桜山周子の答え
気がつくと自分たちは駿河台下交差点の横断歩道の上に放り出されていた。
雑踏を行く通行人が、心配そうに自分たちを見る。
幸い、青信号だったようだ。
「なになに事故?」
「救急車、呼んだ方がいいんじゃない?」
「大丈夫でーす!劇団です!プロモーションビデオの撮影です!」
白秋が機転を効かせて叫んでいた。騒ぎにならなくて済んだ。
千夏は服についた土埃を払っている。
冬樹も何事もなかったようにシャンと立っている。
みんな無事だ。
周子は?
周子だけが横断歩道の上に倒れていた。青信号から赤信号へ変わろうとしている。このままだと轢かれてしまう。
自分は周子の身体を抱えて歩道まで運んだ。
周子の身体が重い。そう、もう仮想世界ではないので、イケメン妖怪としての力はない。
現実世界だ。自分ももとの不細工な顔に戻っていた。しかしそんなことどうだっていい。
「周子!周子!」
呼びかける。呼吸を確認する。息はあるようだ。
早く、起きてくれ。一緒に実験の成功を喜ぼう、周子。
周子はゆっくりと眼を開けた。
無事なようだ。良かった。
「……ここは?」
「周子、助かったんだ!仮説は成功したんだよ!自分も無事だった。
君を、信じてたから。ありがとう」
「……?しゅうこ?」
周子の様子がおかしい。
「わたし、倒れてたんでしょうか。助けていただいてありがとうございます」
まさか、記憶喪失か?
「春人!どうしたんだ?」
「周子がさっきのショックで記憶喪失になったのかもしれない」
「え?記憶喪失?」
「あ、おにいちゃん?」
冬樹を見た周子が、そう呟く。
冬樹は周子と眼を合わせた瞬間、なにかに気がついたように言葉を発した。
「美冬?」
「お兄ちゃん、どうしてここに?仕事は?あ、わたしも、か。あれ。なんで道路に倒れてたんだろ。山之内書房に戻らなきゃ」