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浅野白秋、榎元春人を取り戻す!【視点:浅野白秋】

  ヘンテコ世界で出会った友人、榎元春人が引きこもってから数日が経った。自然回復を待つこともできたが、俺、浅野白秋は待つことが苦手だ。なにか動いていないと落ち着かない。


「今日が木曜日でよかった」


  となりを歩く赤髪の女の子が楽しそうに言う。ヘンテコ世界で出会った猿渡千夏。


「仕事休みってサイコー!あたし6連勤、がんばった!」


  千夏ちゃんはうーん、と伸びをする。警戒されていたころはわからなかったけど、天真爛漫な子だ。


「俺もよかった!千夏チャンを誘えて。俺だけだと不安だからさ。もしかして、俺のこともう警戒してない?信頼してくれてる?」

「あなたが春人を本気で心配してたのはこの数日でイヤというほどわかった。私も春人が心配。

  あたしも心配。あなたも心配。しかたないから、仲間だと認めてあげる」

「惚れちゃったかんじ?」

「はあ?まさか!あなたなんか知り合いのスタートラインにやっと立ったところだよ?」



  これから、春人を救う作戦を決行する。

  あのヘンテコ世界で春人は攻撃を受けた。真後ろからモロに食らってしまったらしい。そして、春人はふさぎ込むようになってしまった。おそらく春人は精神攻撃を受けた。

  春人を治すには心療内科?カウンセリング?いろいろ考えた。千夏と俺が出した結論は、あのヘンテコ世界で治療するしかないってこと。

  毒をもって毒を制す。


「ね、千夏チャンはなんでそんなに春人のこと気にいったの?」

「理由?あなたとおんなじじゃない?」


  もったいぶるなあ、この子。

  俺は語る。


「俺は最初、妖怪の類だと思ったんだよね。でも、中身は純朴で素直だったからギャップ萌え?っていうのかな。いや違うかな。ウソがつけないタイプだと直感したからかなぁ。あのヘンテコ世界だと、敵か味方か見極めが必要だと思ってるから。現実世界だけだと友達にはならなかったかもね。たぶん春人の良さは見つけられなかったかな」

「ほら、やっぱりあたしと同じ!この人はウソつかないなと思った」

「千夏チャン、その点ずいぶん俺を警戒してたよね」

「それは正直いまも警戒してる。チャラい人ってあんまり信用できないんだ。でもあなたも春人と同じタイプな気がしてきた。まぬけなところが」


  ひどい。


  東部動物園駅に降りた。

「うーん!寒いね!あたし、動物園行きたいな」

「俺でよけば今度おともしますよ」

「それは遠慮しとく」


  春人宅に着いた。千夏がチャイムを鳴らす。

「こんにちは。わたくし猿渡と申しますが、春人のお見舞いにきました。春人くんいらっしゃいますか」


  返事はない。留守だろうか。

  春人には3日前から遊びに行くよと伝えている。既読はついていないけど。


「ちーす!春人、遊びにきたよん!開けてよ〜〜」


  やはり返事はない。

  試しにドアノブを回してみると、鍵が空いてる。おお!このご時世に物騒な!


  もう一度チャイムを鳴らして、声をかけたが返事はなかった。

「お邪魔します」

  ひとこと言って、玄関で靴を脱ぎ二階へ上がった。

「春人、入るぞ!」

  部屋を開けると、相変わらず薄暗い部屋のなかに春人がいた。カーテンを閉め切っていて、パソコンだけが明るい。


  春人はジャージ姿だった。抜け殻のようになっている春人に、その辺に置いてあったダウンジャケットを羽織らせる。


「おっ、も……!」

  春人をおんぶする。推定体重60kg。

  腰が砕けそうだ。


「春人、家の鍵持ってる?出かけるよ?」

  春人をおんぶしたまま、階段を降りて外に出る。春人が握っていた鍵で、千夏が施錠した。


  春人をおんぶしながら駅まで歩いた。しんどい。ヒザが割れそうだ。春人の大人用切符を買って電車に乗り込んだ。

「ハァーー、重かった!」

「おつかれ。魔法使えばよかったのに」

「千夏チャンの塩対応がひどい」


  千夏の塩対応に鉄のハートも悲しみを受けつつ、とりあえず抜け殻のようになった春人を座らせた。目的地はスカイツリー。


  おそらく3人でスカイツリーまで行けば、あのヘンテコ世界へ行くことができるはずだ。


「スカイツリー、あたし初めて」

  世間話の合間で千夏が言った。


  電車がスカイツリー駅に着いた。


  ふたたび春人を背負って駅に降りたつ。


  3人がホームに足を踏み入れたと思った瞬間、人影が消えた。ヘンテコ世界だ

  ヘンテコ世界では春人の姿は変わるのに、なぜか今日は背中の春人は変わらなかった。

  桜山周子と会った広場のベンチに、春人を寝かせた。春人は現実世界よりぐったりしている。

 

