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転生魔導師奇譚  作者: Hardly working
第一章
42/47

vol:40 転生魔導師と戦利品

登場人物に変更がない為省略します。



お仕事無くなっちゃったからHardly WorkingじゃなくてNo workingになってしまいました

 ダンジョン最下層に鎮座するミスリルゴーレムを撃破した。

 撃破と言えるような撃破ではないが、戦闘不能に陥らせたので私の勝ち。

 ということで、さっそくゴーレムの中身を見て…の前に、拘束を解除して動かないかどうかの確認。

 まあ制御回路を物理的に切ってあるので、動くことはないとおもうけど…。


「うん、よし。行こう」

「え、大丈夫なのか?死んだふりとかしてない?」

「そこまで高性能というか、ずる賢いことをすることはないと思う」


 ということで、三人を伴って下に降りる。しっかり落下制御をしておいたけど、セナがなぜか着地でコケてしりもちをついた。


「何遊んでんの?」

「遊んでるわけじゃないわ!!」


 と、ニアがセナを揶揄(からか)うのを放置して、ナーシャとともにゴーレムだったものに接近する。

 ふむ、完全に動作を停止している。核となる魔石を抜けば、各部位の接合用魔方陣なんかも切れて、関節ごとに外せるだろう。


「そういえば、あまり魔法を使わずに倒したと思うんだけど、なんで?」

「へ?魔法?がっつり使ってたけど?」

「あ、そうじゃなくて、攻撃系の魔法って使ってないでしょ?」

「あー、それね。見ればわかるよ。セナ!棒造るからこのゴーレムぶっ叩いてみ。手首気をつけてね」


 ニアと口論を続けるセナを呼び、石で棒を造って叩かせるが、傷はもちろん凹みの一つも生じない。


「かっっっっっった!!!なにこれ!!」

「ミスリル。魔力で変質した銀だよ。鋼鉄よりも硬いから薄く作っても強度を損なわずに軽量化できる。ま、もともとが銀だからすごい高いけどね。腕一本とか足一本でもかなりの値が付くよ。多分」

「じゃあ攻撃系の魔法を使わなかったのは…」

「こいつの強度に真正面から対抗できて、ダンジョンの中で使っても問題がない魔法って結構限られちゃうんだよね。だから制御回路を溶断して倒したってわけ。明確な攻撃系の魔法だけが敵の倒し方じゃないってこと。さて…」


 ゴーレムの作り方にはかなりの種類がある。駆動系制御回路の組み込みと出力増加、それらの回路を合わせて結果的に肉付きを増やし、重量を増やすことで破壊力を上げるタイプ。逆に回路をすべて外装に刻み、極限まで軽量化を図って速度を上げるタイプ。基本はこの二種だが、製作者の癖や回路をどこまで緻密に作成できるかによって大きく異なってくる。

 今回のゴーレムは後者に近い。溶断した首元は空洞になっている。


「んしょっと」


 その空洞に手を突っ込んだ。狙いは内部のコアである。

 ゴーレムのコアは胸か腹部のどちらかに設置される。循環の効率や防御の面を考えてだ。

 このゴーレムは上半身と下半身をつなぐ腰のパーツが上下二つあり、人間のような可動域を作り出している。そのおかげで激しい動きができるようになっているのだ。

 非常識なゴーレムだが、常識的に考えればそんな激しく動く部分にコアは取り付けない。であれば、胸部にコアがあるはずなので、手を突っ込めば取ることもできるでしょ。

 手首くらいまで突っ込んだあたりで取っ掛かりに手が触れた。なんだろうこれ、木材?いや、もっとツヤのあ――



 あれ、なんで私地面に頭ぶつけてんだろ…。あ、おでこめっちゃ痛い。遅れて痛みが来てる。あ、音もなんか遠くから戻ってきてるような聞こえ方する。あぁ、これあれか。


 急な魔力損失による失神


「大丈夫、リズ!?」

「おいこれ何が起きたんだよ!?」

「わからないわよ!リズがゴーレムの中に手を入れたら倒れちゃったんだもん!」


 あー、急に倒れたからみんなびっくりしちゃってるね。


「…ぁ。だ、大丈夫…」


 ちょっとまだキテるところはあるけれど、ストックから魔力が戻ってきているので回復は速い。

 今何が起きたのかというと、ゴーレム内の「何か」に触れたところ、その「何か」に魔力を吸いとられて内在魔力が急激に低下、失神してしまった。というわけ。

 ただ、膨大な量の魔力を有する私が、なぜこの状態に陥ったか?

 これは純粋な話、私自身の魔力量はそこまで無いからだ。同年代のそれを大幅に上回るとはいえ、ストック量からすれば微々たるものだ。

 そして、ストックは私と直結しているとはいえ、引き出す量には限度がある。意識的に多く引き出して大規模な魔法に使うこともできるが、平時ではさすがにそんなことはしていない。

 結果、この様。


 私じゃなかったら死んでたわこれ。


 ま、死ななかったのでよし。

 ついでに今の一連で、何がコアに使われているのか分かった。


 ニアとナーシャに止められるも、私は再びゴーレムに手を突っ込んだ。今度はストックから引き出した状態で触れる。

 またも幾分か魔力を吸われたが、それも一時的なものだったようで、今は何ともない。

 では遠慮なく、とがっちり掴んで引っこ抜いた。


「リズ、何それ…」


 恐る恐る聞くニアに、手に持っている物を見せながら答えた。


「杖だね。しかもかなり危険な杖」

「危険?」

「さっき私が倒れたのはこれに触ったせい」

「それ大丈夫なのかよ!?」

「うん、もう問題は無いよ」


 そう言いながら軽く杖を振るった。

 150ゼルエンクくらいだろうか?今の私が隣に立ってちょっと大きいくらいだけど、ゴーレムの中に入っていたにしては大きさがおかしい気がする。

 磨き上げられた漆黒の杖の上部に、私の頭と同じくらいの大きさをした赤黒い魔石の球体が取り付けられている。何というか、色味がとても禍々しいの一言に尽きる。

 というか、この杖ヤバい。そもそもの魔力貯蓄量が半端じゃなく高い。私のストック2~3個分くらいはある。杖の素材も魔力の伝導率が異常なほど高いし、魔石は超高効率で魔力を練り上げる。

 長い間ダンジョンコアとして魔力を垂れ流し、最後にゴーレムの核として稼働したのだ。不足した分を最初に触れた私から吸ったのだろう。

 この性能は確実に杖と魔石が同一個体から採取されている。加工をしてこの大きさの魔石と、杖素材。

 ドラゴン…それも上位のドラゴンが素材だろうな…。


「ま、この杖は私くらいしか扱えないだろうしこのまま持ってくとして、このゴーレムどうしようか」

「どうって?」

「言ったでしょ、こいつはミスリル。すごい値が張る代物で、私達みたいな子供の冒険者がもっているなんて知れたら、どうなるか分かったもんじゃないわ」


 まあこれを言ってしまうと“こんな任務に子供の冒険者を送り込むギルドもどうなってんだ”って話ではあるけど。


「たしかに…強盗とかに会いそうだし」

「でもそこら辺の強盗ぐらいなら別に相手にはならないんだけどな…」

「まあ目をつけられない方が良いっていうのは確かだよね」


 うーん対策を考えるのめんどくさいな…いっそのこと誰かに投げてしまうか?

 誰に?

 まあまあ知り合いの、大人で、それなりに上の役職を持ってる人…。


 よし。


「『あて』が思いついた。ちょっと待ってて。」


 私はそう告げると、魔法の準備にかかった。

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