。借りていた短刀をなくしたジャックが、ボルグさんに謝りに行くのは、また別のお話である。
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