  千夏が心配そうにつぶやく。

「攻撃が当たった影響で、変身できなくなってるのかも。連れてこないほうがよかったかな」


  俺は大きく息を吸い込んだ。

  春人の胸元に手を当てて、大声で叫ぶ。

「春人、戻ってこい!」


「この世界を閉じるって言ったのは春人だ!春人、お前ならできる!いや、お前しかできないんだよ!俺たちも協力する!」


  滑稽だ。でも、俺はこれをやりにこの世界に来たんだ。

  春人は変身能力、千夏は視覚と炎攻撃。そして俺は?この世界では最弱の俺だけど、言霊の力が俺の能力と仮定している。


「春人の力が必要なんだ!頼むから戻ってこい!春人!」


  無我夢中で言葉を探していた。


「俺たちは強い!桜山周子を救え!」


  最後の言葉は、自然と口から出てしまった言葉だ。何を言ってるんだ?自分。



「誰を救うの?」


  黄色の髪の少女が、いつのまにか近くに立っていた。

  一度会ったことのある少女。前に会った時は黒髪だった。髪の色が変わるのは世界の色彩の影響だ。


「もしかして、桜山周子ちゃん?」


  千夏が問いかける。そういえば、千夏にとって周子は初対面だった。


「ええ。あなたは?」

「あたし、猿渡千夏!春人に聞いてからずっと会いたかったんだよね。周子ちゃん、よろしくね!」

「そう。よろしく」


  千夏チャンが周子チャンに飛びつきそうな勢いで自己紹介をした。

  おいおい、千夏チャンはそいつを警戒しないのかよ。明らかになんか知ってるぞ、その子。


「春人はどうかしたの?」

  桜山周子が質問する。あれ?状況教えてなかった?


「前回、黄竜から攻撃を食らってずっとこの状態なんだ。治す方法知ってる?」


「いいえ」


  拍子抜けだ。何かを知ってそうだと思っていたのに。


「でも、あなたの言葉からのアプローチは正解かも。あくまでわたしの仮説だけど。わたしの仮説、聞いてくれる?」


「もちろん」


「あなたが春人からどのくらい聞いてるか知らないけど、そもそもの話からするわね。この世界は『鄒子』という現代に伝えられていない書物の力によってできている。そして条件が揃うと発動する。

  この世界の基本的な力は五行思想に基づく。

  水金土火木。

  5つのエレメントに1人ずつ選ばれた人間は、それぞれの力を持つ。

  春人が木、あなたは金、彼女が火、わたしが土」


  五行思想。高校の倫理で習ったような記憶がある。


「それぞれの力は、五行の思想によっている。木は貌。変貌の貌。火は視。目で見る視覚の視。金は言。ことばの言」


「周子チャンの力は?」


「教えない。自分で調べたら?大学生のオニイサン」


  ん?俺、試されてる?周子チャンまで俺にあたり強くなくなくない?ま、いいけど。

  俺の力はことばの言。

  今までのことを考えると、当たっている。


「たしかにキミの仮説は正しいのかも。俺はキミの仮説を信じるよ。だから、もっと教えてほしいな」

「わたしの仮説は、間違っていることも多いけど。でも、仮説を信じるって言ってくれたお礼にあなたの魔法のアドバイスをあげる。これも仮説だけど。

  いままでの言葉は本気度が足りない。願いにノイズが多いの。天に向かって魂で叫ぶの」


「天に向かって魂で叫ぶ」


  なるほど厨二病だ。この世界では現実世界ではカッコ悪いと思われていることがきっと強いんだ。

  ヨシ!厨二病全開だ!成人したから封印しているだけで、俺の得意分野じゃないか。


「俺は強くなる!絶対に春人を取り戻す!いでよ!白魔法!」


「あは……気の毒な能力だね」


「千夏チャン!足引っ張らないで!

  続けるよ!

  白魔法ケアールガハルトスペシャル!」


「なにそれウケる」

「あくまで仮説だけど、そういう掛け声は要らないと思うわ」


「2人ともひどいっ」


「ふつうに、起きろ!とかでいいと思うわ」


「起きろ!春人!周子チャンが来てるぞ!周子チャンも千夏チャンも俺に超絶キビシイんだけど!助けて春人!」


  春人の口が開いた。


「はくしゅう……を、たすける……?」


「そう!助けてくれ、春人!」



  春人の身体が光に包まれる。

  黒い羽根が生えて、変貌を遂げる。


「やった!回復した!俺の魔法、成功した!」

「春人!よかった!もー、心配しちゃったじゃん」


  喜ぶ俺と千夏チャンの横で、ただひとり桜山周子が厳しい顔をしていたのを俺は見逃さなかった。


  何か、秘密を隠している顔だ。

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