リア充怖い【視点:榎元春人】
昨日、白秋が家に来た。
家まで来るとか怖えよ。恐怖だよ。アポとれよ。
だからリア充ーー、人んちに土足で上がるような人間は苦手なんだよ。靴脱いでたけど。
あの世界で黄竜からの攻撃を受けてしまったあとからは、もう何もヤル気がなくなってしまった。
巨大怪獣との圧倒的なレベル差。
不毛な戦い。
その日自分は世界を閉じようと思っていた。だけど、もうなにもかもどうでもいい。自分が埼玉県から出なければ良い話だ。
散らかった部屋に竹簡が投げ出されている。
全部、ニセモノだ。
あの世界での自分の力も。
白秋や千夏との友情も。
桜山周子と出会ったことも。
なかったことにしてしまえばいい。
もう、近寄らなければいい。
そうすれば、自分が傷つかずに済む。
自分はずっとニュースサイトを見ていた。ネットの海は頭を空っぽにできる。完全なる傍観者。当事者になることはない。
薄暗い部屋で、電話が鳴った。
非通知設定の着信だ。
自分はほぼ確信した。
桜山周子だ。
あんなに会いたいと思っていた相手も、いまではもうどうでもいい。
電話を取るべきか取らざるべきか。
過去の自分であれば、変な答えをしたらどうしようなんて自意識過剰な自我が邪魔をしていた。電話に出なかったかもしれない。
しかし、今はそういった外面についても本当にどうでもいい。
出ない理由はない。
「はい」
「春人?桜山です」
「周子……サン」
数日前まで、聞きたいことは山のようにあった。
話したいこともたくさんあった。
でも、何から話していいかわからないし、本当にもうなにもかもがどうでもよい。
「春人。もう東京には来ないで」
「どうして」
「あの世界のことは、わたし1人で解決する」
周子はなぜか苦しそうな声をしていた。
「そっか。自分はもう東京へ行くつもりはないから」
「そう。それなら問題ないわ。さようなら」
「さようなら」
電話が切れた音が、脳内で虚しく響く。自分は桜山周子に会って何を聞きたかったのか思い出せない。その頃の自分からしたら、今の自分は千載一遇のチャンスだったはずだ。
逃してしまった。
自分にはあると思っていた、知る権利。
でも、もう関わりたくないんだ。
気持ちが全く動かないんだ。