夜の仕事のシーン。。
私は、統合失調症という病気があります。
若い頃に発病し、長い間病気と向き合っています。
日々の生活の中で、不思議な体験をします。
自分の病気を見つめて、この小説を書きました。
これを読んでくれる人が、この病気のことを知ってもらえるといいなと思います。
夜は、その灯りを暫く見ていた。
通りかかると、何時も見てしまう。
何故なのかはわからない。
あの灯りの中で、どんな人が住んでいるのだろう。
夜は、そんなことを考えていた。
暫く見ていたけれど、また駅に向かって歩き出した。
空気が冷えているせいで、雲の無い空に、月が明るかった。
冬の気配は、日に日に強まっていく。
11月の終わりの寒さは、冷たい風が気持ち良くて、この時期が夜は好きだった。
坂を下りて行くと、郊外の小さな町はそこだけ明るかった。
車と人が行き交っている通りを渡って、駅に向かって行く。
夜は、家に帰る人達の流れに逆らって歩いた。
駅に着くと、エスカレーターがあるけれど、夜は階段をゆっくり上がる。
改札を抜けて、人の少ない街の中心に向かう方面のホームに下りる。
暫く待って、ホームに入って来た電車に乗る。
何時もの向かいのドア側に立ち、電車から見える風景を眺めていた。
電車は、都会の光の中へと向かって行き、夜を街へと運ぶ。
行き交う人を抜けて、駅前百貨店のショーウィンドウの前に立つ。
20時。
夜は、腕時計を見た。
薄い水色のダッフルコートを着て、グレーのカシミヤのマフラーを巻いて、ショーウィンドウの前で人を待っている。
5分程経つと、若い男が現れた。
「お疲れ様です」
夜に挨拶して、男は腕時計を見た。
「遅れてしすいません。前の現場が押してしまって」
「大丈夫ですよ。私も、今来たところです」
2人が話していると、女性が歩いて来た。
黒色のスキニーをブーツインして、同じ色のニットに赤色の大判のストールを巻いている。
「お疲れ様です。今日もよろしくね」
そう言って、にっこり笑った。
男と女性が話し出したので、夜は会釈して百貨店の従業員通用口に向かった。
従業員通用口の前で、訪問者記録に登録しているマネキン会社の名前を書いて、バッジを貰うと、百貨店の中へと入った。
営業時間を過ぎた店内は、静まり返っていて人が居ない分広く感じる。
女性に貰ったメモを見ながら、書いてある商品を集めていく。
百貨店に借りたカートを押しながら、1つ1つ丁寧に扱っていく。
12月のショーウィンドウは、1年で一番華やかだ。
そのディスプレイを作る11月の仕事が、夜は好きだった。
ショーウィンドウに戻ると、さっきの女性がショーウィンドウの中で、飾りつけの準備をしていた。
「お待たせしました。」
「メモした物はあった?」
「はい。ありました」
言葉少なに会話を交わすと、夜もショーウィンドウの中に入った。
ショーウィンドウの中は暖かく、薄着でも平気なくらいだった。
夜は、コートを脱ぐと青色のニットになった。
「仁科さんは、車ですか?」
夜が聞くと
「もうすぐ、帰って来ると思うわ」
と、女性は答えた。
「先に始めていましょうか」
そう言うと、作業に取りかかった。
厚紙で箱を作り、色取りどりのラッピングペーパーで包んでいく。
色んな色のリボンをかけて、プレゼントの箱を作っていく。
大小様々な大きさの、プレゼントの箱が出来上がる。
キラキラしたプレゼントの箱が、ショーウィンドウの硝子に反射して光っている。
2人で作業していると、仁科さんと呼ばれた男が、4人の男達を連れて戻って来た。
「お待たせしました」
そう言って、連れて来た男達に
「中へ搬入して下さい」
と言った。
仁科に呼ばれた男達は、4体のマネキンと、大きなクリスマスツリーを、ショーウィンドウの中に運び込んだ。
女性は、デザイン画を見ながら、マネキンに服を着せていった。
「梨花さん、何からしましょうか?」
夜が聞くと
「ツリーをお願い」
と言った。
脚立に登り、クリスマスツリーの一番上に、金色に輝く星を飾る。
上から順番に、色取りどりのオーナメントを飾っていく。
ラッピングした、プレゼントの箱を飾る。
キラキラしたモールを巻き付けていく。
クリスマスツリーの下にも、プレゼントの箱を沢山置いた。
飾りの付いていなかった、寂しいツリーが華やかになっていく。
「休憩してね」
梨花はそう言って、息を吐いた。
「はい。休憩頂きます」
夜はそう言うと、立ち上がった。
ショーウィンドウの外に出ると、息が白くなり途端に寒くなった。
夜はコートの前を閉じて、自動販売機に向かった。
自動販売機で、温かいココアを買うと、暫く手を温めた。
外からショーウィンドウを見ると、華やかなクリスマスが一足早く来たようだった。
「休憩頂きました」
夜がショーウィンドウに戻ると、梨花も一息ついた。
「どうぞ」
自動販売機で買った、温かいコーヒーを差し出すと、
「ありがとう。クリスマスはどうするの?」
と聞かれた。
「猫と過ごします」
そう答えると
「若いのに、味気ないわねぇ」
と言われた。
そうかな?と、夜は思った。
クリスマス時期の街は、華やか過ぎて、少し気後れがする。
街は賑わい、光の洪水のようで、寂しいのだ。
仁科が帰って来て
「終わりましたか?」
と言った。
「ええ。今、終わったところよ」
梨花はそう答えて
「さぁ、終わりにしましょうか」
と言って、立ち上がった。
仁科は、ショーウィンドウの外から写真を撮って
「オッケーです」
と言った。
仁科が電源を切って、鍵を閉める。
3人がショーウィンドウの外に出ると、冷たい風が吹いた。
「冷えるわね。やっぱり11月も終わりね」
と、梨花が言った。
「もう、クリスマス時期ですもんね」
仁科がそう言った。
「じゃあ、私はここで」
そう言うと、梨花は手を振って、人波に消えた。
主人公も、病気にかかっている女性も、私のある一面を描いています。
私の病気は、患者1人1人違います。
この小説は、ある精神病の人に起こった出来事を、こんな出会いがあったらいいなと思い、願いを込めて書きました。